桜花編 1
「大丈夫ですか?あのー?聞こえてますか?始まってますよー?」
不意に聞こえてきた声で覚醒すると目の前には4人の人影があった。
どうやら今回のチームメイトらしい。
そんなことを考えているとその中の一人、
黒の全身タイツに円形の金属をとりつけたような奇妙な格好をした男が話しかけてきた。
「えっと…何度声をかけても心ここにあらずって感じで反応もなかったんですけど、大丈夫ですか?」
正直思い出したくないことを思い出してあまり気分は良くないが平静を装って返事をする。
「ああ、悪い。迷惑かけたっぽいね。少しボーっとしてただけだから大丈夫」
その言葉を聞いてすぐに、どこかの中学校の制服、ルーズソックス、栗毛色のショートヘアが特徴的な女が声をかけてくる。
「大丈夫ならそろそろ動きましょ、リスポンに全員で固まって動かないなんて自殺行為よ」
そう言うと注意深く周囲の雑木林を見渡し始めた。
すると、少し離れた場所で腕を組んでいた金ピカの鎧を着た金髪の男が見るからに嬉しそうに口を開いた。
「フッやっと行動を起こすか…待ちくたびれたぞ」
「…どうやらその必要はないぞ」
そう金ピカに伝えたのは白髪で顔に傷の付いているセーラー服を着た大柄な男(?)だった。
「どういうことだ…?まさかこの我が邪魔だとでも言うのか?」
「そうではない既に敵がいる、ということだ」
その言葉を言い終わるか終わらないかのタイミングで
周囲を警戒していたショートヘアが声を上げた。
「いたわ!あそこよ!」
瞬時に敵のいると思われる方向を見ると人影が一つあることに気付いた。
しかし距離があるためどんな容姿をしているか、どんな武器を持っているかまでは分からない。
目を細めて少しでも見えないかと試していると
「私が撃ち抜くわ!」
と、ショートヘアが言いながらスカートのポケットからコインを1枚取り出し人影へ腕を向ける。
敵は見たところ遠距離武装はもってなさそうだし、一人しかいないようだから任せても大丈夫だろう。
―――一人・・・?
「まて!やめ――」
最後まで言い切ることなくショートヘアの手からは凄まじい勢いで光線が発射された。
ほんの2、3秒だっただろう。
どや顔で光線を放っていたショートヘアの2mほどナナメ前の位置に、ソイツは迫っていた。
あまりに異常な光景だった。
つい数秒前までは300mは離れていた場所にいた敵が
一瞬で距離を縮めてきたのだ。
しかも狂気を孕んだ満面の笑顔で。
ショートヘアの表情が驚愕に変わったのと同時に
ソイツは両手を振るい、ショートヘアの首には二つのダメージエフェクトが入った。
あまりの出来事に誰もが反応できずに突っ立っていた。
一気に致命傷ダメージを二つも入れられ糸が切れた人形のように崩れ落ちたショートヘアを横目で見下ろしたあと、ソイツはこちらに顔を向け口角をつりあげた。
現在日本中の高校、大学には新たなカリキュラムが導入されていた。
思考操作技術、そのままの意味でロボットを思考で操作する技術。
これが実用されれば日本はロボット技術で多くの国を容易く抜き去ることができるだろう。
しかしまだ完成はしてなく、データ上での思考操作が限界だった。
さらに年齢が低い人のほうが操作性能は高いということもあり、
学生を対象としたカリキュラムを組み込むことによって多くの研究元を作ることになった。
5対5のチーム戦サバイバルゲーム、通称『war time』それがカリキュラムの内容だった。
それだけでなく年3回、春夏冬学校対抗戦争と呼ばれる戦いで学校ごとの優劣にも多少影響するうえ、上位に入った学校にはある程度の設備投資が行われる。
そのうえ、sp(スクールポイント)と呼ばれる制度もあり、
そのポイントは学食の割引で使えたり、装備の充実などに使える。
ただ、学期末に学校対抗戦争やポイント残高で成績がつく仕組みになっている。
そして今年の春の学校対抗戦争で俺はミスを犯し、期待を裏切り、仲間を負けへ導いた。
「く…あ…ひれ伏せ!王の財宝!」
金ピカの背後から数十の武器が敵に降り注ぐ、
しかしソイツは顔に笑みを貼り付けながら全ての武器をかわし金ピカの眼前まで迫った。
それからは一方的な展開だった。
こちらは反撃らしいことをできずに残り3人も瞬殺された。
5ラウンドのうち1ラウンド目はあっけなく先取されてしまったのだ。