塔と主と炎と箱と
第5部 小さな塔の小さな主
次の日の朝には俺は王都を出て近くにある謎の塔の前にいた。
「ここがダンジョンだったのか」
「知ってるの?」
「地元のやつはみんな知ってるよ。開かずの塔って言われてる古くからある塔だよ」
「ふ〜ん。取りあえず早く入りましょう」
「わかったよ」
最初のダンジョンでは確か
「開けダンジョン!」
カギを掲げながら前と同じ言葉を言う。
「あかないわよ」
「先にいえよ!」
「塔なんだから、塔って言えばいいのに」
「そういうのは、早めに言えよ」
「聞かれなかったし」
主体性持ってほしい……大抵こういう文句を言っても、だって箱だしって言わるだけだろうし、そのまま続けるか。
「開け塔!」
言うと、ずっと空かなかった塔の扉がひとりでにあいていく。
「初めて入るな」
「洞窟よりは、狭くないしいいわね」
しらすのいう通り、塔の中は思ったより広く。一階は広間になっていて、奥にはのぼり階段があるだけだった。
「なかなか、地味だな」
「まぁ最初の方のダンジョンだしね」
「一階でやることは?」
「そうね入り口にワープ場所の設置かな」
「どうやって?」
「魔法陣を描けばいいのよ」
「無理だわ」
「すぐあきらめる」
「一般人がそんなスキルもってるわけないだろ」
「そのための水晶よ」
「魔王か」
しらすから、チュートリアルダンジョンで渡された水晶を再度渡される。同じように手をかざすと、水晶は光りだす。
「はい、美味しい、美味しい、そして美味しいの絶品食堂魔王堂です」
「キャッチコピー変わってますね」
「いつぞやの、また就職相談ですか?」
「あ、いやそういうつもりでは」
「今ですとー、ジャガイモの皮むきの仕事何ていかがでしょう?」
「賃金はどれぐらいで?」
「そうですねぇ……」
「いいから、魔王出しなさいよ!」
「はい、それでは呼んでまいります」
しらすの一言で水晶からの言葉は途切れ、代わりに明るいノリの良い音楽が流れてくる。
「あんたもいい加減あの手の話無視しなさいよ」
「いやぁ、つい」
無職だったころの癖で、就職系の話は全部聞いとくんだよな。何かできる仕事がないかっていうのを、探すのが癖になっているようだ。
「お待たせ」
水晶から再度聞こえたのは、魔王の声だった。
「遅いわよ!」
「それがさぁ。最近キャベツの千切りじゃなくて、魔王の業火で揚げたポテトがバカ売れで忙しいのなんのって」
「そんな事のために、魔法使ってるのかよ……」
「基本的に魔法の用途なんてひとそれぞれだしねぇ」
確かにそうだけどな。魔王何て物語の中では悪いやつで、人間を滅ぼすために魔法を使ってるっていうイメージがあるんだけどな。
「絵本とかさ、物語のやつ何てイメージだって」
「何でわかった!?」
「もう何度も聞かれてるし。魔王なのに悪いことしないんですか? とか人間滅ば差ないんですか? とか」
「へぇ」
「完全に風評被害だね。昔の奴はそんな事してたかもしれないけど、戦争とか一つの種族滅ぼすとか、お金も時間も労力もかかって嫌だし」
「リアルな、拒否だな……」
「それに魔界と人間界何て干渉するだけで疲れる。つまり、かったるい」
「結局そこにいきつくわけね……」
しらすが呆れるように言い放つ。結局なんだかんだ難しい事並べてるけど面倒だからが一番強い理由だからな。
「それで、今日は何の用?」
「ダンジョンで、えーと、魔法陣を作ってほしくて」
「魔法陣っていうと、移動の?」
「そうね。ボス戦前と繋げるって考えよ」
「ふーん。えーとそれじゃこっちから魔法陣が描けるアイテム送るよ」
「わかった」
「んじゃ、送るねぇ」
軽い言葉の後、すぐに水晶前が光だす。前回誰かを送るには少し時間が掛かったが、アイテムだからかすぐに送ってきているみたいだ。
「これは?」
送られてきたのは、魔法陣が描かれた紙。
「それをね、床に置いて全体を踏みつけると床に魔法陣が移るってこと。ちなみに二枚あるでしょ?」
「あぁ、確かに」
「その二枚がセットで発動するからね。間違えて二枚目を変なとこに移すとそこにワープすることになるから気をつけて。使い捨てだから何度も書き換えもできないよ」
「結構面倒な、アイテムなんだな……」
「安いから」
「もっと高いの用意してくれても……」
「金とるよ?」
「おし、使い捨てで頑張ろう」
うん。お金なんてほとんどないんだから仕方ないな。大体今まで、フラルのところで飯も宿も恵んでもらって。王都に帰ってからは家に居たから、いままで結局誰かに助けてもらってなんとかなっていた現状。
「と、とりあえず、この部屋の中心に置くよ」
「うん。それでいいわよ」
「こんなもんか、後は踏めばいいんだな。よし」
魔法陣が描かれた紙の裏を足で踏んでいく。周りから見たら何も書いていない紙を踏んでいる謎の男なんだろうな。
「なんか、変な儀式してるみたいね」
「言わないで! なんか俺だって恥ずかしいんだから! しらすがやればいいのに……」
「箱には無理よ」
「そういうと思った」
結局ほとんどの面倒事は箱だからでこいつ何とかしていく気がする。今後も期待しない方がいいな。
「こんなもんかな……」
変な儀式のような紙踏みも終わり。魔法陣の紙の表を見てみる。
「魔法陣が床に移ってる」
「へぇ。ほんとになるんだ」
「正直俺も半信半疑だった」
紙を踏むだけで床に絵が移るなんて、俺たちの世界ではない技術だ。というより魔法っていうものが、俺たちの世界にはほとんどないからな。
「おー、意外にきれいに移るもんだねえ」
「お前が渡したんだろ」
「私使い捨て何て初めて使ったから」
「魔王ならもうちょい責任持てよ……」
「魔王何てあれよ。魔力高いだけでなれる職業だから。そっちの王様みたいな席に能力なんてないよ」
「ひでえ。じゃあ血筋とかは?」
「ないね。私が魔王になった時は確か、あみだくじだったかなぁ」
「どれだけ雑だよ! 魔界もう少し自分たちの王に対して興味もとうぜ!」
「適当でいいところが魔界の良いところよ」
「適当にも程がある気が……」
自分の悩みが少し馬鹿らしくなってくるぐらい雑なところだ。俺たち人間はあれだけ職業で優劣をつけられるのに。
「ほら、そんな話はいいから次行くわよ」
「え、一階はこれでいいの?」
「いいの。この塔もそんなに難しいダンジョンじゃないから、一階はただのワープ場所よ」
「わかったよ」
いきなり何もせずに次の階に行けるなんて拍子抜けだ。残りの一枚をしらすに持っててもらい、一階の奥にある階段から二階へと向かう。
「二階は…… なんていうか迷路みたいだね」
「結構簡単な迷路だけどね。ここの何処かに宝箱置いて品物入れたり、モンスターを配置したりするぐらいよ今回は」
「最初の内はやる事はそれぐらいか」
「いきなり凝ったダンジョン作っても、勇者が断念しかねないからね」
「はいよ」
そうして俺の迷路探検が始まった。というものの普通に道なりに進み、分かれ道の時は右に進む、それだけだ。
「お、行き止まり」
「それじゃ、ここに宝箱置きましょうか」
「宝箱何て持ってないぞ?」
「魔王にでも聞いてみたら?」
「ってことで、何かないか?」
「宝箱ねぇ……」
魔王の言葉の後に水晶からは何かを探すような音が聞こえる。それが数秒なり続き。
「これでいい?」
目の前に現れたのは樽。
「樽ねぇ……」
「宝箱何て家にはないよ。その樽もう使わないか適当に何か入れるのに使っていいよ」
「しらすいいのか?」
「仕方ないわよ。今回は用意してないんだし。それにあまり高価な品を入れる気もないし、いいわよ」
「わかった。それで何を入れる?」
「まぁ、薬草でいいんじゃない? はいこれ」
しらすから、現れた手には緑色の草。たぶん薬草だろう。
「おいしょっと」
宝箱のふたを開け薬草を入れる。後は勇者が壊すなりふたを取るなりで薬草をひろってくれるだろう。
「そこが深いなぁ」
「普通樽に薬草一個何ていれないしね」
「今度から用意しないとな」
「そうね。まぁ今回は我慢してほら進むわよ」
「はいよ」
そのまま進みながら少しずつ、アイテムを配置していく。今は宝箱もないので、樽を置いて中に回復アイテムなどを入れていく。
「薬草ぐらいしか入れてないけどいいのか?」
「お金もないし今はそれぐらいでいいわよ。序盤は薬草とかのほうが役に立つでしょうし」
「そっか。お金かぁ…… いつか稼がないといけないか……」
「そりゃ、旅をするにはある程度のお金がいるわよね」
はぁ、世界を救う旅をしてるんだから、お金位王様がくれればいいのにな。そんな今後の話をしながら迷路をすすんでいく。
「階段があるな」
「結構速いわね」
「最初のダンジョンだから、一階が短いのか。それじゃ、二階に行くか」
「何言ってるのよ。敵を配置しないと、ただ歩くだけのフロアになるわよ」
「敵って。また一体ずつ配置するのか?」
「そんな事してたら、時間いくらあってもたりないよ」
「うわ! 突然話しかけるなよ」
「水晶から会話は聞こえてるからね」
水晶が使用されてる間は、あっちに会話が筒抜けって事か、俺たちはあっちの会話は聞こえないからなんか不平等だな。
「それで、どうすればいいんだ?」
「アイテム送るよ」
水晶から魔王の声が聞こえた後に、光の中から現れたのはなにやら丸い形をした大きなもの。
「これは?」
「モンスターを生み出す装置だよ」
「これでか?」
「こっちで使った魔力のカスをそっちのアイテムに送るとスライム等の、下級のモンスターが自動で精製されるってわけ」
「へぇ。これがね」
丸い物体を抱えてみる。あまり重くも無い、こんなもので本当にモンスターの精製なんてできるのだろうか?
「取りあえず、そのアイテムを適当な場所に隠しておいて」
「あいよ」
丸い物体を、階段のあるフロアの角に置く。
「取りあえず隅に置いたけど、こんなところだと隠すことは出来ないよな」
「どうせ一回しかこんなところ、こないんだから見つかってもいいよ」
「本当適当だな」
「おおらかといってほしいな」
「物は言いようだ」
モンスターの精製も終わったので、俺は目の前の階段を上る。二階に上がるとほとんど同じ構成の迷宮。
「一緒かよ」
「適当に、さっきみたいに配置してね」
しらすの言う通り、一階と同じように配置の作業をする。階段のフロアの隅には丸い物体を魔王に届けてもらい置く。
「二階は、適当に作業しただけだったな」
「ダンジョン作りなんて単純作業が多いんだから、慣れなさいよ」
「しらすは、ダンジョン作りの事は詳しいのか?」
「何回もしてる筈なんだけどね。私の記憶のほとんどは、災厄を封印したら。それまでの記憶がなくなってるみたいなのよね」
「つまりは、今は?」
「あんたのダンジョン作りを手伝う事と、ダンジョンの事は軽く覚えてるけど他は全然おぼえてないわね」
「そうか。やっぱりお前謎だな」
「所詮作られた存在だからね」
「自虐的だな」
「仕方ないわよ。そうなんだから」
しらすはそんな事をためらわず普通に言い放つ。何時もは俺と話したり明るいので気にもしてなかったが、しらすが作られた存在というのを、色濃く感じてしまう。
「そんなことより。三階にいくわよ」
「あ、あぁ……」
三階へと階段を上がっていくと、大きなフロアに扉が一つ。
「一気に変わったな」
「ここが最後の場所に行く前のフロアだからよ。後は、この扉を開くカギをどこに隠すかだけど……」
「んー、結構近くに隠すっていうのはどうかな?」
「二階の迷路とかに置くとかじゃなくて?」
「ほら、普通今までのどこかであると思うだろ。だからここの部屋の隅に樽を置いて中に置いとくとか」
「ふむ。一理あるわね。それで行きましょうか」
「よし」
これで、また二階をうろちょろしなくて済むぞ。正直あそこをまたうろちょろするのは面倒だったからな。
「どうせ、二階の探索が面倒なんでしょうけど」
「そんなことないよ〜」
「変に語尾が間延びしてるわよ」
「もういいから、樽だしてくれよ!」
「魔王、出してあげて」
「はいよー」
いつもの軽い口調の後に樽が俺が置いてほしい隅に置いてある。
「はいこれ」
しらすから渡されたのは茶色の鍵。
「それと隠すのはここを出るときだからね。今はここにワープポイントを作った後に最上階にいくわよ」
「ワープポイントか忘れてたな」
「だろうと思ったわよ。はいこれ」
一階でしらすに渡したワープポイントを作る使いすての紙の片割れを渡される。それを扉横の床に貼り付けよく踏んでいく。
「よし」
紙を取ると、一階のようにちゃんとワープが出来ていた。いやー、俺結構うまくなってないか?
「取りあえず実験でワープしてみるわよ」
「え? 俺が?」
「そりゃそうでしょ……」
「いやでもほら、ワープとか初体験だし」
「いいじゃない。初体験なら」
「ほらなんか変なところに埋まったりとか」
「ワープする場所は設置場所なんだから大丈夫よ」
「でも」
「あぁ! もういくわよ!」
「うわ!」
突然背中のしらすに力強く引っ張られ。なすすべもなく俺は魔法陣の上にしりもちをつかされた。
「な、なんか光ってるよ!」
「ワープするわよ」
「うわああああああああああ」
魔法陣の光が大きくなる。目の前が真っ白になって、頭がグワングワンして最悪の気分になったところで、見えた風景は最初の一階のフロアだった。
「気持ち悪い……」
「軟弱ね」
「仕方ないだろ。一般人はワープなんてしないんだから」
「ほら。戻るわよ」
「まて! ワープは俺もういいって、いってるじゃねえかああああああ」
またしらすに引っ張られるまま魔法陣へ…… あぁ俺今日はくかもしんない……
「ううう……」
結局三階のフロアの真ん中で寝ころんでいる。
「まさかワープだけでこうなるとわね」
「うるさい……」
「はぁ……」
溜息つきたいのはこっちだよ…… 俺が寝ころんでいるのでしらすは、背中から降りて俺の横にいる。
「っま少し休憩しなさい。どうせ後は上まで行って番人決めるだけでおわるんだから」
「番人?」
「っそ、前回は剣を守るやつ。今回は魔界に行くためのアイテムの一つって所ね」
「へぇ」
「その名も、金のえんどう豆」
「なんだよそれ……」
「金で作られたえんどう豆よ」
「いらねえ」
「魔界に行くためのアイテムだからね、魔王側が面白半分で決めたんでしょ」
「それはあり得るな……」
あの魔王が適当なのか歴代の魔王が適当なのかは定かではないのだが、あいつの言動を聞く限りでは魔族自体が適当だからな。魔界に来るアイテムを作った魔王が適当に作ったっていうのは予想できるな。
「魔界の話なのに魔王入ってこないわね」
「そういや、そうだな。魔王―」
水晶に近づいて呼びかけてみる。返事がない……
「どうしたんだろ? まおおおおおおおおおおお」
「うるせえ!」
「ご! ごめん!」
「今厨房は戦争なんだよ! いきなり大口の発注が来たから、こっちは大変なんだよ! 用事がないときに呼ぶんじゃねえ!」
「はい!」
「わかったなら。今後呼ぶんじゃないぞ! ったく」
水晶の光が切れ。魔王の声が聞こえなくなった。
「こええ……」
「あんたが悪いわね」
「でもわからなかったかし……」
「いいわけよ、そんなの」
「わかったよ。俺が悪かったっての」
なかばはぶてたように言い放つ。自分のことがまだガキだなと感じはするが、さっきのは俺に落ち度がないと思ってしまう自分もいる訳で……
「もう調子出てきたなら。先に進むわよ」
「わかったよ」
しらすは全く気にした様子はなく、俺を進ませようとしてきた。あいつは俺のあんな態度に腹を立てたりしないのだろうか? あいつに対して重いだとか、文句を言うと怒るくせにこういう事は無頓着なんだな。
「さて、行くか」
もうすぐ終わる塔のリフォーム、目の前の扉を開けて最上階へと進む。
「ここが最上階か」
目の前には爬虫類のような尻尾と、翼を持った女の子。
「ええーと、あれがえんどう豆?」
「なわけないでしょ! あれは竜人よ」
「竜人…… 竜なんているのか?」
「基本的には魔界にいるわね。竜人は竜と人間のハーフよ」
「サイズ違わないか?」
「魔力の高い竜は人間に変化出来るからそこら辺は問題なしね」
「なるほどな」
塔の最上階から、遠くの風景を見下ろすその子は、全く俺たちに気づく気配はない。
「どうしようか?」
「そうね。できれば穏便にすませたいわね」
「そうだよなぁ……」
こういう時は対話だよな。そーと近づいて。
「あのー」
「っひゃ!」
俺の声に驚いて、飛び上がる竜人の子すぐに振り向くと。
「人間……人間だ! えと、そう! このしっぽは作り物で、羽も作り物で竜人に憧れてそのこんな恰好してるだけで、人間で――」
すごい支離滅裂だな。大体しっぽも羽もガンガン動いてるんだけど。
「ええーと……」
「だからその、人間だから。仲間! そう仲間です!」
「はぁ…… わかった。仲間だ、お前も俺も人間だよ」
「はい!」
「ちょっと!」
しらすが小声で俺に話しかけくる。
「あんたそこまで馬鹿に……」
「話に乗ってるだけだよ! このままだとややこしくなるだろ」
「前みたいに変にややこしくしないでよ」
「わかったよ」
「誰と話してるんです?」
「あ、いやなんでもないんだ」
「んー?」
首をひねる少女。その仕草と合わせて完全にしっぽは動いているのだが、本人は人間だと言い張るのだから、ここは乗っておこう。
「ええーと、何でこんなとこに?」
「飛んで、じゃなくってその飛ばされて」
「へぇ……」
飛んできたみたいだな。
「住んでたところは?」
「この格好が変だからってみんなに追い出されて、ここにたどり着いたの」
「そっか……」
ハーフっていう話だからな竜人は、元の村でも奇異の目で見られ、人間の世界でもそれは変わらないか……
「ずっと一人で?」
「そうだよ。ここなら誰もミナの事いじめないし」
「そうか……」
ミナという名前らしい。ある程度状況は掴めてきたな。ハーフだからこその差別っていうところか、こういうのって現実にもあるんだな。
「お兄さんは? どうしてここに? どうやってきたの? 扉しまってたよね?」
「待て、少しずつ話すから」
ミナには自己紹介と俺のやっていること、どうやってここまで来たのか、ここに来た目的を伝えた。
「へぇ。じゃあ世界を救う英雄なんだね」
「そんなもんじゃない気がするけど」
「ううん。世界を救う旅をする人を助けてるんだからお兄さんも英雄さんだよ」
「そっか……」
少し救われた。前日に自分の意思とこの仕事それが噛み合っていなくて、仕方なくやっている自分に不甲斐なく感じていた。それでも、こうやって評価してくれる人がいるのなら、やってみてもいいかもな。
「金のえんどう豆ってこれでしょ?」
「それだよ!」
ミナのポッケから金色のえんどう豆が出てくる、名前の通り金色色に輝くえんどう豆だ。見れば見るほど趣味の悪いアイテムだな。
「これ、俺にくれないかな」
「んー。ミナこんな恰好だから誰も友達いなくて、お兄さんが友達になってくれるならいいよ」
「よし、そんなのお安い御用だ!」
「それじゃ、はい!」
「ありがとう」
ミナの手から渡される金色のえんどう豆。
「でもこれどこに置いとけば……」
「任せなさい!」
「お前は!」
突然後ろから現れたのは、前回のダンジョンでチェンジを言い渡された悪魔だった。
「私がそのエンドウ豆を預かり勇者の礎になりましょう!」
「いいのか?」
「ええ、私はこの通り偉そうではありますが、弱くてこの程度のダンジョンに持って来いの、中ボスの中の中ボス!」
「胸を張っていう事なのだろうか……」
「取りあえず私に任せなさい!」
「しらすは、いいのか?」
「仕方ないでしょ。今は魔王忙しいからどうせ反応しないし。こいつで我慢しまししょ」
「わかった。頼むよ」
「任せなさい! 私がこのエンドウ豆を勇者の成長と共に献上してあげましょう」
「あ、ありがとう」
こんなにやる気があるのはいいけど……逆にテンションが高すぎて引いてしまうよ。
「お兄さん、もう帰るんですか?」
「え? あぁまぁ用事も終わったし」
「ミナとお兄さんは友達です。なら一緒にいるべきですよ」
「え、でも、俺旅を続けないと」
「お兄さん嘘だったんですか……」
「いや、別にそういうことでは……」
「嘘をつくお兄さん何て嫌いです!」
「うわ!」
ミナの口から突然火が噴出される。
「待てミナ!」
「やっぱり人間なんだ! 人間は嘘つきなんだああああああ」
「っちょ!」
ミナの怒りは収まらないのか、火を噴き続ける。
「お兄さん何て燃えちゃええええええ」
「っく!」
この狭さでは何時か火に燃やし尽くされてしまう。扉から逃げないと……
「うわ!」
「お兄さん逃がしません!」
扉へと走り出すと、すぐにミナが回り込んでくる。さすがに竜人だけはあって、俺の目には一切とらえられなかった。
「ちょっと! あんたユウキは友達なんでしょ!」
「箱がしゃべってます!」
「あんたみたいなトカゲ人間よりましよ!」
「……」
あ、切れた。
「燃えろおおおおおお」
「何で火に油を注ぐようなこと言うんだよ!」
「うるさい! 口が滑ったのよ!」
「箱なのに口が滑るのかよ!」
「箱だって滑るわよ!」
何とか火をよけているが、さすがにやばいな。てかあの中ボス悪魔は?
「頑張ってください。応援してますよ!」
「助けろ!」
「私にそんな力はない!」
「なんでお前は弱さに対して名言するときそんなに格好つけるんだよ!」
「弱さを認めることは格好いいのです!」
「うるせえ!」
中ボスに突っ込みをいれながらも、火をよけていく。最上階のおかけで風が強く火自体はすぐ消されるのだが、少しずつ追い込まれていった。
「くそ……」
後ろは地上へ落下コース、前は丸焼きコースか……
「お兄さん、もう逃げられません…… ミナの心を弄んだ罪は重いです…… その生意気な箱ごと燃やし尽くします!」
「まてミナ!」
「一緒にいると決めてくれましたか?」
「確かに、俺はミナと一緒にここにいることは出来ない」
「燃やします!」
「まてまて、だけどほら、ミナと一緒に旅は出来る」
「一緒に……」
「ちょっと!」
「しらす仕方ないだろ。ここで殺されるわけにはいかないんだ」
「……わかったわよ」
納得はしてくれてはいないが、これが今できる最善の策ということがしらすにもわかったのだろう。同意の意見だけはもらえることになった。
「ミナも一緒に旅をしてもいいのですか?」
「あぁ」
「でもミナ人間じゃないですよ?」
「別にかまわない」
「みんなに白い目で見られますよ」
「大丈夫。しっぽも羽も隠せばいい」
「でも……お兄さんがミナと同じ目にあうなんて」
「気にするな。友達だろ」
「お兄さん……」
精一杯笑顔を作る。ミナを安心させるように、この寂しがり屋の子を少しでも寂しくさせないように。
「ミナ、確かにお前は普通とは違う。だけどな、違うって事は必ずしも悪くないんだよ」
「そうなんですか?」
「ミナがいてくれたら、焚火も簡単。動物だって怖くない。どうかな? ミナ俺のために一緒にきてくれないか?」
「…… お兄さん、ミナお兄さんの為についていきます! 付いて行って友達たくさん作ります!」
「あぁ! その意気だ!」
「ミナ! 頑張ります!」
こうして俺たちの旅に竜人のミナが加わった。中ボスは少し焦げてしまっていたがエンドウ豆は死守をしてくれたらしい。小さな塔の主を仲間に入れて俺たちは旅を続けていく。
「はぁ……本当はダンジョンリフォームは、リフォーマーだけでやるのに……」
そんな風にしらすがぼやいていたが、どんなに成り行きでなった仲間とはいえ、増えたことを喜ぼう。ただ……
「ミナ。この箱は嫌いです!」
「何よ! このトカゲ!」
「箱の癖に! 燃えろ!」
「うわ! だからミナ俺がいるから!」
「お兄さんから離れなさい!」
「こいつは私を運ぶ使命があるのよ!」
「燃えろ!」
「だからミナ!」
「お兄さん! この箱何とかしてください!」
「ユウキ! このトカゲなんとかしなさいよ!」
「はぁ……」
仲の悪い二人に囲まれて今後暑い日が続きそうな予感がする、第二ダンジョンのリフォームだった……