ユーリとアイシス様と川で泳ぐ
その後、私はアイシス様から私の軽率な言葉に対して、たっぷりお叱りを受けた。私の台詞を聞いた後のユーリス隊長の顔が、今まであまたの戦線をくぐり抜けて来た彼が一度も見せたことの無い絶望感に満ち溢れていたからだ。
「この、おばか!!」
女王様のいつもの罵声が飛んでくる。申し訳ありません・・・。いつものように平身低頭で謝る。
「あたくしがユーリス様がいない間は、貴方の面倒をみるっていう約束になっているのよ。それがこんな事になってしまって・・・。ユーリス様を怒らせると怖いのよ。あの方、キアヌス様を前線に送ることくらいしでかしそうだわ。あとちょっとで婚約まで持ち込めそうなのに・・・」
そういってその両腕を体の前で組む。その溢れんばかりの胸が、ことさらにその存在を主張する。林檎どころじゃない・・・これはメロンだ・・。メロンが二つだ・・!!
「クラマ・・・。あなた罪滅ぼしに、夜9刻になったらまたあの場所にいらっしゃい。来るのよ!来なさい!!来い!!」
はい・・・分かりました。女王様・・・。
私は早速、食後に自室で少し本を読んだ後で、今日の昼泳いだ川に向かった。そこにはユーリとアイシス様が、まだ9刻にまでは時間があるというのにもう来て待っていた。もう辺りは真っ暗で空には満天の星空が広がっていた。
「遅いわよ!クラマ!わたくしが9刻といったら、その半刻前には来ておくのが常識でしょう?キアヌス様なんていつも2刻前には来ているわよ」
うわぁ。このカップル・・・。かなり強烈だ・・。だが賢い私は声には出さなかった。アイシス様があいかわらず私の返事も待たずに続ける。
「ほら、これに着替えて、髪と目の色も戻してあげるから今から泳ぐわよ」
そういって白のフリルの付いたとても小さい布地を私に差し出した。
こ・・これは・・・もしや・・。
震える手でその小さい布地を広げてみると、それらがビキニのようなものである事が分かった。アイシス様がいつも通りに私の意見はがん無視で美容魔法を使い、髪と目の色を本来の黒色に戻す。ついでに髪の毛の長さまで腰までの長さにしてくれた。
っていうかビキニなんて、向こうの世界でいた時ですら着たこと無いんですけどーー!!ビキニを手に、顔面蒼白になった私を見るに見かねて、ユーリが口を挟もうとする前にアイシス様が先手を打つ。
「ユーリス様、あっちを向いていてくださいませ。女性の着替え中ですわよ」
といってユーリがまだ私のほうを向いたままだというのに、私の服をひっぺがしにかかった。ユーリが勢いよく反対側を向く。私はといえばこうなった女王様に逆らえるはずも無く、見る見るうちに白いフリルの付いたビキニを着させられていた。
あまりに布地が少なくて、着ている感じがあまり無い。アイシス様は私を上から下まで眺めて、満足した顔をしてふっと笑ったかと思うと、おもむろに着ていたワンピースをお脱ぎになる。アイシス様はとてもお似合いの赤い色で光沢のある素材のビキニを、その下にお召しになっていらっしゃったようだ。思わず思ったことが口をついて出る・・・。
「じょ・・女王様だ・・・!」
私はこれまでの経験上、女王様の考えた策に逆らえるはずはないということを知っていた。なのでここは楽しまなきゃ損と思いなおして、我先に川にはいった。私が泳げないのではないかと思っていたユーリがすぐに心配そうな顔で振り向くが、そこは川の浅瀬でまだ私の腰くらいの水の高さしかなかった。
「ひゃっ!冷たいっ!でもすごく気持ちがいいですよ。早くユーリもアイシス様も来てください。誰が一番早く泳げるか競争しましょうか!」
こうなったら夜の水泳を楽しもう!きっとアイシス様のことだから、誰もこれないように結界もはってあるに違いない。なんていったって王国内で14人しかできない転移魔法を操れる位の魔力の持ち主だ。
私はまず水の中に潜ってみた。そぅっと目を開けると月の光が筋になって水面から川の底まで照らしている。その先には何匹かの魚が泳いでいるのが見えた。水面には木や葉っぱの陰が写っていて揺れている。初めて見る幻想的な光景に感動した。
ふと隣に気配を感じたので見てみると、そこにユーリの群青色の二つの瞳があった。水の中でその栗色の髪を揺らしながら月の光に照らされた顔は、いつも通りに柔らかい笑みをたたえていた。私も思わずにこりと微笑みをかえす。
その夜は3人で夜の水泳を楽しんだ。アイシス様が実は全く泳げないと知って心底驚いたが、女王様にも弱点があったのだと思い、少し顔がにやけた。すかさずアイシス様の手刀が頭に飛ぶ。
「この、おばか!!」