アルフリード王子
戸惑う私に何も言わずに、その後2回ほど続けて転移魔法を使う。あっという間に私はアルフリード王子に抱きかかえられたまま、ウェースプ王国の王城に用意されたセシリア専用の部屋に来ていた。
見覚えのある白い花柄のテーブルに、可愛いらしい花を彫ってある椅子。書き物をするための小さな机。
「あの・・・アルフリード王子・・・?」
私と向かい合わせに無言で立ったまま自身の左手を私の右肩に乗せ、私の左肩におでこを乗せた。
何を言っていいのか分からないのでそのままの状態で待った。
どれくらい時間が経過したのか分からないけれど、突然アルフリード王子が切なさそうな声で言った。
「オレはお前を傷つけた。異世界にきて頑張っているお前を裏切った。オレが全部悪い。分かっているけれど、でも・・・嫌いにならないで欲しい・・・オレを拒絶しないで欲しい・・・」
あまりのアルフリード王子の尋常ではない様子に、私は慌てて否定する。
「嫌いじゃないし、拒絶もしてないよ!!助けに来てくれて嬉しかったし、今だって大好きだよ!!」
そのまま私は自分の両手を肩の後ろに回して、ぽんぽんと安心させるように軽くたたいた。まさかアルフリード王子が、そんなに私に言ったことで自分も傷ついているとは思ってもいなかった。
「でも・・・オレの事をもうアルと呼んでくれなくなった・・・」
ああ、そうだった。だってクリスティーナ様がいたから、恋人のいる人を愛称で呼ぶのは良くないと思ったからで・・・。そんな事を気にしていたのか。可愛い所あるなぁ。
「あれはクリスティーナ様がそう呼んでいたし、あの時はもうそんな関係じゃなかったから・・・」
そう、あのときのアルはものすごく他人行儀だった。また両手でぽんぽんとたたく。
「さっきユーリスにこのまま離れたくないと言っていた」
「いやそれは、助けに来てくれた人を差し置いて、私だけ王城に帰るのは悪い気がしたからで・・・」
本当にこの人、次期国王の王子様なのだろうか・・。どれだけ小さいことばかりを気にしているのか・・・。私はもう一度両手でぽんぽんと叩く。
「私こそごめんね。あんなふうに泣くつもりじゃ無かったのに、つい積もり積もったものを吐き出しちゃったっていうか・・・でもお陰ですっきりしたよ。今はもっと現実的に未来を考えようと思ってる。異世界で倉島流剣道の道場を開くとか・・・」
「ふっ、よく分からんが、全然現実的じゃない気がするぞ・・・」
あっやっと笑ったな。私は安心して今度は何度も両手でぽんぽんしながら言った。
「私は異世界に来て何度もアルに救われたよ。本当に感謝してるし、ずっと一緒にいたいと思ってる。もちろんアルさえ嫌じゃなきゃだけど」
私がそういうと、アルが突然私のぽんぽんしていた手の両手首を掴み、肩にのせていたおでこを上げて私の顔を覗き込んだ。
な・・なんか変な事言ったっけ?私・・・。
驚いたような顔で見ている・・。
「それはプロポーズなのか?」
ん?プロポーズ??ってなんの意味だっけ・・・。えっと結婚の申し込み?
「えっ!!ち・・ちがうっと、思う・・・」
近い近い!!顔が近い!息がまともにほっぺたにかかっている。できるだけアルの目を見ないようにしている私に構わず、至近距離から言葉を浴びせてくる。
「本当か?オレを大好きだってさっき言ったよな」
「・・・いった・・・けど」
さっきいったこと、覚えていたんだ。
「オレの事を好きなんだろう?だから王城からでていったんだろう?」
それはそうなんだけど、でも素直にそんなこと言える訳がない。自慢じゃないけど彼氏居ない暦、年齢分だから。
「いや・・・あの」
「正直に言った方がいいぞ。今なら優しく聞いてやる。オレが好きなんだろう?」
何で私が脅されるような形になっているんだ?!なにがどうなってるの?
「・・・・・・・・」
「オレのことが大好きで、一生一緒にいたいと思っているんだろう?」
もう限界だ!!頭の中がこんがらがって、訳のわからないことになっている。とにかく私の素直な気持ちを言っておこう!
「・・・・・・わ・・・分かった!!もういい!!正直にいうってば!!私はアルが大好きで、一生一緒に居たいと思ってる!!!」
やけくそで叫んだ途端に、アルが私を思い切り抱きしめて叫び始めた。
「やった!!やっと手に入れた!!サクラ!!愛してる!もう絶対に離さない!!」
普段は無表情で冷静沈着なアルが、気でもふれたかのように叫んでいる。私はといえば自分の告白も、かなり恥ずかしいのを頑張って告白したつもりだったが、その後のアルのあまりのはしゃぎっぷりに、アルの反応の方が次第に恥ずかしくなってきた。
「ちょ・・・ちょっと、もういいってば。声大きいよ。誰かに聞こえちゃうよ」
アルの胸と自分の体の間に腕をいれて引き離そうとしたけれど、あまりの力にすぐに諦めて叫んだ。
「もう!!アル!やめて!!恥ずかしいってば!!」
するとアルは私の言葉に反応したのか静かになったと思ったら、突然私の両頬を両手でおさえるとキスをしてきた。何度も・・・何度も・・・。
口付けの合間に何度も何度も、繰り返してアルが囁く。
「愛してる・・愛してる・・・愛してる・・・」
そんな状態のアルに何もいえなくなった私は、アルのされるがままキスの嵐を受け止めていた。
大好きだよ、アル。私の世界で一番大事な人・・・。
しばらくしてアルがキスをやめて、私の顔をじっと見つめる。目と目が合って、その深い青の瞳の中に私の顔が映っているのがみえた。自然と口元がほころんで微笑む。そのまま私は自分からアルの首にしがみつくようにして抱きついた。
「アル!大好き!!」
そう言ってそのまま力の限りアルを抱きしめた。
突然、意識が遠くなっていくのを感じた。あ・・やばい。そういえば私2週間ほとんど食べてなくて、この間やっとなにか胃にいれたばっかりだった。それからずーっと旅してて、もう限界?
私はそのまま安心するアルの腕の中で、気を失った。




