サクラの捜索
アルフリードは現在執務室の奥にある小部屋で、騎士団総長のクラウス・ルイス・ダイクレール、宰相のリュースイ・ダン・ボロヌイエールと、王太子付き補佐官のルーク・ジャン・ドレーラル に囲まれて重大な案件について話し合っていた。
サクラが・・・聖女が城から居なくなったのだ。昨夜のクリスティーナ様のお披露目パーティーを終えてみればその姿を消していた。サクラの自室には置手紙があった。
ここを出て新天地で暮らすと・・・聖女の力はもう使わないので、探さないで欲しいと。
宰相が口ひげを撫でながら重い口を開く。
「クラウス騎士団総長。あなたがサクラ様をエスコートなさっていたはずですぞ。なのにどうしてこんな事に・・・」
クラウスが顎の前に両手を組み合わせて、緊張の面持ちで言う。
「申し訳ありません。私の不徳の致すところです」
右手に拳を握りその拳を自らの額に当てながら、苦々しい顔でアルフリードが言い捨てる。
「オレが昨夜どなったせいかもしれない。・・・だから女って奴は嫌いなんだ。自分の思い通りにならないと、すぐに癇癪をおこす!」
ルーク補佐官がそんなアルフリード王子の態度に疑問を抱いて、問いただす。
「殿下、一体どんなことをサクラ様に言ったのですか?差し出がましいかもしれませんが、殿下はサクラ様のことをお好きだったのではないのですか?今はクリスティーナ様を愛してらっしゃるとはいえ、急にそのような態度をとられると、さすがにサクラ様もショックだったのではないでしょうか」
そうだ。アルフリード王子がサクラに並々ならぬ執着をしていたことは、ここに居る全員が良く知っているはずだ。素晴らしい女性であるクリスティーナとの真実の愛に目覚めたとしても、王子のサクラに対する対応は度を越している。この場に居る者の無言の反応に、同じ気持ちを抱いていたことが分かる。
「オレがサクラを好きだった・・・?」
そんなはずはない。アルフリードは自分で確信を持って否定する。
オレが好きな女は、黒髪で・・黒い瞳で・・・素直で・・・お人よしで・・・頑固で・・・まっすぐで・・・たまに可笑しな事を言って・・・オレのことを努力したんだねと・・・頑張ったねと笑っていってくれる人だ。
そうだ。クリスティーナ・・。彼女がオレの愛しい人だ。・・なのに何故だ。たまに胸が締め付けられるような痛みに襲われる。そういうときは決まってクリスティーナと一緒に居るときだ。何かが違うような気持ちになる。それがなんなのか分からないが、なにか大事なことのような気がする。
アルフリードはいくら考えても答えの出ない問題を解くのはやめて、王子として的確な指示をだす。
「隠密兵を使って、表ざたにせずにサクラの捜索を開始しろ。聖女が逃げ出した事が分かれば、諸外国も彼女を狙って動き出すだろう。とにかく王城に連れ戻すのが先決だ。そうしたら謝罪でも何でもしてやるから、後は王城の隅にでも軟禁しておけばいい」
聖女は国の勢力図を簡単に書き換えてしまうほどの力を持つといわれている。しかも彼女の能力は、魔力を使わない異例の能力であり、聖女の能力としては前代未聞の力だ。
魔力を使わないという事は、その能力に限界がないということだ。普通は魔力を使いすぎると、その能力が優れていればいるほど命を削るほどに消耗する。魔力とは本来そういうものだからだ。
だがサクラの機嫌を損ねるのは本当にまずい。いくら3種の宝飾のおかげで時を止める能力に干渉されないとしても、時を止めたり動かしたりできるのは彼女だけだからだ。時間を止めたままにされるのも困る。
なので機嫌を損ねないように多少いい思いをさせて、生涯を王城で暮らしてもらうのが一番だと思った。
ユーリスと結婚させるのもいい。本来、聖女が王族と婚姻を結ぶ理由はそこにある。聖女を国に縛り付けて、思い通りに動かすこと・・・。
「直ちに捜索隊を編成し、聖女を探せ!!」




