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浮気男のアルフリード

時計が動かないので、はっきりとした時間は分からないがかなりの時間が経ったころ、休憩の為、一度馬を止めた。私は王城でいた間を殆ど寝て過ごしていたので、全然眠くは無い。ただ体が鉛のように重いだけだ。


横になったまま目だけ開けてみると、目の前にアルフリード王子とユーリが揃って私のほうを見ていた。


「ここ・・・どこなの?もうすぐウェースプ王国に着きそう?」


私が聞くと二人とも少し眉をしかめた。ああ、そう。まだまだなんだね。私ってば一体どれくらいの距離を移動してきたんだろう。ユーリが教えてくれた。


「まだ国境まで半分も来ていません。時は止まっているから、魔獣の危険性は考えずに最短ルートを選びましたが、それでも国境まではあと半日はかかるかと思います」


「そう、ごめんなさい。二人とも疲れたでしょう?私も何か手伝いたいのだけど、体が思うように動かせなくて・・・」


私は肝心な時に役立たずな自分に腹がたった。やっぱりあの時、林檎も食べておくべきだったのか・・・。毒林檎っていうから、怖くて迷ったけど食べなかったんだよね。大体わたしのせいでこんな状況になってて・・・私がアルフリード王子とクリスティーナ様の仲を嫉妬したから・・・・。


私は今になって肝心な事に気がついた。


「ちょっ!!ちょっとアルフリード王子、クリスティーナ様を連れてくるの忘れてませんか?隣の馬車に乗っているんですよね!」


私は教会でユーリに抱きかかえられてアイシス様のところに連れて行かれた時に、ちらっと視界に入ったクリスティーナ様の姿を思い出して、蒼白になっていった。


まさかあれ程、仲陸まじかったクリスティーナ様をアルフリード王子が忘れて帰るなど、有り得ない!


「ああ、クリスティーナはギルセナ王国に返しておいた」


顔色も変えずにアルフリード王子が言い捨てた。私はあまりの衝撃に頭の中がパニックになりながらも、これだけは言っておこうと諭すようにいった。


こりゃいかん。さっき愛してるなどといわれて浮かれていたけれど、やっぱりこういうのはダメだ。・・・っていうか誠実な人だと思っていたけど、なんて浮気性の男だったんだ!!


「あんなに愛してるっていって、テラスで何度もキスしてたじゃない。そんな急に気持ちをころころ変えて突き放すのは良くないと思う。そういうの突き放されたほうは、ものすごく傷つくんだからね。アルフリード王子がそんなに浮気性なんて知らなかった」


私は込み上げてくる怒りをできるだけ押さえながらいった。ユーリがアルフリード王子の方を蔑むような目で見て言う。


「へぇ、何度もキスをしたんですね。それは良くないですね。責任を取って結婚したほうがよろしいんじゃないでしょうか。殿下」


焦ったような顔をして、冷や汗を垂らしながらアルフリード王子がいう。


「ちょっと待て!!そうかサクラはクリスティーナの正体を知らないんだったな。あの女は・・・」


会話の途中でユーリが私を抱き上げてしまったので最後まで聞けなかったが、私は浮気男の言い訳を聞きたくないので、そのままユーリに言った。


「その話これ以上聞きたくないので、もう説明は結構です。ちょっと外を散歩してきます。ユーリ、降ろしてくれる?多分なんとか自分で立てそう」


ユーリの腕の中から逃れて自力で立とうとする私を目で制して、ユーリが私を抱いたまま馬車を降りる。長時間、馬車を操縦して疲れているであろうユーリに、このまま抱っこしてもらうわけにはいかない。なんとしても自力で歩くぞ。そう決意した私はいった。


「ユーリ、自分で歩いてみる。どれだけ回復したか見てみたいし・・」


そういうと、少し寂しそうな目をしてから諦めたようで地面に優しく降ろしてくれた。結婚式用の白いハイヒールのまま地面に立つ。よし!大丈夫そうだ。そのまま顔を上げてやっと周りの景色が見たことも無い景色に変わっていたのに気がついた。


そこは日本で言うところの樹海みたいな場所で、道路はなんとかうっすら見えるものの、昼間だというのに空は生い茂った背の高い木から生える葉で辺りは真っ暗だ。地面を見てみるとこれまた訳の分からない植物が生い茂っている。


「この森には魔獣が住んでいるんです。普段は森から出てこないのですが、時々町に魔獣が下りて来て人々を襲うのです。どうして魔獣が町に下りてくるのか、その理由は誰にもわかっていません」


よ・・・良かったぁ。自力で帰るんだったら一人でこんな道通らなきゃいけなかったんだ。こんな恐ろしそうな道、一分でも無理!!


私はほっとして、ユーリに向かって言った。


「ユーリ、こんなに遠くまで私を迎えに来てくれてありがとう!」


次の瞬間、魂が抜けたような表情になったかと思うと、暫くして普段のユーリに戻ったらしく、いつもの溺愛マックススマイルがでた。


「サクラ、その格好。とても素敵です。黄色のドレスも似合っていましたけど、純白色もその黒髪に映えてものすごく綺麗です。惚れ直しました」


あ・・またでた。溺愛モード。私が照れて何と返したらいいのか思案していると、アルフリード王子が思いつめた表情で私の前に立ちふさがった。


ユーリの機嫌が一瞬で悪くなるのが見て取れる。アルフリード王子は私がまた拒否するのを恐れたのか、直接本題をぶつけてきた。


「クリスティーナは、ギルセナ王国のレンブレント国王が送り込んできた術士なんだ!」


「いや・・・でもアルフリード王子は美人局に引っかかったって事なんでしょう?結局送り込まれてきた美女に惚れてしまった・・・と言う事で間違いないのではないでしょうか」


「つつもたせ?何のことか分からないが、とにかく魔力でクリスティーナをお前と勘違いしたんだ」


アルフリード王子が焦った顔で言い訳をする。焦れば焦るほど私の機嫌は悪くなる一方だった。


「いや・・・でも私の名前は間違いなく覚えてたし。図書館で会っていたことも、聖女だって事も覚えてたと記憶してますけど?しかも思いっきりゴミでも見るような冷たい眼で、クリティーナに何かしたら聖女であろうとも容赦しない!!とか何とかも言われました」


今考えると酷いいわれようだ。怒って逃げるのも致し方ないと思う。


「あの時の目には憎しみが満ち溢れていたというか、蔑みと嘲りが同居した表情だったっていうか・・・」


そうだ・・・あの時、アルフリード王子が私に言った言葉・・・表情・・・口調・・・全てに憎悪を感じた。


私はあの時の気持ちを思い出して、なんともいえない気分になって、自然と涙がこぼれてきた。ああ、だめだ。もう止められない・・・。


「私だってこんな世界に来たくて来たわけじゃないのに、勝手に聖女だって言われて捨てられて殺されかけて・・・それでもなんとか自力で生活できるようになって、心を許せる人たちも一杯できてこれから頑張ろうと思ったときに、一番大切な人に裏切られて憎まれて怒鳴られて・・・」


そんなことを二人に言ってもどうにもならないのは、頭では分かっているけどもうどうにも止めようのない感情が溢れてだして止まらない。


「私まだ17歳の子供だもん!向こうの世界じゃまだタバコだって吸えないし、お酒だって飲めないし、結婚だって親の承諾がないとできない子供なのに・・・。帰りたいよ。友達にだって会いたいし、映画に行ってカフェでお茶してプリクラ取ったりしたい!!もう、やだーーーー!!」


私は感情的に泣く女は嫌いだったし。どうしようもない事を嘆くのは、愚かな行為だと思っていた。だから自分が他人の前で号泣して、叫ぶなんて思っても見なかった。異世界に来て半年。初めて自分の感情に向き合った瞬間なのかもしれない。


私は子供のように《帰りたい》と連呼しながら泣きじゃくった。どうしようもない痛みが胸に広がる。



帰りたい!帰りたい!おじいちゃんにだってもう一度会いたい!!



そんな時、二人が同時に私の体を抱きしめた。


泣いて温かくなった体に二人の体の熱が伝わり、更に温かくなる。


私は更に大声を上げて泣いた。


体中の水分が枯れるかと思うまで・・・。

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