サクラの決意
私はアイシス様からようやく許可が出たので、ベットの主から解放された。
久しぶりにお風呂も堪能し、火掻き棒で素振りをしてからあまり装飾の少ない、淡い黄色のドレスに着替えてから非公式会議に向かった。今回の事件についてのことが話し合われるみたいだ。何度参加しても緊張する。
アルフリード第一王子と騎士団総長のクラウス・ルイス・ダイクレール、宰相のリュースイ・ダン・ボロヌイエールと、王太子付き補佐官のルーク・ジャン・ドレーラルと、ユーリス騎士隊隊長が参加しての非公式会議だ。
唯一、私が聖女である事と時を止める能力があるについて、知っている人達が一同に介した。まずすぐに宰相のリュースイ様が土下座をする勢いで謝ってきた。
ギルセナ王国からの間者であるクリスティーナを、ウェースプ王国に引き入れた事に非常に責任を感じているらしく、宰相の職を辞することも考えたらしいがアルに引き止められて断念したらしい。
「あの・・・宰相様。私は別に怒ったりしていませんので頭をお上げください。クリスティーナ様の転換の魔法の影響下にあったのですから、リュースイ様が悪いわけではありません」
私は宰相様の謝罪を辞退した。国で絶大な権力と情報網を持つ宰相様に、頭を下げられるのは申し訳なかった。私の台詞を聞いてアルが少し安心したように口元をほころばせた。
いや・・・アルには怒っているよ・・。宰相様はいいけど・・。だって宰相様はクリスティーナとキスしてないもんね。
やっぱりあのキスシーンは頭では分かっていても、思い出すと今でも気分が悪くなる。
ルーク補佐官様が国家間の現状を説明してくれる。
「現在ギルセナ王国は独裁者であるレンブレント国王を失い、残された者がその権力を奪おうと壮絶な争いをしています。この機会に乗じて王政反対派が力をつけてきています。諸外国に書面で通達した我が国の立場は承認され、今回のことはレンブレント国王が引き起こした誘拐であると認定されました。セシリア様は夜会にも数回出られていて、公式的にも我がウェースプ王国の令嬢だと周知されていましたから、そこは簡単でした」
ギルセナ王国も今は内部分裂しているから、亡くなったレンブレント国王を擁護する人もいなかったんだろうな。
私はブレント君のことを思いだしていた。レンブレント国王は非情な独裁者だったのかもしれないが、王城の庭で時々会っていた時のブレント君は、笑顔の可愛い普通の少年だった。でも、もうその少年はこの世にいないんだ・・・。そう考えると寒気がした。
この世界は私の住んでいた世界とは違う。人が簡単に死んでいくんだ・・。
一通り事の次第を皆が語り全ての状況を把握した段階で、今回わたしの救出を手伝ってくれた人達への報酬も話された。
こういう場は本当に、いたたまれない。私の家出が引き起こした騒動だ。それに対して沢山の人が陰で動いて、あまつさえ国庫から報酬まで支払われる。それは私の騎士訓練場の雑用係の給金より、桁の違う金額が話し合いされていて、罪悪感で一杯になる。
私が落ち込んでいるのに気がついたのか、ユーリが私のほうを見て微笑んでくれた。私も微笑んで返す。
一通り話し合いが済んで、アルフリード王子がみんなに話があるといった。何を話すのかと思ったら、衝撃的発言をした。
「オレはサクラのプロポーズを受けた。すぐにでも結婚式をあげたいと思っている」
はいーーーーー????!!!
この場に居る人達全員が、余りの衝撃に硬直する。私はすぐに気を取り直して、訂正をする。
「ちょ!!ちょっと!待ってください!私プロポーズなんて・・・」
アルがいたずらっ子のような笑みを浮かべて、いう。
「したよな。オレのことが大好きで、一生一緒にいたいって言ったのはサクラだ」
「・・・・・・・!!!!!!!??」
私は頭の先から足のつま先まで真っ赤になって、微動だにできない状態になった。こ、こんな沢山人がいる場でそんな発言するなんて!!
アルの衝撃発言から、なんとか正気になった宰相が考えを巡らす。
「この場合聖女のサクラだと公表して・・・いや、聖女の能力が諸外国に知られるのは困る。やはりセシリア譲としてルベージュ子爵家から嫁いでいただくのが最良か・・・。でも、それでは・・・・」
宰相がその先の言葉を濁して口ごもりながら、ユーリの方を見やる。ユーリは宰相の言いたいことを直ぐに理解したらしく、にこやかに答えた。
「ああ・・セシリアは私の婚約者と言うことでしたが、アルフリード王子の婚約者として発表していただいて構いません。私には婚約者に捨てられたという醜聞が当分付いて回るでしょうが、男性側なのであまり支障はでません。むしろ勲章のようなものです。サクラの決めたことならば、私に異論はありません」
そういって溺愛マックススマイルで、私の心を気遣ったのか私の顔を見つめながらいう。
ごめんなさい。ごめんなさい。ユーリ。でも私はアルを選んだんだ・・・。この胸の痛みは私が負うべきものだ。逃げないで受け止めないといけない。
ルーク補佐官様が場の空気を変える為に、わざとにこやかにおっしゃった。
「殿下は、やはりサクラ様を愛していらっしゃったんですね。なんせサクラ様救出時には余りの嬉しさに、普段は有能で冷静沈着な殿下が、私の存在を全くお忘れになっていたくらいですから・・・・ギルセナ王国から一人きりで帰るのは本当に楽しかったですよ」
その場にいた全員が同じ事を考えた。根に持っているな・・・ルーク補佐官・・。
私はこの機会に必ず言っておこうと思っていたことを、口にした。
「あの・・・一つだけ我がままを言ってよろしいでしょうか?私まだ騎士団訓練場の雑用係の契約がまだ半年以上残っているのです。なので契約期間が終わるまでは、雑用係を続けていきたいと思っています。淑女教育はその後でもいいでしょうか」
おそらくみんな私の発言に驚いて、びっくりした顔をするんだろうなぁ。と思って身構えていた私が顔を上げると、意外にも皆、温かい眼差しで私を見守っていた。
クラウス様がいう。
「そういうと思っていました。大丈夫です。後半年訓練場で働いてください」
私は思いがけない皆の反応に、驚きを隠せなかった。居住まいを正して、頭を下げる。
「ありがとうございます。私頑張ります!!」
結局、アルフリード王子との婚約発表はアルの意見ですぐさま行われる事になり、私はといえば最初の計画通り、普段はクラマとして騎士団訓練所の雑用係をし、ユーリの出征の時はセシリアとして王城に淑女訓練に行く事になった。
でも今回は王太子妃としての訓練に変わった。