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サクラの釈明

「・・・・ってことがあって、森をでたら逃げ出そうと狙ってたんだけど、ようやく都会に連れてこられたと思ったら、なんだかお城の中みたいで、そうしたらブレント君が急におじさんになったと思ったら目の前で人が死んで倒れて・・・」


私は現在ギルセナ王国の王城の教会の真ん中で花嫁衣裳に身を包み、アルフリード王子とユーリ、クラウス様を前に必死に釈明をしている最中だ。


周囲は戦いの風景のままで止まっている。爆発で崩れた壁や彫像。ステンドグラスの欠片が所々に散らばって、その色とりどりのガラスに光が反射しているのが見える。必死の形相で剣を握り向かっていくままの状態で止まった兵士や、逃げようとしている人達が不自然な動作のまま時を止めていた。


「なんとか麻薬が効いているふりをしながら、貰い続けた飴を食べたふりをして、ソファーの隙間に押し込んだり。あのひげもじゃになっちゃったブレント君の言いなりになってるふりしたり、大変だったんだから。そうしたら何故か花嫁衣裳を着せられて、教会に連れてこられたんで、誓いのキスの前には時を止めてやろうと思って待っていたの」


そう。そうしたら、目の前に突然ユーリが現れてアイシス様・・・あっ!!


私はレイブレント国王に突き飛ばされて倒れたままのアイシス様が気になり、アイシス様の方を振り返った。その私の様子に気がついたらしいアルフリード王子が私に言う。


「アイシスは大丈夫だ。頭を打つ直前に、防御魔法で膜を張っていたのを見た。おそらく気絶したふりだろう。彼女の魔力は戦闘には向かないからな。とっさの判断だろう。アイシスらしい」


そうなんだ。そういえばここから少し見えるアイシス様の口元が少し笑っているようだ。さすが女王様。抜け目がない。


「2週間もあの狡猾なレンブレント国王を騙し通すなんて、すごいですねサクラ」


ユーリはいまだに座り込んだまま、自身の膝の上に私のお尻を乗せて背後から抱きかかえるような体勢でいる。そうすると自然にユーリの顔は私の頭の左上部にあるわけで、あまりに近い声に動揺する。


「そ・・・そうだよ。目の焦点を合わせないように過ごすのは、本当に大変だったんだよ。ふらふら歩かなくちゃいけないし、基本ベットで一日中過ごしてたから、筋肉も弱っちゃったし。そうしてたら、もう演技じゃないくらいに本当に衰弱して、今じゃあ本物の麻薬中毒者と同じ動きになっ・・・・」


ぐぅぅぅぅぅぅーーーーー!!!


私が言い終わるかどうかの内に、静寂の中。私のお腹の音がすざまじく鳴り響いた・・・。私は一瞬で耳まで真っ赤にして、泣きそうな声になっていった。


「お・・・お腹へったよ・・・・。うぅ。食べ物にも薬が入っているかもしれないから、この2週間ゆで卵とオレンジしか食べてないの。もう・・・限界・・・」


私はそのままユーリの腕の中に倒れこんだ。その様子に血相を変えた、アルフリード王子とクラウス様が食べ物を探しに教会の外に出る。ユーリはその間私の顔をじっくり見ながら、頬に手を何度も撫で付けた。愛おしそうな目で見つめながら、静かな声でいう。


「帰ってきたら君がいなくなっていて、心配しました。良かったこうして無事で会えて、とても嬉しいです」


罪悪感がふつふつと沸いてくる。私はユーリからも逃げたのに・・・何もかも捨てて新しい生活を始めようとしたのに私を責めたりしないで、あいも変わらず溺愛してくれる。


私はチクンと痛む胸を押さえた。


そこに食べ物と飲み物を持ったアルフリード王子とクラウス様が戻ってきた。久しぶりの食べ物に、力が入らない上半身を無理やりおこして、パンに手を伸ばす。指が震えてまともにパンを握れない。すぐにパンが地面を申し訳なさそうに転がっていく。


やばい、これは完全なる栄養失調状態だ。そりゃ2週間もほとんど飲み食いしていない。でもここで私が倒れたら、この3人は時が止まったままで、私が意識を取り戻すまでここで過ごさなくてはいけない。そんな事態は何が何でも避けなければいけない!


私が心底情けない顔をしたらアルフリード王子が突然、肉で作ったムースみたいなものを私の口にスプーンを使って押し込んだ。それからはまるで赤ちゃんごっこのようだった。ユーリの膝の上で横抱きにされたまま、アルフリード王子に食事を与えてもらう。


後で考えると羞恥心で悶えてしまうような状況だったが、その時の私は食べ物を胃の中に入れることしか頭に無かった。


ようやく胃の中が満たされて満足し、顔を上げたところにアルフリード王子とクラウス様の視線が私に注がれているのを見て、恥ずかしさがこみ上げてきた。すぐに目を逸らしてうつむく。


アルフリード王子が私が回復したのを見て安心したのか、小さい溜息をついてから言う。


「まだ疑問が残っている。サクラ、どうしてオレ達がいるって分かったときにすぐ時を止めなかったんだ?オレ達がいれば問題なくウェースプ王国に帰れるだろう」


私はうつむいたまま、何も答えなかった。そうしたらユーリが畳み掛けるように同じ質問を繰り返す。


「そうですね。私達が時を止めてくださいとお願いしたときに、どうして止めてくれなかったのか気になります」


私は観念して、当時の心境を語る事にした。いかん、顔が真っ赤だ。


「いやーーーそのーーー。あの時、アルフリード王子が真剣な顔で、いろいろ言ってたから・・・その・・全部聞いてしまってからにしようと思ってね。へへへ」


「殿下。何をおっしゃったのですか?私は教会の後ろでヘルミーナと戦っていたので、聞いていませんでした」


私はできるだけ軽い調子で言い放ち、笑ってごまかそうとしたのに、クラウス様が私がごまかした部分を、直接聞いてきた。


この堅物騎士団総長!!空気を読め!!


次はアルフリード王子が頬を染める番だ。無言で顔を赤くしたアルフリード王子に、なんとなく察したクラウス様はにやりと笑って、生暖かい目で彼を見つめた。


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