3大王国 ウェースプ王国 ナイメール皇国 ギルセナ王国
少し休んでやっと何とか動けるようになった私は、やっと今自分が山の頂にいる事に気が付いた。そこから下を眺めると薄くかかった雲に透けて、扇状に城下町が広がっているのが見える。その先には山々が連なり、さらにその先にも町が見える。
私が眼下に広がる壮大な風景に感動していると、いつの間にか隣に来て立っているアルに気が付く。
「ここはオレが昔から悩みがある時や、行き詰まった時によく来る場所だ。ここからは全部とは言わないが、ウェースプ王国が見渡せる。それにあっちの方角の山脈の向こうには、大国のギルセナ王国。そして川を挟んであちら側がナイメール公国が見える」
うんうん。淑女教育、地理担当のデルビア教授が教えてくれた、この王国と並べて称される2つの大国。
王様が独裁政治を行っている独裁国家ギルセナ王国と、皇女様が国を治めているナイメール公国ね。たしかギルセナ王国は殆どの領地が魔獣の出る森で、常に魔獣の被害にあっていると習った。だけど魔獣が出る森では魔石がとれるので、その利益で王国を大きくしたのだとも・・・。
そうだよね。アルは・・・アルフリード王子はこのウェースプ王国の第一王子として生まれて、その責任を一身に背負って今まで生きてきたんだ。その重圧に耐えられないと思う時だってあっただろう。
圧倒的な魔力を持ち、しかも帝王教育を10歳で終えたという異例の知力のせいで、皆からの期待も半端なく大きかったに違いない。
アルが無表情なのは、もしかしたらそのせいなのかもしれない。そんなことを考えていると、ふとアルと目が合った。
「何を考えている?」
アルが山の頂上特有の荒い風にその黒い髪をはためかせて、呟くように聞いた。私はそんなアルの目を見つめたまま軽く微笑んで答えた。
「・・・アルは頑張ったんだなって。こんな大きな王国を支えていく重責や期待に負けないで、良く頑張ったよ。私はアルが努力しているのも知っているし、完全無欠の王だっていわれてても、たまに失敗しちゃうのも知ってるよ。この間仕事のことを考えてて、紅茶と間違ってペン立てを口に運んでいたの見てたんだから。ふふふふ・・」
アルが私の答を聞いて、固まったように動かなくなる。いつもの無表情に無表情が張り付いた顔のまま微動だにしない。
しまった!!ペン立てを口に運んで、ペンが見事にあの端正なお顔の右頬に当ったのを見ていたことは、言わないほうがよかったのかもしれない!アルにとっての黒歴史を思い出させてしまったのかも・・・!!!
私はかなり焦って、なんとか場を和ませるように会話を探した。
「いや・・まあ良くある事だよね。この間ユーリも川で泳いでいる時にただ潜っているだけの私が、溺れたんじゃないかと勘違いして、危うく人工呼吸されそうになったくらいだから・・・。勘違いは・・うん・・良くある事だよ!!」
よし!これでアルの恥ずかしい黒歴史は、そんなに恥ずかしいものじゃないと思ってくれたはず!なのにアルは無表情のまま眉根を寄せて、苦しそうに声を絞り出しながらいう。
「・・ユーリスと一緒に・・泳いだのか・・・」
えーー!!気にするところ、そこーー!!!???
「いや・・!!でもアイシス様もいたから結界も張ってくれて、だから私も水着を着て泳いだし裸じゃないよ!!」
自分で言っていて思い出してしまった。そういえばアルには私の裸。全部見られたことがあったんだ。うひゃー恥ずかしい。急に思い出しデレをして、顔を真っ赤にしてうつむく。
照れた私に何を思ったのかアルはまだまだ突っ込んで聞いてくる。
「水着ってどんな水着だ・・?」
「そ・・そんなにアルが気にするほどの水着ではなくて・・・その・・隠さなきゃいけないところはちゃんと隠すタイプの水着だったよ」
白のフリルのビキニとは到底いえない雰囲気に押されて、なんとか曖昧にふわっとした感じで説明をする。その微妙な説明に何を考えたのか、瞬間アルの頬が赤く染まった。
「ちょっと待ったーー!!いま何考えたの!!すごい水着を想像しなかった?!ちゃんと白色でフリルの付いたビキニだったから、アルの想像した水着よりは多分、布地の面積多いから!!」
ああ、いっちゃった。でもこれできっと紐ビキニでも想像していたアルは安心したに違いない。ちらっとアルの様子を伺う。するとアルは一瞬、驚愕したような顔をしてから寂しそうに呟いた。
「・・オレも見たかった・・・」
・・・っていうかアルは私のまっぱ見た事があるくせに!!なんで水着姿なんか見たいのよ!!・・っていうかやっぱり隠すべきところを隠していないと、目も当てられないくらいにひどい体をしていたという事なのか・・・私・・・。私はショックで顔面蒼白になりそうなところを何とか隠して、やっとのことで返事を返した。
「・・・分かりました。今度川で泳ぐ時は知らせますから、水着を持って川に転移魔法で来てください」
「絶対だぞ!」
と念を押された・・・。くすん。