チュートリアルなダンジョン
第二部 チュートリアルなダンジョン
半日歩き続け、ようやくコムル村に着いた時には日が落ちていた。
「ようやくか」
「今日は宿に泊って明日からダンジョンを作りにいきましょ」
「あぁ、わかった」
しらすの言うとおり、まずは宿を探して明日に備えよう。そう判断したのだが…
「宿無くないか?」
そう、ここは冒険者や旅人が来るような村ではない。農業が主な小さな村だったのだ。宿など経営している人がいるわけがなかった。
「ほんとう、ないわね……」
「どうすんだよ! お前に言われてここに来たんだぞ!」
「知らないわよ! 私はここで勇者が選ばれるから、ここに来ただけなんだから、ここの村の事情何て知るわけ無いじゃない!」
「逆切れかよ!」
「逆切れよ!」
全く悪びれねえ。何でこんな奴が案内役なんだよ。
「お前に文句言っても始まらねえな」
「やっとわかったわね」
「お前は少し謙虚になる事を覚えろ」
「あんた、どうあっても私を馬鹿にしたいようね」
そこからは、口喧嘩。ただ、周りからすると一人で口喧嘩してるように見えるのだろう。一切誰からも話しかけられる事はなく、5分ほど口喧嘩をしていたら
「あのお」
「「あぁ!!」」
「っひ!」
いきなり、女の子が話しかけて来た。あまりに白熱した口喧嘩中だったので、二人でハモりながらの威嚇。女の子はおびえた面持ちで、こちらをうかがっている
「あぁ、ごめん。ちょっと熱くなってて、君は?」
「はい、この村に住んでいる。フラルです」
「フラルか、俺はダン……」
「ちょっと!」
突然しらすが俺に制止の言葉を送ってくる。
「なんだよ」
「ダンジョンを作ってるってことは、秘密なのよ」
「なんで!?」
「世界が滅ぶ何て知ったら、負の感情が増幅して、封印が解除されるのが早まるのよ。あれは闇そのものだから人間の負の感情でも強くなるのよ」
「っげ! わかったよ……」
ここで、封印が解除されるのが早まるのは困る。勇者が選ばれて、成長する前に封印が解除されてしまえば、ダンジョンを作るどころではないからな。
「あのー、誰と話されてるんです?」
「あ、ええーと……」
「さっきも、ずっと誰かと喧嘩してましたよね」
見られてるし……これは、言い訳できないな。
「ええーと、こいつです」
そういって俺はその子に背中を向ける。
「宝箱?」
不思議そうな顔でフラルは、しらすの事を見つめていた。
「なに見てんのよ」
「っひゃ!」
流石にすぐには信じていなかったのだろう。しらすが喋ったら、フラルは驚きの声をあげる。
「本当に、喋るんですね!」
「こいつはしらす、俺はユウキっていうんだ」
「へえ、ユウキさんと、しらすさんですか」
不思議そうな目をやめずに、フラルはじろじろと、しらすのことを観察する。よほど珍しいんだろうな。まぁ、喋る宝箱何て普通見ないからな。
「ちょっとあんた」
「はい?」
「あんまり見ないでよね」
「あぁ! すみません!」
大げさに謝るフラル。謙虚なところは、しらすに見習わせたいぐらいだなぁ。
「それで、あなたたちは何でこんな村に?」
それは、もっともな意見だった。観光資源もなく、周りにこれといった地下資源もない。ここを経由していく大きな街もないので、旅人はここに訪れる事は無いに等しい。
「ええーと、旅をしててちょっと……」
「はぁ……」
正確な事は言えないので、どう言い訳をすればいいのか……
「言えない事情なんですね」
「ええーと、うんそうなんだ」
「わかりました。これ以上は聞きません。ここでは宿屋もないですから私の家に来てください」
「いいの!?」
「はい。野宿させるわけにはいきません。この村に来るお客さん何て久々なんですから」
「ありがとう」
「はい。ではついてきてください」
そうして彼女は身をひるがえして、自分の家の方に向かう。それを俺たちは追いかけていった。
「ここが私の家です」
フラルの後を追い、すぐに家に着いた。この村自体があんまり広くないので当たり前のことなんだが。
「一人で住んでるのか?」
「ええ、私両親を早くに病で亡くしてるんです」
「ごめん……」
「あ、気にしないでください。ここの村は全員が家族みたいなものですから。皆が助けてくれて、私は幸せですよ」
そういうフラルの笑顔は、本当の笑顔だった。俺が住んでいた王都では、ここまで近所の人間と仲がいいという事はなかったな。
「あんたの、無神経さは筋がね入りね」
「なんだと!」
「本当でしょ。家に明かりがついてないからって、すぐに聞く? そんな事」
正論だよ! 全く言い訳が思いつかない位の正論をぶつけてくるなよ……
「いや、それは……」
「気にしないでください」
フラルのその笑顔だけが俺の味方だよ。
「いいのよ。フラル、こんなやつに気を遣わなくて」
「いえ、別に気を使ってるわけでは……」
「フラルが困ってるだろ」
「何、私が悪いの?」
「はいはい、俺が悪かったよ」
「あんたはすぐそうやってやる気の無い返事をする!」
「いいだろ! 俺が悪いって認めてるんだから!」
「どうしてあんたが悪いの! 理由を的確に述べてからいいなさいよ!」
その言葉に言い返そうとしたその時だった。
「やめてください!」
フラルの精いっぱいの制止の言葉なのだろう。その見た目や、雰囲気からは想像がつかないほどの大きな声で俺たちを制止した。
「二人とも、友達なんだったら喧嘩はよしましょうよ」
「俺たちって友達なのか?」
「さぁ?」
「喧嘩するほど仲がいいって言いますよ。だから友達です!」
「はぁ……」
結構変わった子なのかな? なんだかとてつもない理論を力一杯言ってくるんだが。
「取りあえずご飯にしましょう。すぐ作ります。そこの机に座っててください」
そういうとフラルは台所の方に向かっていった。俺はフラルに言われた通り、机に座る椅子は三個あった。昔亡くなった両親のなんだろうな。四角い机に三つの椅子。
「ちょっと」
「なんだよ」
「私を椅子に置きなさいよ」
「え? お前も食べるの?」
「当たり前でしょ!」
当たり前かどうかはおいといて、こいつに反論するとまた喧嘩が起りそうだし。取りあえず言う事を聞いて、椅子にしらすを置く。
「お待たせしました」
フラルは、鍋に入ったじゃがいもを煮た料理とパン。それにスープを持ってきてくれた。
「へぇ、おいしそうじゃないか」
「ありがとうございます。でも煮ただけですから」
フラルは恥ずかしそうにそう答えた。正直、俺は料理の事何て一つもわからない。だが、俺より出来るという事だけは分かる。
「早く食べましょうよ」
「あ、はい」
「フラルさ、当たり前のようにしらすの料理持ってるけど……」
「しらすさんだってご飯位食べますよ」
「だよね!」
なんだこれ、俺がおかしいのか? 喋るといっても宝箱がご飯を食べるっていうのが常識な謎の世界に来たわけじゃないよな?
「それでは、いただきます」
フラルの号令にあわせ。三人で食事の号令をする。
「うまい」
煮た芋は、甘辛く煮つけてあり芋だけでも十分食べれるような代物だった。
「ありがとうございます」
「本当おいしいわ」
まじか! あいつが食べてるのか! そう思って見てみると、宝箱からは手がでていてフォークを掴んでいた。そして、器用に芋を差すと箱に入れていく。
「うわぁ……」
「なによ!」
「いや、ええーと食べてるの?」
「見てわからないの? あんた……そこまで……」
「どういう意味だ! 箱が物を食べる姿なんて初めてだから驚いただけだ!」
「そう、人の食事はまじまじと見ない事ね」
「わ、わかったよ」
よし、深く考えるのはよそう。あいつは謎の存在だ。何が起きたっておかしくないよなうん。
「いっぱい食べてくださいね」
フラルは全く気にしてないみたいだし……これが当たり前だうん!
「よし、くうぞ!」
なんだか納得いかない気持ちを抑え。俺は食事を楽しむことにしたのだった。その後フラルの家に一晩泊めてもらい。次の日
「それじゃ、フラルありがと」
「はい。久々に一人以外で一日過ごせて楽しかったです」
「いつかまた来るわね」
「おい! 勝手に決めるな」
「なによ! こないっていうの?」
「いや、そうじゃないけど……」
「ふふ……二人ともお気をつけて、また今度!」
俺たちのやりとりを微笑ましく見つめた後フラルはそういった。彼女はなんだかんだで、一人で生きて来たのだ。彼女の方が寂しいだろうに、フラルはただ笑っていてくれた。
「あぁ! また!」
手を振り、フラルを見ないように翻る。目指すは初めのダンジョンだ。
「で? 村から格好よく出たのはいいが。ダンジョンってどこ?」
「ここから少し北にいって」
「北って、街道は完全に外れるぞ」
「いいから」
「わかったよ……」
少し納得はいかないが、今はこいつの言う事を聞く以外に目標はないからな、しらすの言うとおり北へ進んでいく。
「ここよ」
ある程度進んだら開けた平原に出た。
「ここって、何も無いだろ?」
「鍵もってるわよね」
「あぁ、これか?」
俺はグレイス家の家宝といわれていたあの鍵を取り出す。大事なものだから、なくさないようにネックレスにして付けていたのだ。
「それがダンジョンを復活させる鍵なの」
「復活?」
ダンジョンが復活? だが、ここまで来たらやってみるしかないだろう。
「どうすれば?」
「それを天に掲げて」
「こうか?」
手に持った鍵を掲げる。何も起こらない……
「おい」
「そのあと、グレイスパワー! ってさけんで」
「まじ?」
「うん」
まさかの恥ずかしさマックスの掛け声、てか何故家の名字を叫ばなきゃなんねえだよ。いや、しかし家は勇者の仲間の末裔それならもしかしたら。覚悟を決めろ!
「ぐれいすぱうわぁああああああ」
精いっぱい叫ぶ。今までこんな大きな声を出した事はないよ。
「うわ、引く……」
「引くなよ!」
「嘘にきまってるでしょ」
「決まってるの!?」
「普通に、ひらけダンジョンって言えばいいのよ」
「そんな無駄な嘘つくなよ!」
「信じると思わなくてごめん……」
「やめて! みじめになるから本気で謝らないで!」
俺の心はそこまで強くないから! あんまり攻撃しないでよ……
「いいから、さっさとダンジョン復活させてよ」
「お前、結構冷めてるな」
「そんなボケに付き合ってられないわよ」
「っちぇ、はいはい。ほらいくぞ、開けダンジョン!」
言われた通り、鍵を掲げ呪文を唱える。何も起きない? そう思った時だった。
「なんだ!」
いきなり地面が揺れる、目の前の平原の地下から現れて来たのは、洞窟だった。
「洞窟が……」
「これが、最初のダンジョンよ」
「いや。え?」
「取りあえずほら、入りなさい」
「あ、はい……」
あっけにとられていた俺は、しらすの言う通り、その洞窟に入っていくしかなかった。入ってすぐは暗くてよく見えないが、開けた場所に出る。
「何も見えないな……」
「はいこれ」
そういうと背中からしらすの手が目の前に現れる。そこにあったのは光っている石?
「これは?」
「簡単に言うと魔法石ね。それがあれば暗くないわよ」
「へえ」
手にとってみる。
「これだけだと近くは見えるけど、周りは見えなくないか?」
「いいのよ。すぐそこの壁見たらボタンがあるでしょ」
「ええーと」
左右どちらかのすぐそこにボタンがあるようなので、あたりを見渡す。すぐ右の壁にボタンらしきものがついてあった。
「これか」
スイッチを押す。ガコンという音ともにスイッチは押され一気に壁にかかっていたのであろう松明の火がついた。
「うわ! どういう理屈だ……」
「気にしない。魔法だからね、魔法は気にした方が負けよ」
「はぁ……」
松明のお陰で周りが見えるようになる。ここから見えるのは現在居る開けた場所、そして、その先には一本道が先にあるだけだ。
「簡単な構造だな」
「まぁ最初だからね。ただの説明用のダンジョンよ」
「へぇ」
「取りあえず、あの一本道に入る唯一の道に魔物を置きましょうか」
「どうやって?」
「これを使うのよ」
さっきと同じように出て来た手に乗っていたのは、青い水晶。
「ただの水晶じゃないのか?」
「これに手をかざして」
「こうか?」
水晶に手をかざす。すると、水晶が光り出した。
「うわ!」
「別に何もしてこないわよ」
「俺は魔法とかと一切関わってこなかった人種なんだよ!」
「それでも勇者の仲間の末裔?」
「うるせえ!」
「ほら、くるわよ」
「え?」
そう言われて、すぐだった。突然青水晶の光がやみ。
「はい、こちら。うまくて安心値段はピンキリ魔王の食堂、魔王堂です」
「ええーと」
「お弁当などの申し込みでしょうか?」
どういうこと? 突然水晶から声が聞こえて来たと思ったら。なんか弁当の申し込みだと思われてるんですけど。
「いやそういわけでは」
「では求人を見て、連絡くださった方ですか?」
「え、求人出てるんですか?」
「はい、配達スタッフの方募集しています」
「本当ですか!?」
「この。馬鹿!」
いきなりの鈍痛。頭をしらすに思いっきり叩かれたらしい。後ろからだから、全く身構えてなかったせいで痛みが直ぐにひかないほどの衝撃だ。
「いってぇ!」
「そんなことの為に使ったんじゃないわよ!」
「それでは求人の説明です。配達スタッフの募集でしたら、飛べる事が出来る方がいいんですけど。飛べますか?」
「いや、飛べませんけど……」
「そうですかぁ。もし採用という形になったら、一応魔法アイテム等があるのでそれで飛んでいただく形に」
「だから、違うっての!」
「俺を叩くな!」
しらすは、苛立ったのか何度も何度も俺を叩いてきていた。あっち側は声が聞こえるだけで、こっちの状況はわからないのだろう。普通に話を続けてくるのだ。
「ああもう! 私達はダンジョンを作ってるものよ! 魔王だしなさい魔王!」
「ダンジョンリフォーマーさんでしたか。魔王の方が、今キャベツの千切りをしてまして」
「なんで魔王がそんなことしてんの!?」
「魔王の作る千切りがそれはもう人気商品でして」
「そんなもんが人気商品になるのか……」
「呆れるわ……」
「少々待っていてください」
それだけ言うと、水晶からの声は途切れた。
「どうする?」
「待つしかないわよ」
流石にしらすも、諦めたのだろう。声から元気は感じ取れなかった。
「はい、変わりました。私が魔王です」
さっきとは違う女の人の声が聞こえて来た。
「あ、ダンジョンリフォーマーのユウキです」
「ダンジョンリフォーマーか、客じゃないなら。敬語使う意味無いなぁ」
いきなり口調変わった!
「それで、なんか用?」
「魔物を置きたいんだけど……」
「あぁ、モンスターね。ええーと初めてだから最初のダンジョンか、スライムでいい?」
「いいのか?」
「最初だし。それでいいわね」
一応しらすに確認をとる。俺はどのモンスターが強いか何て知らないからな。
「ええーと、それでいいみたいかな」
「それで、何匹?」
「何匹?」
「三匹位ね」
「三匹で」
「わかったよ」
そういって、魔王の声は途切れる。
「おーい」
返事は帰ってこなかった。一体何してるんだ?
「モンスターを送る儀式と手配をしてるのよ」
「へぇ、結構大変なんだな」
「そりゃ、物体を遠くに移動させるなんて大変な事よ」
「まぁそっか……」
そういや、そんな魔法聞いた事無いもんな。そんな事が出来たら、簡単に商人とかになれるんだろうなぁ。
「ほら、もう送られてくるわよ」
しらすの声で、通路を見ると通路を塞ぐように光が出現する。その光が少しずつ終息していき、そこに現れたのはドロドロした粘液だった。
「これは?」
「スライムね」
「気持ち悪いな……」
目の前をうごめくドロドロとした物体はこちらの言語が分かるのかはわからないが、取りあえずそこの通路を塞ぐように立ちふさがっていた。
「これでいいのか?」
「たぶんいいんじゃないのかなぁ?」
水晶から聞こえてくるのはかなり適当な魔王の声。現在俺の周りに居るのは、ドロドロの粘液、水晶、宝箱の3つだ。村が懐かしいな……
「でもこの感じだと。勇者来ても普通に素通りされないか?」
「大丈夫だよ。勇者が来たらちゃんと戦ってくれるようになってるから」
「なってる?」
「スライムっていうのは魔法で造った生命体だからねえ。弱い奴ならこちらで指示したらその通り動いてくれるようになってるんだよねぇ」
「流石に魔王だとそういう事詳しいんだな」
「まぁ、これでも魔族の王だからね」
そういわれても、ここからでは魔王の姿は見えないわけだが、今までの会話から察するにかなり適当な部類だと踏めるな。
「それで、ここから後2体ほどを配置したほうがいいのかな?」
「そうね。ここで戦闘がどんなものかだけでも、知ってもらった方がいいわ」
「了解」
しらすに言われ、そのスライムを跨ぎ、通路の奥に二つのスライムを置いていく。
「これでもういいのか?」
「とりあえずはね。さぁ、奥まで進んで」
「はいよ」
奥に進むとまた、広い部屋に出る。そこにあるのは、一本の剣が刺さった台座だった。
「これは?」
「これは、勇者が持つ剣ね」
「へぇ」
その剣は暗闇の中でも、ひときわ光り輝く。ちょっと興味がでて、ついその剣を握ろうとして手を差し伸べてみた。
「触んな!」
「なっ、なんだ!」
「私に触っていいのは、綺麗な女の子だけだ! 男とか無理だわー」
どこに誰もいないのに聞こえてくる声。それは剣からだった。
「お前も喋るのか?」
「聖剣だからね。喋る事位出来るにきまってるでしょ」
「決まってるの?」
「さぁ、私は宝箱だし」
「宝箱が喋ってる!?」
「「お前が言うなよ!」」
あまりに突っ込みやすいボケに、しらすとユニゾンツコッミ。
「それで、お前聖剣なのか?」
「そうだな。聖剣エクスカリナとは私の事だ!」
「カリバーじゃなくて?」
「それは親父だねぇ」
「意味分からなくなってきたぞ……」
剣に親子ってあるのか? いやていうかそれいうと、今背負ってるこいつもどういうことになってるのかわからないし……
「まぁ深く考えなさんな」
「そうそう」
「物質系二人に言われてもなぁ……」
本当に人と話す事がこんなにも恋しいとは、王都っていいところだったんだな……
「まぁ私は剣の妖精みたいなもんよ。そこの箱はわかんないけどさ」
「私は、なんなんだろ? まぁ、箱ね」
「分かった。もう疑問をもつのやめるわ。頭痛くなってくる……」
これ以上考えてもわからないものは分からないしな。
「それで、ここまで来たけど。スライム三匹でいいのか?」
「そうね……」
しらすは、少し考えた後に。
「せっかくだし。ここで、誰か守り手置いて。それを倒すのを最初の課題としましょうか」
「わかった。それもやっぱり魔王に聞くのか」
「そうね。魔王と相談してみましょう」
「あいよ。聞いてたか魔王?」
持っていた水晶に話しかける。
「え? あぁ、雑誌読んでた」
「聞けよ!」
「いやぁ、さっきまでの儀式やら、キャベツ千切りで疲れてさぁ。あれだよね、包丁って結構重いんだねぇ」
「知るかよ! 人の話しを聞きなさい!」
「はーい」
くそ! なんて面倒な奴に協力を依頼しなきゃいけないんだよ。
「それで、なんだっけ? おいしいつくねの作り方?」
「料理から離れろって! どんだけ定食屋の仕事したいんだよ!」
「そこが本業だからねぇ、今や」
「魔王しろよ!」
「そんな肩書今の世の中無駄だ!」
「ええー……」
完全に魔王が、魔王を否定しやがったよ。最近、これといって戦争とかないし、平和だから確かにやる事無いのかもしないけどなぁ。
「あぁもういいいや。取りあえず、聖剣の守り手に一人送ってほしいんだけどさぁ」
「はいよ」
目の前にまた光が現れ、消えた時には屈強な黒いマントを付けた、悪魔が現れた。
「我こそは……」
「チェンジ!」
「ひでぇ……」
悪魔が、出現後自己紹介しようとした瞬間の、エクスカリナからのチェンジ発言。
「何故だ! 私は自慢じゃないが、そんなに強くなくて、卑怯な技もなく、最初の練習にはもってこいだぞ」
「本当に自慢じゃないな」
「ふん。そんなの決まってるさ。男だからよ!」
「なっ、なんだと!」
凄い単純な理由を、力一杯言われて、悪魔は崩れ落ちた。
「俺が男だからダメだったのか」
「そう。今回はご縁がなかったってことね」
「くそ……こればっかりは……」
なんで納得してるんだろうか?
「それで、この悪魔はどうすだ? 魔王」
「回収する魔法はないから。自分で帰ってもらうしかないねぇ」
ひでえな魔王。時々水晶からポリポリ聞こえるのは、煎餅かなにかでも食べてるのだろうか? 結局悪魔は、とぼとぼとスライムに躓きながら洞窟を出て行った。
「あいつ……かわいそうだな」
「そういわれてもねぇ。男とかだるいわー」
「そこしかないんだな基準」
「まぁね」
即答だよ。なんか逆に男らしいわ。声とか喋り方とかの感じだと、こいつ自身女なんだろうになぁ。
「それで、結局どうするんだ?」
「こっちから、女性の魔族おくるよ」
魔王軽いなぁ。ここにワープさせるの結構大変そうな割に軽く送ってくるんだ。
「送るよー」
「よし。こい! 私の望むおなご!」
凄い気合いだな。剣の癖に何故こんなに女性にこだわるのか……そう思っていると見慣れた光が目の前に突然現れて、光が消えたそこに立っていたのは黒い羽が背中に生えてる以外は普通の短髪の少女だった。
「あれ? ここは?」
「よっしゃぁ! 普通の民間人の様な少女」
「キャア!」
驚いた様子の少女。手には鉛筆とスケッチブックを持っていた。
「なんで剣が喋ってるの? ここどこなの? 何でここに居るの!?」
状況が飲み込めていないのか少女は、矢継ぎ早に質問を振ってくる。
「あのー」
「人間!」
すげえおびえてるな……魔族からすると人間は珍しいものなのか。
「殺さないでーー」
「いや、殺さないから……」
「じゃあ、襲う気ね! この鬼! 悪魔!」
悪魔はお前だろ……その突っ込みをグッとこらえて。
「魔王説明してくれ……」
「適当に民間人をそこにワープさせただけだからねぇ」
「ひど……ええーと取りあえず説明するよ」
魔王の声に安心したのか、その子は俺たちの話しを聞いてくれた。
「そういうことですか……」
「それで、やってくれるか?」
「別にいいですよ」
「あっさりだな」
「これで、私の名前が後世に伝わると思うと楽しみです」
「お前も軽いな……」
「魔族ってのは結構こんなもんよ」
しらすに言われた通り魔王もこの子も何でこんなに重大な事を簡単に決めるんだろうな。
「ようやく。このダンジョンも作り終えたわね」
「あぁ、しらすの言う通りやって来たけどこれで大丈夫かな?」
「今回は強さより。エクスカリナが気にいるかだからね」
「気に入った! てか女の子なら結構なんでもいいんだよねぇ」
なんていう、節操の無さ。剣とは思えないアグレッシブさ。
「それじゃあいい加減ここからでますか」
「あいよ」
とりあえず、エクスカリナと現れた少女に別れの挨拶をし出ようとする。
「私の名前聞かなくていいんですか!」
「あぁ、あんた剣守ってるだけで名乗ったりしないでいいから、私達は別に知る必要もないわね」
「しらすお前……」
どうやらこの子は、剣を守る為だけにあそこに居るだけだから。しらすからしたら名前知らなくてもいいカテゴリーに入るらしいな……
「私の名は……」
「魔法の抜け縄―」
「うわ!」
しらすから突然できた縄が俺を包み込む。そのまま気付いた時には洞窟の外に立っていた。
「これは?」
「ダンジョンから瞬時に脱出できる便利な魔法アイテム。ちなみに回数無制限」
「へぇ……」
結局あいつの名前は聞かずに去って行ったな……
「それじゃ、鍵を使ってもどしましょうか」
「というと、前とは逆の台詞言うだけか?」
「そうね。簡単でしょ」
「単純だな。おい」
閉じろダンジョンが呪文らしく。前と同じようにその呪文を唱えるだけで洞窟は地下に潜っていき、そこは入る前と同じ平地になっていた。
「ふー。これで一個目終わりか」
「そうね。もう遅いしさっきの町に戻って泊めてもらいましょ」
「え、また?」
「あんなに格好付けてでたのに……」
「あぁ、そうね。ダサかったー」
「うるせえ!」
「でも野宿は嫌でしょ?」
「う……」
結局しらすの言う通り、コムル村に帰る事になった。そして、夜になったころにはコムル村に着く。
「また同じような時間帯についたな……」
「デジャブってやつね」
「それとは違う気がする……」
しらすのボケに突っ込みを入れるのもなかなかテンションが上がらない。もう一度フラルを訪ねるわけだからなぁ……
「ほら。ぼけーとしてないでいく!」
「わかったよ……」
そういわれて、俺は泊めてもらったばかりのフラルの家へと向かった。
「さてと……」
ドアの前まで来て、どうするか考えるあんな風に格好付けて出発したのだ。まさかその日に来るとは思ってもいないだろう。
「早くノックしなさいよ」
「いやあの……」
やっぱりきまずいよなぁ……そう思っていた時だった。
「ユウキさん?」
「い!」
後ろからフラルがいたらしく、気付かないうちに近くに来ていた。
「どうしたんですか?」
「あ、えーとまた泊めてもらおうかと」
「まぁ!」
パンと音が出るように両手をたたいてフラルはにっこり微笑んでくれる。一日しか一緒に居なかったがやはりこの子はいい子だ!
「朝、あんなに決めて出て行ったのにこんなにすぐ帰ってくるなんてダサいですね」
「へ?」
ええーと、突然の暴言に頭がついていかない……
「しかも、未婚の女性の家にまた泊めてくれってどれだけ失礼なんでしょうか」
「あのー、フラルさん?」
「はい?」
「性格変わってません?」
「いいえ。私は前からこうですよ。ただ第一印象って大事でしょ。初めとメリットがありそうな人の前ではいい子ぶるって決めてるんです」
すげえ宣言だな……つまり、俺はメリットの無い人間とみなされたのかよ。
「それで、泊めてくれるの?」
「そうですね。一週間泊めてあげましょう」
「いや、一日でいいんですけど……」
「一週間私の家で家事、食糧採り、そしてお金稼ぎしてくださいね」
「え、いやだから一日で……」
「なら泊めれません」
ここまで全く笑顔を崩さない所は本当にすごいな。
「もう、取りあえず一週間位奴隷になってあげなさいよ」
「お前は気楽だな!」
「だって箱だし」
「俺が苦労するんだぞ!」
「ユウキさん……」
肩を優しくポンとフラルがたたいてくる。
「若い時は苦労しなさい」
「お前の所為だよ! てか年齢変わんねえだろ!」
「諦めて、一週間私を楽させてね」
「ぶっちゃけちゃった! ついに建前もなしだなおい!」
「結構、食糧とか集めるのめんどくさくて」
「口調まで変わったよ! せめてそこだけは守ってよ。最後の砦だったよ」
「早く入らないと。王都で私襲われたって噂流しますよ?」
その時のフラルの顔は笑っていた。優しく笑っていた。初めて見たならばその笑顔に騙されていたが、今見ると目は完全に笑っていない……
「はい……」
こうして俺の奴隷一週間が始まってしまった。
「がんばれー」
「他人行儀!」
「私は基本何もしないからねぇ」
「少しはお前も働け!」