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人の心こそが魔物

感想頂きましたレフェル様。ならびにこのお話を読んでくださる皆様ありがとうございます。


「あの、もしや、傭兵ではないでしょうか?」


 とある町の大衆食堂で食事をしていたら、お爺さんがボク達に声をかけてきた。


「はい。そうです。」


 ボクが素直に答えたら、お爺さんは彼の前の空き席に座る。


「実は、最近ゴブリン達が畑の農作物を食い荒らすだけじゃなくてこの町を襲って困ってるのじゃ。

退治してくださりませんか?」


 ゴブリンは子供ぐらいの背丈の狂暴な魔物である。


「わかりました。」


 ボクが首を縦に振るとお爺さんが泣いて喜んだ。




 日も落ち、虫の鳴く音だけが辺りを支配する中で、ボクは木陰に座ってジッと待っていた。

 しばらく待っていると、森の中から、何人もの小さな影が現れた。


「ギギィッ!!」


 その声に弾かれたように飛び出してゴブリンを切りつける。

 突如現れたボクに驚いているうちに2匹目を切り捨てる。

 さらに脇に隠したナイフを取り出して投げつけゴブリン1匹を絶命させる。さすがにそれでゴブリン達もボクが敵だと理解したのか、全員で襲いかかる。


「遅いよ!」


 ゴブリン達の総攻撃をかわしながら、1匹を切り捨てる。


「ギッ! ギギィッ!!」


 ゴブリン達は勝てないと思ったのか、ボクに背を向け森へと逃げ出した。


「やっ!!」


 そのゴブリン達にナイフを2本投げつけ、ゴブリンの肩に突き刺さる。血が出て痛いだろうに、それに頓着せず必死になって逃げるゴブリン達だった。




「…どうした? 森の中を調べ出して?」

「ちょっと、気になる亊があってね。」


 そう言いながら、襲撃場所から流れる新鮮なゴブリンの血痕を追跡する。


「ねぇ、疑問に思わない? なんでゴブリン達があの町を襲ったのか?」

「そうたな。」

「確かに変ですよね。人間ならまだしも、なんで襲ったんでしょう?」


確かに魔物が町を襲うなんて話は珍しくない。でも、それはあくまでも繁殖力のせいで群れから溢れたゴブリンが飢えで人間の農作物を食い荒らすくらいだ。だけど、ゴブリン達の襲撃を聞いて回ったら、ゴブリン達に金品を奪われた人もいるらしい。ゴブリンにはあり得ない行動だ。手にしたとしても別にお腹が膨れる訳ではないし、かさ張るだけのお金なんて持っていても無用の長物だ。

ひょっとしたら、これは…。そんな考えを持ちながらゴブリンの血痕を追跡していたら、


「何やってるんだい!!」


 そんな叫びが聞こえたのでそっちへ行ってみると、切り立った崖にぽっかりと洞窟があった。どうやら、ゴブリンの血痕もそこに続いている。


「やっぱりか。」


 納得しながら、洞窟の奥を見る。魔物育成士(ビーストテイマー)。魔物になつかれるという体質を利用して人間に従順な魔物を育成する人達の亊である。大抵は番犬ならぬ番モンスターとして売り払うのだが、中には育てたモンスターで町や村を襲い金品を強奪する人もいるのだ。

ボク達3人は互いに目配せして、こっそりと侵入する。


「それにしても、厄介な奴が向こうにいるみたいだね。」


 頭らしきボンテージファッションの女性は苛立たしそうに親指の爪を噛みながら視線を傍らにいるぼろい布切れを纏っただけの少年に向けた。


「ヒィ!」


 女性に視線を向けられると少年は怯えたように身震いしていた。


「なんて声を出してるんだい? アタシはあんたを見ただけじゃないか? まあいい。アンタに仕事があるんだ。」

「お、お仕事ですか?」

「そ。ゴブリン達の案内で襲撃があった町に行って可愛がってくれた傭兵をここまで案内して、

隙をついてブスリと刺すんだよ。」


 ナイフを握らせながらニッコリと笑う女性に少年はナイフを受け取りながらも青い顔をして震えていた。


「い、嫌です。」

「あ? そうかい?」


 女性は笑いながら鞭を振り上げて少年目掛けて降り下ろした。


「そんな甘えが許されるわけないだろ!!」


 叫びながら、鞭を振るい続ける。その度に皮が裂け血が出る。


「アンタは、アタシのペットでアタシはあんたの主人! ペットが主人に逆らえるとでも思っているのかい!!

それとも、あんたの友達や親兄弟の後を追ってみるか!!」


 どうやら、内容からして女性に襲われた村の生き残りみたい。

多分、あの子が生きてるのはモンスターの餌兼奴隷として、生かされているみたいだ。

彼とマチルダさんを見ると、不愉快そうに眉をしかめていた。

2人に視線を向けると2人とも頷いていたので、ナイフを手に取り女性に投げつける。鞭を持っていた手に突き刺さり、鞭を落とす。


「グァッ!! だ、誰だい!!」


 苛立たしそうにナイフが飛んできた方を見る。それでようやくボク達に気づいたみたいだ。


「あ、アンタら!! 何者でどうしてここが!!」

「ゴブリン達の行動が明らかにおかしかったからね。

目印のゴブリンの血痕をたどっていただけだよ。」


 その言葉に女性は忌々しそうにボク達を見る。


「アンタら!! やっておしまい!!」


 女性の言葉に一声鳴いたゴブリン達がボク達に殺到する。

そのゴブリン達をかわしながら切り捨てる。


「は!」


 彼とマチルダさんはゴブリン達を避けるか刀身を盾にしながら、蹴りや拳、あるいは魔剣の柄で叩いて沈める。


「くっ、来るんじゃないよ!! この坊やがどうなってもいいのかい!!」


 女性はボクが投げつけたナイフを手に取り、少年の首に突きつけた。だけど、マチルダさんがいつの間にか拾っていた石ころを女性の顔面目掛けて投げつける。それが見事にこめかみにおでこに当たる。


「きゃん!!」


 その一瞬の間に彼は、女性に近づいてナイフを持つ手を捻りあげていた。その激痛にたまらず少年とナイフを解放する。


「は、放しな!!」


女性は彼に蹴りを放つがすんてのところで彼女を解放しながらかわした。


「大丈夫?」


 少年に微笑むと少年は彼に飛びついた。両手に鈍く輝くナイフを持って。


「ちょ、ちょっと! き、君!!」


 ボクの声にも反応しない。


「ご、ごめんなさい!! ボクはあの人の目の前で逆らうのが怖いんです!」


 涙を流しながら謝罪するその後ろで女性が笑みを浮かべていた。


「別に謝罪する必要はないよ。」


 彼はそう言いながら、ナイフを弄んでいた。


「なっ!」

「ごめんなさいね?」


 いつの間にか近づいていたマチルダさんに抑えられていた。


「くそ! 出ておいで!!」


 女性の言葉にズシンズシンと音を響かせ、オークが姿を現した。


「これであんたらもおしまいだよ!」


 高笑いをあげるなかで彼は少年に問いかける。


「ねえ、あの奥に人はいる?」

「い、いえ。少し前まで、友達が居たんですけど今はあいつの…。」


 それ以上は辛かったのか、そこで言葉を切る。

そんな彼をボクに放り投げる。ボクがキャッチするのと一緒に彼は7色に輝く魔剣を振り上げて一気に降り下ろした。


「ガァッ!!」


 その威力は凄まじくオークの右手と右足を切り裂くのみならず、天井と床にまでその証を刻んだ。


「じゃ、行くか?」

「そうですわね?」


 魔剣を鞘に戻しながらの彼の言葉にマチルダさんは女性を抱き上げながら同意する。その時、天井からピシリと不穏な音をたてる。


「行くって、どうして?」

「そりゃもちろん、」


 ボクの問いに彼は走り出しながら答えた。


「逃げるんだよぉ!!」


 その声が引き金になったのか、天井が崩れ崩壊していく。


『にひぇぇっ!!!!』


 ボクと少年と女性の叫びが辺りに木霊した。




「おーい。大丈夫か?」

「全然大丈夫じゃないよぅ。」


 彼の問いに疲れきったような声で答えた。


 火事場の馬鹿力というやつでなんとか崩壊していく洞窟から逃げ切り、森の中で彼とマチルダさんに合流できた。


「いやー。無事で良かった良かっ…………た。」


 そう返した彼が硬直する。なんだろうと思いながら下を見たら、木の枝に引っ掛かって破れたらしい。上半身が再び裸になっていた。


「キャア!!!!」


 思わず悲鳴を上げながら彼に全力ビンタをした。




「あたた。」


 少年を町長さんに預け、女性を警護団につきだし、次の町まで行く途中、自分の頬を痛そうに擦りながら彼は呟いていた。


「ごめんね?」

「まぁ、気にするなよ。事故とはいえ、見た俺も悪かったしさ。」


 頬を擦りながらの彼に質問をする。


「そういえば、君が名前を教えてくれたこと無かったよね?」

「教えたこと無かったよね。俺はスターチスだ。出来れば君の名前も教えて欲しいんだけど?」

「あぁ。ボクも教えてなかったね。ボクはリス=ノワールだよ。よろしくねスターチスにマチルダさん。」



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