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ユーリ 傷心する

私はいまユーリの自室の風呂場にユーリと二人でいる。ショックのせいで硬直して動かないままのユーリを、なんとかここまで引っ張ってきたのだ。二人とも服のまま川に入ったため、全身びしょ濡れだった。


まだ固まっている彼を、なんとか服のままシャワーブースに押し込んで熱いお湯を出す。タオルを探しに、勝手知ったるユーリの寝室のほうへ行こうとすると、突然腕を掴まれシャワーブースに一緒に引きずり込まれた。暖かいシャワーが頭からかかる。


「ちょっと・・・ユーリ!!タオルを先に取らないと、部屋がビショビショになっちゃうよ!」


私は何とか抗議したが、ユーリは私の腕を掴んだ手を緩めない。


「ちょっと目を放した隙にどうしてこんな事になっているんですか・・・。サクラ・・」


二人で頭からシャワーを浴びながら、切ない目をしたユーリが至近距離で囁く。私はあまりのユーリの辛そうな表情に戸惑いながら答えた。


「・・・いや・・・私もよく訳が分からなくて・・・。まさかマリス騎士様が私のことをそんな目で見てたなんて気が付かなかったもの」


狭いシャワーブースに水の音だけが響いている。私は服を着たままだとはいえ、狭い場所でのあまりの距離の近さに、高鳴る心臓の音を隠せないでいた。極力ユーリと目を合わせないようにしていたのだけれど、ふとした瞬間ユーリと目が合った。そのとたんその逞しい胸の中に抱きすくめられる。


「嘘でもあんなことは言わないでください。胸が張り裂けそうになりました・・・」


小刻みに震えながら絞り出すような声でいう。いつの頃からか、その言葉に私は罪悪感を感じるようになった。ユーリはいつも私にめいっぱいの愛情表現をしてくれる。なのに未だ私はその愛にこたえる覚悟はできていなかった。アルからも愛の告白を受けたが保留させてもらっている。


私はユーリとアルへの特別な想いが自分の中にある事に気が付いていた。それはおそらく恋というものなのだろう・・・。だけど私が二人を想う気持ちは同じで、どちらかを選ぶなんてことはできそうに無かった。


なんて私、尻軽なんだろう・・・。自分で自分を責める。こうやってユーリに抱きしめられていると、このままユーリの言う通りに、彼と結婚して幸せに暮らす自分が容易に想像できる。いまでも溺愛甘甘なユーリだ。結婚すれば遠慮なしにもっと甘やかしてくるに違いない。


だけどアルへの想いを考えると、ユーリを選ぶことができなくなる。なんて優柔不断なんだ・・・。


私は小さく溜息をついた。


そんな私の揺れる気持ちに気が付いたのか、ユーリは抱きしめていた腕を緩めて私に言った。


「サクラ。私は君を苦しめるつもりはありません。私の気持ちに対する返事を急がせるつもりもありません。ただこの想いを知っておいて欲しいだけなんです。私の我が侭ですみません」


「そんな・・・私こそごめんなさい。私ユーリのこと好きだけど、でも・・まだその・・」


私が続きを声にする前に、ユーリがもう一度私を抱きしめる腕に力を込めていった。


「ありがとうサクラ。それだけで今は十分です。私のことを好きだといってくれて嬉しいです」


ああ・・・ユーリってば、やっぱり甘甘だな・・・。


私・・・この人の手を取る日がいつか来るのだろうか?


私はおそらくまだ近くないであろう未来に思いを馳せた。


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