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第01戦【転機―はじまり―】

 空を見上げて思う。

 同じ空なのに、昨日と今日じゃ、全然違う。

 昨日までの空は確かに、輝いていたんだ。




◆◆◆◆◆




「行ってきます」


「ラグナ……」


 これから軍事機関に向かうために玄関のドアを掴むと、背後からお母さんの悲しみに満ちた声が聞こえてきた。

 私は後ろを向かず、そのまま外に出る。

 私の名前は【六道ラグナ】。

 本当なら、今日から普通の女子高校生として、公立の高校に通うはずだった。

 でもそれは一週間前に届いた赤紙のせいで、潰えてしまった。

 私はこれから軍事機関に向かい、私のアバターを手に入れて、軍直轄の学校で過ごす。

 こんなはずじゃなかったのに……そう思いながら、私は家を出た。


「ラグナちゃん……」


 私を呼ぶ声がしたので顔を上げると、家の前に一人の少女が佇んでいた。

 隣の家に住んでる私の幼馴染みの【前橋ユカリ】だ。

 彼女もまた、不安そうな表情を浮かべて私を見ている。

 そんな彼女に、私はただ笑いかける。


「そんな心配すること無いって、ユカリ」


「でも……」


「ほら、私って昔から逃げ足早い方だし、いざとなったら逃げればいいんだから」


「……」


「……じゃあね」


 またね、とは言えなかった。

 そのまま沈黙してしまった彼女の横を通り、私は軍事機関へと向かう。

 ユカリが私を呼び止める声が聞こえたけど、私は決して振り返らなかった。



 正直、今の私には実感というものがない。

 そもそも、本当にインベーダーというモノは存在するのだろうか。

 異次元からの侵略者、というのも、まるで物語の中のようだ。こうとうむけいである。

 そういう意味では、私は自分の置かれた状況に納得できなかったのかもしれない。

 得体の知れない、本当に存在してるかさえ怪しい未知の存在のために、命を賭けるという行為に。

 だからこそ、私自身の歩みも遅い。

 このまま、軍事機関になんて辿り着かなければいいのに。



 そう考えながら歩いていた……その時だった。

 辺りにサイレンの音が鳴り響く。

 警報……これは、避難警報だ。

 恐らく、近くでアバターユーザーとインベーダーが戦闘を行なっているのだろう。

 逃げ惑う人々を見つけ、その流れに逆らうように、私の足は自然と走っていた。

 なぜ、そんな行動を取ってしまったのか、私にも分からない。

 もしかしたら、ちょっとした興味本位だったのかもしれない。

 アバターユーザーとインベーダーのバトルを、この目で見たかったのかもしれない。


「おい! キミ、そっちは危険だぞ!!」


 途中、誰かに腕を掴まれた。

 私はそれを振り払って、尚も走り続けた。

 幸い、私にはブレスレットがある。

 これには一種の転移装置が搭載されている。

 現段階では私の自宅にしか転移できないが、そこまで転移できれば大丈夫だ。

 そう、大丈夫。心配することはない。

 ちょっとだけ見て、すぐ退散すればいい。

 だから、大丈夫。

 私は自分に言い聞かせた。



「はあ……はぁ…」


 走り疲れたのか、息を整えるために歩みを緩やかにする。

 辺りはすっかりゴーストタウンと化している。

 遠くの方で爆発音が聞こえてきた。


「やっぱり、本当だったんだ……」


 向こうで、本当に戦っているんだ。

 そう思ったら、なんだか不思議と得体の知れない躍動感に支配される。

 ああ、インベーダーは本当に存在するんだ。

 私もアバターユーザーとなって、化物と戦うんだ。

 それはフィクションではなく、紛れもない現実。

 そしてそれを理解した時、私の心に恐怖が生まれた。

 私は、アバターユーザーとして選ばれたことに特に何にも感じていなかった。

 それこそ、朝のテレビで芸能人が不祥事を起こしたニュースを見た時の感覚と同様に、どこか他人事のように思ってた。

 でも現実を目の当たりにした今、私は自分の置かれた状況に身体が震える。

 私は、なんと恐ろしく、愚かな行為をしてしまったのだろうか。

 私にはもうこの場所に留まる理由は無い。

 早く、この場から離れなければ……



「危ない!!!」



 しかし突如、女性の声が響いた。


「……え?」



 空を見上げる。

 ライトノベルと呼ばれる若者向けの小説で見たことある。

 平凡な主人公が非凡な日常に身を投じることとなるきっかけは、大体美少女が空から降ってくるものだ。

 そしてその美少女とのラブロマンスが始まったりもするのだ。

 私は女だから、降ってくるとしたら美少年が理想的かな。

 でも、現実は、大きく違う。


 私の元に降ってきたのは、私よりも何十倍も大きい、紅いドラゴンだった。

 ドラゴンはこちらに背を向けた状態で、落ちてきた。

 逃げようと思っても身体は石のように固まってしまって動かない。手がブレスレットに触れられない。早く、転移しなきゃいけないのに。


「……っ」


 巨大な現実が降ってくる。

 私はそのまま、ドラゴンに潰された。

 そう、ペシャンと、一瞬で。

 骨が砕ける。肉が潰れる。血が溢れる。

 私の意識は、痛みによって一瞬でブラックアウトした。




――私は確かめたかった。

――私の命には、意味あったことを。

――私の命は、決してフィクションの化物のためにあるのではないことを。

――私は、自分の人生を無意味なモノにしたくなかった。

――だけど私は、愚かな選択をした。

――心のどこかで、フィクションではなく現実だと理解してたのに。

――私は、愚かな選択をしてしまったのだ。

――その愚かな選択によって、私は、私自身の手で、私の命を、人生を、無意味なモノにしてしまったんだ。




◆◆◆◆◆



〈痛てて……んあ?〉


 紅いドラゴン――ムスペルヘイムは、落下した衝撃で意識を失いかけた。

 しかし、背中が湿っている何とも不快な感覚によって意識を取り戻した。

 チラッと背後を見てみれば、人間の少女の無惨な圧死体がある。

 ムスペルヘイムが潰してしまったのだろう。


〈あ、やべ……〉


「貴様、よくも!!」


 ムスペルヘイムに睨みつけ、怒りを露にするのは、ムスペルヘイムと交戦していたアバターユーザーの女性だった。

 その女性の言葉に、ムスペルヘイムは呆れを含んだ声を漏らす。


〈おいおい、オレをここまで吹っ飛ばしたのはお前だろうが〉


「黙れ、この化物が!」


〈ったく、んじゃあ、反撃させてもらうとするかね〉


 ムスペルヘイムは手から炎を出して、カードを具現化させる。


〈クラッシュカード【大噴火―ヴォルケーノ―】発動!〉


 辺りは一瞬にして炎の渦に飲み込まれ、互いの武器が消滅する。


「なっ、こ、これは……っ!!」


〈ヴォルケーノは互いのウェポンカードを全て捨て札にする〉


「そ、そんな……」


 女性は後退り、そのまま空中に舞い上がる。

 そして戦闘区域の離脱をするのか、飛び去ろうとする。



〈逃げんじゃねーよ、サレンダーなんてオレは認めないぜ?〉


 ムスペルヘイムはもう一枚カードを取り出し、カードに封じられた武器を具現化させる。


転送(トランス)、獣剣バスター〉


 獣の顔が刻まれた剣を片手に握り、それを女性に向かって投げ飛ばした。


〈エグゾースト。これで終わりだ〉


 バスターは真っ直ぐ飛び、女性の心臓を貫いた。


「がっ?!! ……ば、けも、の、め……」


 女性の身体はそのまま砂となり、消滅した。


〈オレから言わせれば、お前らの方がよっぽど化物だぜ、人間〉


 ムスペルヘイムは〈さてと〉と漏らし、自身が潰してしまった少女の死体を見つめる。

 少女を潰したことによって、ムスペルヘイムは気絶せずに済んだ。

 もし気絶してしまえば、死んでいたのはムスペルヘイムの方だ。

 そういう意味では、少女は命の恩人とも言える。


〈仕方ないか……死人に貸しを作っておくのも、寝覚めが悪いしな〉


 そう言うと、ムスペルヘイムの身体は赤い炎に包まれ、たちまちドラゴンの身体から赤髪の少女の姿に変化した。


「お嬢ちゃん、ありがとよ。お前のおかげでオレは生き残れた。だから、オレの命をくれてやるよ。オレみたいな特上のドラゴンの(コア)をその身に宿せるんだ、光栄に思ってくれよ」


 赤髪の少女は自分の胸から核を取り出すと、それを潰れた少女の心臓部に押し込む。

 たちまち、あれほど無惨に潰れていた身体が再生し始めた。

 再生された少女の髪は取り付けられた核の影響で赤く変色してしまっているが、特に気にする必要は無いだろう。

 完全に再生したのを見届けると、ムスペルヘイムの身体は炎に包まれて消えてしまった。



「これで、チャラだぜ。これからは一心同体だが、まあ問題無いよな、お嬢ちゃん」

 本格的なカードバトル描写は次回となります。



【次回予告】


 ムスペルヘイムから核を埋め込まれて一命を取り留めたラグナは、メイド喫茶【喃民カフェ】にて目覚める。

 そこは人間に擬態したインベーダーが営む喫茶店だった。


「喃民カフェへようこそ!」


 次回、【模擬戦―カードバトル―】

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