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ダンジョンリフォーマー  作者: アスムン
箱とダンジョン
3/7

奴隷一週間

第三部奴隷一週間

「ほら起きなさい!」

 朝早くにフラルの怒声と、蹴りによって起こされる。

「いてえ!」

「蹴ったから痛くて当然です」

 昨日から引き続きいい笑顔ですよほんと。初日のあの優しいフラルさんはどこにいったのやら……

「ほら、まずは朝食を作って頂戴」

「ええー……」

「言いふらすわよ」

「はい!」

 王都で、嘘とはいえ俺が無抵抗の女を襲ったなんて流された日には……名誉もへったくれもない状態になる。

「はい、ここがキッチンね」

 フラルに連れられてきたキッチンは、少しの食材と調理器具が数点。

「ええーとこれでどうしろと……」

「サラダと、お米炊いてくれればいいです」

「といわれても……」

 火がない……てか昨日はどうやってフラル料理作ったんだよ……

「ふふふ。私の出番ね!」

「しらす、いつの間に!」

 俺の真後ろに突然現れたしらす。一体いままで何処に居たのか。

「これを使うがいいわ!」

 突然しらすの中から出て来たのは、先端に赤い宝石のついた杖。

「これは?」

「これは火の魔法を誰でも扱える杖よ」

「へぇ」

「一振りで山一つ焼失させれるわ!」

「そんなもん振れるか!」

「ええー」

「ええーじゃねぇ! ここら一体ウェルダンにしてどうすんだよ!」

 非常識な威力の杖を料理に使う事なんて出来るわけがなく。この杖はしらすに返すことにした。

「仕方ないわね。これでどう」

「これは?」

 今度しらすから飛び出て来たのは、細い金属の先端に先ほどの魔法石の着いたものだ。しかも今回のはさっきのよりかなり小さい魔法石だった。

「それの、魔法石の着いてない方の先端押してみて」

「こうか?」

 言われた通り軽く押してみる。

「うわ!」

 いきなり小さな魔法石から小さな炎が飛び出した。

「どう?」

「先にだせよ!」

「あっちの方がお気に入りだからね」

「うるせえ!」

「うるさいのは、ユウキですよ」

「へ?」

 さっきまで黙っていたフラルが凄い怖い笑顔でこっちを見ていた。

「早く料理作ってください。私お腹が減りました」

「は、はい……」

 凄い威圧感で迫られて、俺は肯定の言葉しか出す事は出来なかった。

「しかし……」

 火が出るようになったものの、俺は料理なんてほとんどしたことがなかった。

「米ってどうやって炊くのだろうか?」

「そこから!?」

「しらすだって、箱なんだからわかんないだろ?」

「いや普通に知ってるよ……」

「負けた……」

 箱にすら負けた……いやまて、俺はまだ成長途中だし、それに何時も親からはやればできる子って言われてきた。そう俺はやればできる子だ! ここから米の炊き方を覚えればいいんだ!

「ユウキさん……」

「はい!」

 またもや笑顔でフラルが近づいて来ていた。

「は・や・く・し・て・く・だ・さ・い」

「わ、わかりましたから、包丁を手でパシパシしないでください」

「あんまり遅いと朝から肉料理になっちゃいますよ」

「朝頑張ります!」

 あまりの殺気に俺は窯の前に瞬時に立つ。しかしどうすれば……

「お米を、窯に入れて洗うのよ」

 突然しらすが、背中に背負われた状態になり、小声で米の炊き方を教えてくれた。

「わかった」

 その後はしらすのアナウンス通り動き、米はあと待つだけになった。

「ユウキさん後は、サラダですよ。盛り付けるだけなんですから、できますよね?」

「それなら俺だってできるよ」

 それぐらい、皿に盛るだけだから出来るさ! そう思い俺は用意されていた野菜を適当に皿の上に置いていく。

「どうだ!」

「センスのかけらもないですね……」

「これはひどい……」

「お前までもか!」

 俺らのサラダは女子と箱には不評だった……その後何とか米は炊けた。

「これで朝飯か……」

 なんだか朝っぱら疲れた……これがあと六日も続くのか。

「はい、これも」

 そういってフラルはスープを出してくれた。

「これは?」

「米とサラダだけでは、朝食じゃないですからね、スープ作っときました」

 そういうと、フラルは俺としらすの分のご飯とスープをよそい、朝飯の準備をしてくれた。まさかこの子にこんなに優しい所があるなんて。

「いただきます」

 ようやく朝食が始まり。しらすを昨日と同じく椅子に置き二人と一個で食べる。

「ごちそうさま」

 朝飯が終わりようやく、俺の安全な時間が始まった。

「それでは次の仕事です」

「へ?」

 その考えは甘かった。そのままフラルに連れていかれたのは畑、この町は農業が盛んではあるものの、若い人が少ない所為で老人が畑にでているらしく。

「ありがとうねぇ」

「はぁはぁ……」

 俺はフラルの命令でその畑仕事を手伝っている。しらすを背負いながら……

「なぁ、おりろよ」

「嫌よ」

「重いんだよ」

「重くないわよ!」

 あぁまたこの展開になるのか……今は慣れない畑仕事で辛いから、これ以上の言い争いはよそう……

「フラルちゃんありがとうね」

「いえいえ、彼が働きたいって言ってくれたんですよ」

「へぇ、旅のお方なのに優しいのねぇ」

「本当ですね。私も感謝してるんです」

 ウフフフとでも聞こえてきそうな位優雅に、フラルとおばあさんは話しをしていた。完全に嘘をついているのに、あんなに平常心でいられるのは、やはり猫をかぶっている内についた能力なんだろうか……

「女って怖いな……」

 その姿を見てほとほとそう思った。それからは、夕方までいろんな場所の畑仕事を手伝いに行かされた。途中優しい老夫婦が昼食をくれて、昼食は何とか食べる事が出来たのは不幸中の幸いだった。

「疲れた……」

 フラルの家に帰ってすぐに、俺は倒れこむ。

「ユウキ汚い」

「鬼だな。あんたは……」

「私の家ですから。床をユウキの汗で汚くされたくないんです」

「これまた笑顔で、ひどい事言う」

「笑顔だったら、怒れないでしょ?」

「はぁ……」

 本当に、人の心をつかむのがうまいというか……あまりに爽やかな笑顔を向けてくるフラルに、不思議と苛立つは起きない。

「あんた、将来尻にしかれそうね」

「箱にしかれてるけどな」

「あんたが、私を背負って倒れてるだけじゃない」

 あぁ、疲れてボケもキリが悪いな……

「それじゃ、ご飯作ってくるわね」

「っへ?」

 フラルから考えられない言葉が聞こえてきた気が……

「何?」

「いや、ご飯がどうとかって」

「作ってくるっていってるのよ。悪い?」

「いや……」

「だったら、黙って待っときなさいよ」

「はい……」

 そういうと、不機嫌そうにフラルはキッチンの方へと向かっていった。

「口調素に戻ってたわね」

「あぁ……これはあれか、仲良くなれたと喜ぶべきか?」

「あんたを完全なる奴隷と見たとも見れるわね」

「ネガティブな発想だよ……」

 キッチンから聞こえてくる、料理の音を聞きながら疲れ切った俺の意識は、少しずつくらくなっていったのだった。

「っは!」

 あれから、何時間位たったのだろう? 流石にお腹が減って俺は目を覚ました。

「あれ? しらすは?」

 背中に居たはずのしらすはいなくなり、フラルの姿も見えなかった。

「どこにいったんだろう?」

 今日の朝に朝食を食べた場所に行く。案の定二人はそこに居て。

「おーい。俺の飯……」

 その机にあったのは、綺麗に食べられた空の皿だった……

「腹減った……」

「ユウキが、寝るからわるいのよ」

「起こしても、起きないから。全部食べたわよ。この愚鈍」

「フラルどんどん俺への暴言がひどくなってないか」

「私は悪口はいってないわよ。真実を言ってるの」

「真実っていうのは時に暴言より、殺傷能力がある事を覚えようね……」

 あの、悪びれない感じが逆に俺が本当に愚鈍なのではないかと思わせられる。

「本当にないの?」

「ないわよ」

 フラルは即答で答える。実際少し前までそこにあったであろう、料理の姿は消えて、汚れた皿だけが机には存在しているのだった。

「ほら、お皿洗って」

「はーい……」

 言われた通りに、俺はお皿を洗う為井戸の方へと向かった。

「はぁ、はら減ったのに井戸の水汲んで皿洗いか……」

 今までの俺だったらこんな事絶対しなかっただろうな。全て両親に任せて、料理も寝床も全て何もしなくても手に入ってたのに。

「はぁ……っぐ!」

「ため息ばっかりねぇ。あんた」

 いきなり背中に重量を感じたと思ったら。しらすがいつも通り俺の背中に背負われていた。

「そういわれても、奴隷だぜ」

「あんた、無職だったんだし。奴隷のがましじゃないの?」

「無職のがましだよ」

「そんなもんなの?」

「そんなもんだよ」

「ふ〜ん」

 聞いて来てあまり、興味なさそうにしらすは返してくる。現在奴隷なんだから、無職の方がましだろうに……

「それで、何しに来たんだよ」

「はいこれ」

 そういって、しらすの中から出て来たのはおにぎりだった。

「これ……」

「フラルがあんたにってさ」

「フラルが?」

「まぁ根はいいこなんじゃない?」

「そっか……」

 会ってから二日で愚鈍と言われ、奴隷にまで下げられた俺だけど、おにぎり一つもらっただけで、フラルの事を優しいと感じてしまっていた。

「いただきます」

 貰ったおにぎりを食べる。たった一つのおにぎりがやけにおいしかった。

「うまいな」

「働いたからじゃない?」

「一日中働いたもんな……」

 今日一日フラルに振り回されて、自分で働いた。学生から無職になった俺には体験した事のない経験だったのかもしれないな。

「うん。奴隷もいいかもな」

「え? あんた変態なの?」

「ちげえよ!」

「だっていいって……」

「そういうんじゃなくて」

「いいわよ。私黙っててあげるわ」

「違うっつの!」

「人にはね、言えない趣味の一つや二つ」

「きいてくれよおおおおおおおおおおお」

 こうして奴隷一日目の夜が終わった。結局、しらすの誤解はとけず俺は奴隷志願者というレッテル貼られたまま、次の日を迎える事になったのだった。

「この変態奴隷志願」

「やめてそれ」

 次の日の朝、予想通りフラルにまで話しは伝わっており。変態奴隷志願に俺はクラスアップされていたのだった。そんな変態奴隷志願の俺にフラルは全く容赦はなかった。やれ、畑仕事だわ、やれ狩りにいけだとか、家事全般から全てを俺にやらせ。フラルはいつも昼頃には出かけて夕飯を作ったあたりで帰ってくる。そんな日々が3日程続いたある日。

「もう我慢ならねえ! 俺を働かせておいて自分は遊びにいくとか、どういう神経してんだ。あのドS女!」

「今更切れるのね。もう3日もたってるのに」

「しらすは、怒ってないのか?」

「私は別に、全部ユウキがやってるだけだしねぇ」

「お前は背中に背負われてるだけだからな……」

「箱だし」

 すぐこれだ。箱だったら何してもいいと思ってるのだろうかこの箱は。

「幸い今日は部屋の掃除だけだ」

「そうね。畑仕事とかはあんたが全部やっていったからね」

「フラルを尾行するぞ」

「本当に変態になりはてるの?」

「違う! あいつが遊んでるとこに現れて叱ってやるだけだ」

「なんていうか、マイルドな仕返しね」

「っふっふっふ、驚く顔が目に浮かぶぜ」

 待ってろよ。今までこき使われた分、驚かせてやるぜ!

「あぁでも、その前に」

「その前に?」

「トイレ掃除しないと」

「あんた、奴隷が板についてきたわね……」

 一通りの掃除を終わらせた後は今日のメインイベント、フラルの尾行。狭い町なのですぐに見つかり尾行することにした。

「どうせ。あいつのことだ、猫かぶって迷惑かけるに違いない」

「そんなことしてたら、村中で噂になってると思うけどねぇ……」

「しらすは乗り気じゃないのか?」

「まぁ、あんまり重要な秘密が出てくるとは思えないし」

「ふん! 俺は行くぞ!」

「はいはい……」

 少々呆れ気味なしらすを背負ったまま俺は尾行を続けていく。狭い村なのでかなり遠くからの尾行になっているが、まぁなんとか見えてる位置に陣取りながらフラルを追いかけていくことができていた。結局俺の計画は単純だ。あいつの秘密を見つけたら出て行ってこの奴隷生活を抜け出すことだ。

「普通に、皆に挨拶してるだけね」

「すぐにぼろをだすさ」

 そう思っていた俺だったが、フラルは俺の予想とは裏腹に誰かにたかったり、迷惑をかけたり問題を起こしたりすることはなかった。

「くそ、普通に過ごされたら意味がない」

「あんた、心底ダメなやつになってるわね」

 焦りかけていたら、フラルは村のはずれに向かっていく。

「あんな方向に何があるのかしら?」

「どうだろ? 俺たちはここの村に詳しくはないからな」

 そんな謎な行動を起こしたフラルを俺たちは追っていく。俺にとってもこれには期待していた。町はずれに行くなんてどう考えたって怪しいだろ。そう思ってついていったのだが。

「お姉ちゃーん」

「はいはい。落ち着きなさい」

「フラル、いつもありがとう」

「別にいいわよ」

 村のはずれにあったのは。協会の跡地のようなところで子どもたちが遊んでいる場所だった。

「ここは?」

「たぶん孤児院じゃないかしら?」

「孤児院?」

「ええ、協会が孤児院を経営することがあるって聞いたことがあるわ。この調子では孤児院を経営していた協会は撤退したのだろうけど」

「確かに、シスターらしき人はいないな」

 いるのは、フラルと同い年ぐらいの女の子が、フラルと一緒に子どもたちと遊んでいるだけだ。

「いつもここにきてたのか……」

 フラルは一人で住んでいるときからこうだったのだろうか? 俺がやっていたことはフラルがやってきたこともある。老人の畑を手伝いながら、孤児院の子どもたちの相手をしている。

「あいつ自身はいつ休むんだろうな……」

「今じゃない?」

「今?」

「今はあんたがいるでしょ」

「……」

 今は俺がいるか、確かに今は俺が仕事をしているために、この孤児院にもこの時間にこれるのだろう。ならば、一人だったときはどうしていたのだろう。フラルは一人でこの激務を耐えてきたのだろうか?

「ただのドSじゃなかったんだな」

 孤児院の子どもたちに勉強を教えだしたフラルを見ながら俺はそう自然に呟いていた。

「帰るか……」

「いいの?」

「あぁ」

 しらすには、疑問に思われたがこれ以上見る必要はないと感じた俺はその場を後にしてフラルの家に帰って行った。残った仕事をあいつが帰ってくる前にこなさないといけないからな。それからは、速攻だった。尾行をしていたせいでいつもより時間がなく。自らの力を最大限に発揮して、なんとかフラルの帰ってくる前にすべての仕事を終わらすことができた。

「ふー」

「あんた、本物の家政夫なれるよ」

「うれしくねえ」

「それにしても、よく頑張るわね」

「まぁ、フラルがただのどSじゃないってわかったからな」

「誰がどSなんですか?」

 いつもの嘘の丁寧口調が後ろから聞こえてきた。俺はゆっくりと首を後ろに回していく。

「帰ってたのか?」

「ええ、変態尾行奴隷志願の監視をと、いつもより早く帰ってきたんですよ」

「気づいてたのか!?」

「あんな大きい箱背負ってる人を気付かない人はいないと思いますよ」

「あはは……そっか」

「ええ……そうです」

 やべえ、めっちゃ怒ってる。いつもの笑いながらの静な怒りだよ。

「取りあえず」

「取りあえず?」

「殴ります」

 その言葉を最後に腹にとてつもない激痛が走り、俺の意識は飛んでいった。

「それで、あんた、何で孤児院であんなことしてるの?」

 俺の意識が戻りかけてきたときしらすのそんな声が聞こえてくる。

「昔は、私金持ちの子だったのよ。父がここの孤児院の出身でね。金持ちになったもののそんな家柄もよくなかったから。周りの家柄のいい奴に殺されて、出身地のここに戻ってきたのよ」

「へぇ……」

「それで、私の両親は私や使用人を逃がすために、犠牲になって、私はここで両親が残したお金と家でのうのうと暮らしてるってわけ。笑っちゃうでしょ」

「少しわね」

「いうわね」

「あんたが笑えるっていったんでしょ」

「まぁね」

 そういってフラルは手にもっていた飲み物を一口飲んでいく。少しだけ息を吐くとそのまま言葉をつづけた。

「もう、あの時は怨んだわ。この境遇をこの村をね、だってそうでしょ。父がここの村に生まれたからこんなことになったんだから。でもね、ここの人はやさしくて、私にずっと話掛けてくれて、助けてくれた」

「確かにここの人はそうね」

「ええ、だからこそ。こんなに田舎のままなんだろうけどね。みんな欲がないから」

 フラルのいう通り。ここの人たちは便利な生活を望んでいない。そのため確かに若い世代は少なく、いつかは廃村になる可能性は否めないが、個々の人たちはみんな幸せそうに生きていた。

「それでね、知ったのよ。父があの孤児院出身だって。もともと唯の孤児院だったあそこは、この村の財政難を何とかするために労働力を都や村に送る所になってたわ。父は運よく王都に丁稚奉公にいって。そこで運よく成功しただけなのよ」

「あの孤児院ってそういう目的だったのね」

「でもね。それっておかしいでしょ? あの子たちは親に捨てられたり、親が死んだりしただけで決められた人生しかいきれないのよ。だから私があの子たちに知恵を教えてるの」

「自由に生きれるために?」

「そうね。自由に生きれるためによ……」

 フラルはそういいながら、悲しい目をしていた。彼女自身が今自由にいきれていないからだからだろうか? それとも、自由に生きることが出来ないその悲しみを知っている彼女は、あの子どもたちの悲しみをそれほど感じているのだろうか?

「まぁ、あんたが孤児院で先生してる理由がわかったわ」

「そう」

「だったらこのバカを頼りなさいよ」

「え?」

 そういってしらすの中から出た手が指差したのは俺だった。寝たふりをして話を聞いていた俺は声を出しそうになったが、そこは何とか堪えて、話を聞くことに専念する。

「後4日あるわよ。こいつのことだからその分は一生懸命働くわ」

「そうね。確かにそうかもしれないわね。ふふふ」

 優しい微笑みだった。子どもたちに見せていた、フラルの素の微笑み。今までで初めて見た微笑みだった。

「私が王都でユウキの噂流したって信じるわけないのに」

「そうね。まぁこいつはバカだから。気づかなかったか。バカなぐらいお人よしかのどちらかだと思うけどね」

「私は前者だと予想するわ」

 前者でした……全く知らない村から来た。謎の少女の話なんて誰も信じる訳ないよな。なぜ気づかなかったのだろう……

「それじゃ、今日は寝るわ」

「そうね。こいつも起きないし」

「ええ。お休み」

「お休み」

 そういってフラルは俺としらすが寝ている部屋から出ていく。フラルもそのまま言葉を発することはなくなった。そしてその日は明日から一日一日を大事にしようと思い。フラルのためにできることはないのかと考えていたら眠っていた。その後俺はフラルのためにさまざまな仕事をした。何時もの家事全般や、畑仕事、そして狩り等をして、保存のきく食べ物を作ったり。俺がいなくなった後もフラルが楽になれるように工夫をこらし、一日一日を大切にしてきた。そして、すぐに契約の終わる日になっていた。

「なぁ、しらす」

「なによ」

「フラルのためにさ……」

「だめよ」

 俺の続く言葉を遮るようにしらすは静止の言葉を投げかけてくる。

「どうせ、残って手伝いたいとかいうんでしょ」

「そうだよ。だって」

「あんたが手伝って、ここで旅を終えると、世界が滅ぶのよ。滅んだらフラルだって死ぬわ。そんなの本末転倒でしょ」

「あぁ……」

 わかってはいた。今の俺の使命がそれほど重要なこともフラルだけに関わっていられないことも。それでも言わずにはいられなかった。それだけで納得したくなかった。

「あんたが、どう思おうとこれはやらなきゃならないことなの」

「わかってるよ……」

 俺は無力だった。世界を天秤にかけられたら、それを選ぶことはできなかったのだ。

「だったら別れの挨拶ぐらい」

「そんなことしたら、つらくなるだけよ」

「わかったよ……」

 しらすは、最後の日の前の日に出発することを提案してきた。そうしないと、別れが辛くなるからと言っていた。

「じゃあな。フラル」

 寝ているフラルに家の外から声を掛ける、聞こえないことはわかっていた。

「次はまた王都に戻るわよ」

「あぁ……」

 王都ならまた会えるかもしれない。ただ俺はそれからも旅を続ける。フラルは孤児院の子のためにここに残るだろう、会えることはないのかもしれない……

「この、へんたいやろうおおおおおおおお」

 俺たちが外にでて、村が小さく見えるころになっていた時だった。小さな影が手を振りながら大声でしゃべっていた。

「勝手に出ていくなよ。まだ契約は数時間のこってるんだからなああああああ」

 フラルの声だった。大声で俺をよんでいる。

「だから、だからさ……いつか帰ってこい! たった数時間でも私の奴隷なんだからあああああああああああああ」

 奴隷の関係は変える気はないのかよ……ただそう突っ込みを入れてやりたかったが。そんな風に、お茶らけることはできず。あの時と一緒の言葉で。

「あぁ、また!」

 握りこぶしを振り上げてフラルに見せていた。フラルは何時までも見ていてくれた、体を翻し、王都へ向かうその一瞬、あの時子どもの前で見せていた、フラルの微笑みが俺に向けらているようで、見えてないはずのその顔がやけに鮮明に感じられたのだった。


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