魔剣士との遭遇
このお話を読んでくださる皆様ありがとうございます。
やっぱり、この時期は賑やかだね。お祭り騒ぎの街並みを眺めながらそう思った。
聖騎士王の聖誕祭。今代の聖騎士王である、エドワードの誕生日。それが今日行われている祭りだったりする。
「よ。嬢ちゃん。珍しいなこの時期に来るなんて。」
この街に来たらよく行く酒場の亭主がボクに気づいて声をかけた。
「おじさん。こんにちは。傭兵稼業も不景気でね。気晴らしに来てみたんだけどね。」
そこまで言って、おじさんに近づいて耳もとで問いかける。
「おじさん。知らない? 魔剣士達の情報を?」
「いや、知らない。いつも言ってるだろ?知ってても教えないって。
いくら嬢ちゃんでもその情報は渡せない。危険過ぎる。」
「危険なのは重々承知してるよ。でも、ボクが生きる意味は7本の魔剣を全て破壊して魔剣士達を討ち取ることだけだよ。」
ボクの言葉におじさんは溜め息を吐いていた。
「勝手にしな。魔剣相手に喧嘩を売る無謀なやつもいたもんだ。」
ごめん。ボクに背を向けるおじさんに謝罪した。おじさんが意地悪しているわけじゃないのはわかってる寧ろ、親切心からきてるのは知っている。けど、魔剣と魔剣士達はボクが必ず殺さないといけないんだ。
考え事しながら歩いていたせいか、周囲の確認がおろそかになっていたらしい。
どん!
誰かとぶつかってしまった。
「ごめんなさい。考え事してて不注意でした。」「いや、不注意だった俺も悪いし。」
男の人は笑って許してくれるが、男の人は普通じゃなかった。まず、その右手の大剣。傭兵でもここまで大きな武器を振り回す人は少ない。周りに障害物がある状況でいざという時に邪魔になる。黒をメインにした衣装。何かの神教的なものだとしても、黒は神教では蛇蝎の如く忌み嫌っている。何故なら、堕天使ルシファーが漆黒の翼を生やしていたからとされ、黒は堕天使、或いは邪悪なる存在の信徒とされるからだ。真っ黒の衣装なんて与えられる訳がない。
そして、首からぶら下げている五紡星のペンダント。確かに五紡星は神教の象徴で神聖であるものを示すけど、それは五紡星の一角が上を向いている。だけど、彼がぶら下げているのは一角が真下を向いている。 こんな格好しているなんて、まさか魔剣士? イヤイヤ、落ち着いて。魔剣士がこんなあからさまな格好するなんておかしい。
考え事に没頭している間に彼が立ち去ろうとしているのに気づいて慌てて追いかける。
ハァ。何やってるんだろ? ボク。彼が魔剣士だとは限らないじゃないか。ただの趣味であんな格好しているとか考えられるじゃないか。それなのに、彼を追いかけて、こんな森の中まできちゃうなんて。
そんな疑問を抱いて追いかけていたけれど、あけた所まで来た彼の足がふと、止まる。なんだろう?
「ハァ。いつまでつきまとってるの? さっきぶつかったことじゃないよね? お互い謝ったわけだし。」
どうやら、完全にバレバレだったらしい。
「あ、アハハ。ごめんごめん。」
諦めて、愛想笑いしながら、彼に近づいた。
「君に聞きたいんだけど、君はまさか魔剣士?」
ボクの問いに彼は剣を抜き放つ。…だけど、コレが本当に魔剣? ボクの目の前にあるのは錆び付いていて、とてもじゃないが、魔剣とは思えなかった。
「魔剣士…じゃない?」
「こんなあからさまな格好していたら、山賊みたいな物騒な人は来ないよね?」
ようは騙しみたい。納得してたら彼は険しい表情をしていた。
「山賊除けにはなっても、より厄介な人を呼んだらしいね。」
彼の視線の先には男の人がいる。
「ふ。気づいたか。主に逆らう愚かなる堕天使の犬よ。」
その人は白をメインした衣装を身につけ、首には五紡星のペンダント。右手に虹色に輝く聖剣が握られている。
「あの、聖騎士様。彼の格好は強く見せかける為の、」
ボクが言い終えるより早く、聖騎士様が聖剣を振り上げた。
「問答無用。滅せよ。神の敵よ。」
振り下ろされた聖剣のオーラがボク達を襲いかかった。しかし、彼がボクの前に出てボロボロの大剣で受け止める。しかし,完全に受け止める事が出来なかったのか、烈風がこちらにまで飛んでくる。近くでびりびり音がする中で彼の刀身が罅割れ砕けていく。そして、ボクは見てしまった。砕けて剥がれ落ちていく刀身の下から放つ7色の虹色の輝きを放つもう1つの刀身を。
7つの聖剣と7つの魔剣の共通の特徴は虹色の輝きだけど、それはオリハルコン出来ているからだ。
「まさか、君が…。」
「できれば語りたくなかったけどね。」
ボクの問いに彼は頷いた。