レンブレント国王との拝謁
ギルセナ王国へはあまり問題も無く、予定通り3日で着いた。ウェースプ王国から数十名の厳選された兵士を連れて、あまり大国としての威厳を主張し過ぎない程度の人数に絞った。
アイシスはクリスティーナの侍女として一緒に来た。彼女ならクリスティーナの監視に最適だろう。キアヌス騎士とマリス騎士、ヘル騎士は騎士とではなく、アルフリード王子を守る近衛兵として・・・そしてクラウス騎士団総長とユーリス騎士隊長はダイクレール公爵家としての名で、参加する事になった。
国境を越えギルセナ王国領に入ると、一番に目に付いたのは国民の貧しさだった。魔獣の頻発する森が多数ある地帯が殆どのギルセナ王国は、殆どの町がその襲撃で疲弊していた。その上、王の圧制で税金も高く国民の不満がつのっているように感じた。
首都に近くなればなるほど、街も豊かになっていった。最後に着いた王国の首都、ユリバラでは結婚祝ムードでかなりにぎわっていた。沢山の国民が押し寄せ、口々に祝いの言葉を述べる。
ギルセナ王城は豪勢で緻密な飾りで全体を装飾していて、横に広がっているタイプの城だった。建物の間には美しい庭園や噴水が作られていて、まるでお伽の国の妖精の城のようなイメージだった。
王国に着くと、すぐさまレンブレント王との拝謁の儀が執り行われた。
アルフリード王子とクリスティーナにクラウス騎士団総長、ユーリス騎士隊長とキアヌス騎士とマリス騎士、ヘル騎士が拝謁の場に通された。
そこは10メートルほどもある吹き抜けで、豪華な装飾がされていた。段上には王の座る椅子が用意されていて、そこにレンブレント国王が豪華なマントを着て座っていた。アルフリード王子らの紹介を拝謁係の者が言い終えると、さっそく国王が口を開いた。
「アルフリード王子、良くいらしてくれた。本来ならセリーヌもこの場に居るべきなのだが、この後の結婚式の支度が押しているらしい。女性の支度は本当に時間がかかって困りますね。申し訳ない。結婚式にはセリーヌの美しい姿を見せてあげられるので、楽しみにしておいてください」
さすがその声にも体からも、数々の政敵を打ち負かして、一代で男爵位から国王にまでのし上がった才覚と威厳に満ち溢れている。アルフリードがへりくだりすぎない程度の礼をしてから、堂々とこたえた。
「そうですね、レンブレント王。私のクリスティーナも支度には時間がかかります。お互い女性には苦労する運命なのでしょうか」
そういってクリスティーナの腰に手をやり抱き寄せる。この行動には彼女に対する威嚇の意味もあった。彼女は一瞬怯えたような表情をしたが、見て見ぬふりをする。おそらく自分の主人に対しての畏怖であろう。
レンブレント王との会見を滞りなく終え、パーティー会場に通される。教会で結婚式が行われる時間まで、ここで盛大なパーティーが催された。王国の粋を集めたその装飾品の数々に、この国が魔獣の襲撃で疲弊しているとは、到底うかがい知れなかった。
贅沢の限りを尽くしたもてなしであるが、あまり楽しめない様子だった。皆一様にセシリアのことが心配であった上、結婚式が始まれば戦いも始まる。その事に気を取られて、ヘル騎士でさえ緊張の面持ちでろくに料理に手を付けられなかった。
マリス騎士を除いて・・・。
マリス騎士はところせましと並べられた、豪勢な食事を堪能していた。なんでも死ぬかもしれないからこそ、今食べておくのだそうだ。みんなこの時とばかりはマリス騎士の図太さに、羨望の思いを抱いた。
アルフリード王子はクリスティーナと他の客と会話をし、クラウスとユーリスは会場の兵の配置を見て、戦いに備えた。
キアヌスは壁際に目立たないように立っているアイシスの隣に立って、その手を握っていた。
「大丈夫です、アイシス様。私が必ずお守りします」
キアヌスは気丈に振舞うアイシスの手が、緊張に震えているのを知っていた。戦いが始まる前にどうしても言って置きたい事があったのだ。
「わたくしは守ってもらわなくても、自分で自分の事くらいは守れますわ。それにいつも言っていますけれど、貴方の怪我はわたくしが治します。なので怪我をなさるのは禁止ですよ。できるだけわたくしの魔力はセシリアの為に温存しておきたいですから」
未だ小刻みに手を震わせながら強がるアイシスにむかって、ふっと優しそうに笑うと、キアヌスはアイシスの耳に口元を寄せて囁いた。
「これが終わったら。私は貴方に是非お伺いしたいことがあります。聞いていただけますか?お願いします」
アイシスの顔色がさぁっとピンク色に変わった。おそらく勘のいい彼女には分かったのだろう。キアヌスがアイシスにかしこまって言いたい事があるという事は、すなわち・・・。
アイシスは気付いていない振りを装って、努めて冷静に言い放つ。
「聞いてあげないこともないですわ。いえ是非聞きますから、絶対に聞くので、必ず無事でいると約束してください」
キアヌスは笑って彼女の手の甲にキスをすると、離れがたいといった仕草をし、その後でユーリスの元に向かった。
残されたアイシスはその胸の高鳴りを、誰にも気付かれないようにするので精一杯だった。




