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アルフリードの覚醒

なんだろう、最近寝覚めが悪い。起きているのにいつも寝ているような感覚だ。目の前にいる愛するクリスティーナの顔を見ても、あの時の彼女の顔が思い浮かんで消えてくれない。オレが傷つけた彼女。今にも泣き出しそうなのを堪えていたあの表情が、脳裏に焼きついて離れない。


「アル・・・どうしたの?まだユーリス様に殴られたところが痛むの?」


クリスティーナが心配そうにオレの顔を覗き込む。


昼の強い日差しが照りつけるテラスで、オレとクリスティーナは早めの昼食を終えて、ベンチで休んでいる最中だった。


サクラの捜索や最近また増えた魔獣の襲撃で忙しい政務の間を縫って、やっと作った彼女との時間を、こんな事で台無しにしてはいけない。


オレはクリスティーナの顔を見つめる。そうだこの顔だ。黒い髪、黒い瞳・・・だけど彼女と話していても、その内容はオレの心には一つも響かないものだ。以前はそうではなかったような気がする。そう・・・たとえばあの図書館のベンチでした話とか・・・。


「なんだかお疲れのようですね。無理もないわ。あのユーリス様がアルを裏切るなんて・・・ショックだったんでしょう?」


「いや・・・サクラの事は、オレに非がある。オレが間違っていた。ユーリスに殴られて当然だ」


クリスティーナは可愛らしく小首をかしげて、歌うようにいう。


「なぜ?貴方が間違うことなんてあり得ないわ。アルは王国始まって以来の天賦の才能を持った方よ」



「・・・・クリスティーナ。オレだって間違うし、努力をし続けなければこの王国を統治なんてできない」



「いいえ・・貴方は完璧なこの国の王様になるわ。そんなに謙遜なさらないで。私そんな貴方にふさわしい女性になるように頑張るわね。ふふふ」


オレはかなり頭が混乱してきた。このクリスティーナは、ついこの間オレに努力したんだね・・頑張ったねといってくれた女性と同一人物なのだろうか?


また頭が痛くなってきた。なんだこの感情は・・・幸せな筈なのに、とても悲しい気持ちになる。


また彼女の顔が浮かんできた。やめてくれ!どうしてオレの心を支配するんだ!もう開放してくれ!・・・・クリスティーナ!!!


オレははっとしてクリスティーナの顔をもう一度見る。違うこの女じゃない!オレが愛したのは・・・愛しいと思うのは・・・その顔や声を聞きたいと思うのは、クリスティーナではない!!どうして忘れてしまえたのだろう。



オレの愛する女性は・・あの恥ずかしそうな顔で笑う・・・サクラだ!!



オレはクリスティーナの両肩に手を置いて、寄りかかろうとするクリスティーナの体を引き剥がした。


「また覚醒したのね・・・大丈夫よ私は貴方の敵ではないわ」


聞こえてくる彼女の声はまるで妖精の囁きのようで、耳から全身に痺れが広がっていくのが分かる。全身に痺れがいきわたる直前、オレは彼女を己の傍から力の限り突き飛ばした。


小さい悲鳴が聞こえたが、いまだに痺れが残っているため体を自由に動かせない。


いま動かなければ、また彼女の術中にはまってしまう。そうしたらオレはまたサクラを傷つけてしまうかもしれない。もう二度と彼女にあんな顔をさせるわけにはいかない!!


動かない体に意識を集中するが、かろうじて左手の指が数本動いただけだった。クリスティーナを睨みつけるが、それにも構わず彼女はオレの方に歩みを進めた。もうだめだ!と思ったとき、助けが現れた。



「はーい、女狐ちゃん。現場を押さえたわよ。観念して毛皮になっちゃいなさい」



「せ・・・聖女様!!」


クリスティーナが驚いて呟いた。無理もない。訳の分からない台詞を言いながら突然テラスに現れたのは、茶色のカールのかかった髪をふわりと揺らしてピンクのフリルのドレスを着て背後に3名の神官を携えた・・・聖女ユイカだった。


思っても見なかった珍客に、クリスティーナは一瞬驚きを見せたがすぐに冷静さを取り戻し、ユイカの背後の神官に手を伸ばそうとした。するとユイカはそれを止めようともせずに、笑いながらこういった。


「諦めた方がいいわよぅ。もう王城には助っ人が来ているころだし、たぶんアルフリード王子だけじゃなくて、他の男も正気になっているかもね。くふふ」


ユイカの台詞にもひるまず、クリスティーナは沈黙を保ったまま一人の神官のこめかみに指をあてた。その瞬間ユイカが続けていう。


「そろそろ魔薬が効いてくる頃じゃないかしら・・・時間差のあるほうの薬をとってきたんだったんだけど・・・。まあいいわ。力を使えば使うほど、あなた死んじゃうんですってね。彼一人位なら私も構わないわ」


今度はクリスティーナもユイカの台詞に反応して、信じられないといった顔でユイカを見る。無言で頬笑み続けるユイカを見るクリスティーナの目が、徐々に驚愕の表情になっていった。なにやら異変に気がついたようだ。


今にも転換の魔法をかけられそうになっていた目の前の神官が、クリスティーナの右腕を掴む。


「そろそろ自分の声が奪われた事に気がついたかしら?これ・・・セイアレスの魔法棚からとってきたんだけど、即効性じゃないやつ・・・。貴方の食後の紅茶に入れちゃった」


といって、てへぺろっと笑う。仕草だけで言えばおそらく可愛いのだろうが、やっていることはかなりえげつない。この頃にはだいぶ体も動くようになってきたので、立ち上がってクリスティーナに向かう。


「一体誰の指図なんだ・・・!」


クリスティーナは両腕をそれぞれ二人の神官に掴まれて身動きできないまま、オレを思い切り睨みつけてくる。


「王子、だめだよ。その女狐しゃべれないから」


ユイカが口をはさんでくるが、それにも構わずオレは話し続ける。


「こんなに優秀な術士を我が王国に潜り込ませたんだ。国家レベルの策略だろう。レブエル国か・・・それともナイメール公国・・・またはギルセナ王国・・・」


オレはクリスティーナが一瞬目に力を込めたのを見逃さなかった。これで分かった。あの国の仕業か・・・。そういえば先日、あの国から国王の結婚式の招待状が届いていたな。それも周到に計算しつくされた罠の一つなのか?


「もういい・・・。連れて行け。牢の警備は万全に頼むぞ。なんせ転換の魔法を使う女だからな」


オレはそういうと、テラスから部屋の中に入った。そして見知った顔をそこにみとめた。


部屋の中に立っていたのは・・・ユーリスだった。

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