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アイシス様 ユイカと手を組む

昨晩遅くにクラウスからセシリアが家出をしたとの知らせを受けたアイシスは、王城に緊急に用意された寝室で一夜を明かした。セシリアは表向きはアイシスの家、ルベージュ子爵家の親戚の令嬢だからだ。


アイシスは早朝から起き出して、クラウスの部屋を訪ねた。淑女としてはあまり褒められた行為ではないが、ダイクレール公爵家の婚約者であるセシリアの一大事だ。これくらいは許されるとの判断した。


クラウスの部屋に一番近い応接室にアイシスは案内され、椅子に座ってクラウスを待つ。応接室に遅れて入ってきたクラウスは、いまだ昨夜と同じ服のままだった。おそらく徹夜で捜索を指示したのだろう。その顔には深いくまが刻まれていた。挨拶もそこそこにアイシスが突然切り出した。


「クラウス様。未だにセシリアの行方は分からないの?」


クラウスは無言のまま首を横に振る。


アイシスは昨夜クラウスから、セシリアはアルフリード王子になにかを言われて、怒りのあまり王城を飛び出したと説明を受けていたが、そんな説明で納得するはずも無かった。


セシリアを・・・クラマを良く知るアイシスは、彼女が何か言われた位で怒って家出をするような子ではないことは十分に知っている。。おそらくなにか深い事情があることは間違いない。アイシスは昨日疑問に思った事を確認してみる。


「クラウス様。貴方セシリアに、クリスティーナ様のことをミューズだとおっしゃったようですけど、本当ですの?」


そのアイシスの質問に、真剣な顔をしていたクラウスが一転して、砕けた柔らかい表情になる。


「そうだ、彼女は素晴らしいミューズだ。あんなに素敵な女性に私は会った事がない」


その反応に、アイシスは抱いていた疑惑を確信に変えた。



その時、応接室の扉が開いてあのふわふわの茶色い髪をして、ピンクのふりふりのドレスを着たユイカが入ってきた。背後には3人の神官が付かず離れずの距離で待機している。


おそらく神官たちの力でアイシスの居場所を探知したのだろう。応接室の前に居たであろう警備の兵士も、神官たちの手にかかれば造作も無く排除してしまえる。


「いたーー!!おばさん!話があるの。ちょっときて頂戴!セシリアを探したんだけど、もう王城には居ないみたいだから、おばさんに言っておきたい事があるの」


「せ・・・聖女のユイカ様・・・」


クラウスが椅子から立って敬礼をする。ユイカは本当は偽者だとしても、聖女として王国で認識されている。王族に継ぐ権威を有しているのだ。


アイシスはそんなクラウスの態度にも関わらず、相変わらず上から目線で見下ろしながらユイカに言った。


「わたくしも、貴方とは一度良く話し合ってみようと思っていたところですわ。ここでの話は終わりました。クラウス様、わたくしユイカ様とお話がありますの。このお部屋をお借りしてよろしいですか?」


ユイカもそのアイシスの台詞に同意したかのように、クラウスのほうを見て首を縦に2回振った。


クラウスはまだサクラの捜索で忙しいため、渡りに船とばかりにそうそうに応接室を二人に明け渡した。


「アイシス嬢、もちろん結構です。何か進展がありましたら必ず連絡をしますので、しばらくお待ちください。聖女様、おもてなしもせず退出する事をお許しください」


そう早口でいうと、クラウスは応接室から去っていった。


残されたのは小動物系肉食女のユイカと女王様アイシスだった。


ユイカが一人の神官に指で合図を送ると、この部屋全体に結界が張られた。これでこの部屋での会話は誰にも聞かれない。二人はシルクの布と金の張られた贅沢な応接室のソファーセットに座りもせずに、お互い立ったまま睨みあっている。


「小娘。貴方、聖女だかなんだかしらないけど、わたくしはおばさんではなくてよ」


アイシスが上から目線でいうと、ユイカが見上げる下から目線で言い返す。


「おばさん。私あの女狐の正体が分かったわよ。ふふふ。聞きたい?聞きたいでしょう?」


「そんなに言いたくて堪らないって顔をしてよくいうわ。ほら、さっさとお言い!小娘!」


「あの女何か力を使って男をたぶらかしているのは、間違いなさそうなの」


なんでもユイカはあの後、3人の神官の力を借りてクリスティーナの動向を探っていたらしい。そこで分かったのが、クリティーナが男しか操れないという事と、操るにはその男のこめかみに指を2本当てて何らかの力を注いでいるらしい事だった。


「どうしてそう考えたの?根拠はなんなの?」


アイシスが尋ねると、ユイカはにっこりと可愛らしく微笑みながら答えた。


「造作も無いわ。アルフリード王子のストーカーだって有名なシルビア嬢や、宰相に爵位を剥奪された元貴族のノア兵士にすこーし囁いて、女狐を攻撃してもらっただけよ。護衛は神官達に抑えてもらってね」


その結果、クリスティーナを罵倒して毒針を刺そうとしたシルビア嬢には何もできずに、危うく神官がその力で抑制しないと、刺されて彼女は死んでいたらしい。その後は、服にごみが付いていたとか何とかシルビア嬢に言わせて誤魔化した。


宰相への憎しみごとをつぶやきながら、短剣でクリスティーナを刺そうとしたノア兵士には、指をこめかみに当てる仕草をして何かを呟き、ノア騎士の殺意を削いだらしい。ノア騎士はその後一転して彼女を褒め称えるようになっていた。


子リスのような外見だというのに、中身はなんて恐ろしい小娘なのだろう。


目的の為なら手段を選ばない、目の前の小動物系肉食女子に恐れを抱きつつも、味方で良かったと安堵のため息を漏らしてアイシスは言った。


「よくやったわ、小娘。これで分かったわ。あの女は魅了の魔法を使っているんじゃないわ。おそらくその人物の最も愛する女性への気持ちを自分に向けさせる、転換の魔法を使っているんだわ。道理でわたくしの探知魔法では分からないはずだわ」


魅了の魔法はなにも感情の無いところに、愛情を発生させる。なので感情を出現させる魔法を使わなくてはいけない。探知魔法はそこに反応する。


だが転換の魔法は違う。他の人物に向いている気を、自分に向けられたものと交換するだけなのだ。もちろん途方も無く高度な高位魔術には違いないが、もしそれが可能であるならば普通の探知魔法では分からないだろう。


「王城の重要人物はすべて、クリスティーナの魔法にかかっていると考えたほうがよさそうね。だけど、そんな高位魔術を何人にもかけるなんて、普通に考えれば、途方も無い量の魔力を消費するはず・・・」


アイシスはひとつの可能性に考えが及んだ。もしかして・・。


「小娘・・・貴方クリスティーナが黒い小さな石を持っていたかどうか見なかった?」


ユイカは腕を組んで人差し指を頬に当てて、思い出す仕草をしながら答えた。


「そうねぇーー。こんな感じの黒い石なら見たわよ。なんか大事そうに身につけていたから、高価なものなのかなって思って見てたけど、それってなんなの?」


やはりそうだ!!クリスティーナは改造魔石を使って自身の魔力以上の力を使って、転換の魔法を使い続けている。でもそんな事を繰り返していては、クリスティーナはおそらく長く生きられない筈だ。


改造魔石が使用を禁止されているのは、そういう理由からなのだ。自身の生命力を使ってまで、限界を超える魔力を使う。諸刃の剣のような代物だ。アイシスはユイカに簡単に魔石の説明をして、ユイカの目を見ていった。


「この事は誰にも言わないほうがいいわ。わたくしはもう少し情報を集めてみるから、貴方も何か分かったら伝えて」


「大丈夫よ、おばさん。あの女狐の退治は私に任せて。あんな女にイケメンを取られたままにして黙ってみている訳がないじゃないの。きっちりセイアレスもエルドレッドも取り返して見せるわ」


ユイカがにたりと笑う。


「わ・・・分かったわ。小娘。わたくしの伝心許可を出しておくから、何かあったら連絡していらっしゃい。そちらからも連絡お願いするわ。とにかく何が狙いかわからないけど、クリスティーナ一人の企みにしては規模が大きすぎる。嫌な予感がするわ」


二人はいまだに上からと下からに睨み合いながら、互いに微笑んで共闘関係を結んだ。


ユイカが3人のイケメン神官を連れて応接室を出て行った後、アイシスは暫くそのままで考えを巡らせた。


クリスティーナが単純に、王妃になりたいと思っているわけではない事は容易に想像ができる。彼女が乱用している高位魔法からして、クリスティーナは恐らくもう長くはないだろうからだ。このままのペースなら1ヶ月・・・これが限度だ。


一体誰がクリスティーナを操っているのか・・・その背後にいる人物は誰なのか・・・。


アイシスはその身を震わせた。

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