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べび☆ぷり  作者: ふーか
2/2

第二話

何というリア充圧…

あの面接から三ヶ月たちました


第二話 人間見ためじゃねーのよ割とマジで


「うう、マスター」

アレから三ヶ月。ようやく個々人の仕事にも店長のセクハラ発言にも体性がつき始め、なぜか私、真島広菜が喫茶べび☆ぷりのツッコミ役、というのが店員加えてお客からも認知され始めた頃。

足繁くうちに通ってくれるお客さん、山田ただし25歳が今日はなんだか気を落としていた。

先月に彼女が出来たーとかいってこちらが気恥ずかしいほどののろけ話をしていたのは記憶にあたらしい。

一体どうしたのだろう。

フロアの掃き掃除をしながら店長と山田さんの話に耳を傾けることにしてみた。

「なんだよ。お前にマスター呼ばわりされる覚えはねーが、しかたねぇ客と店員としてのよしみだ、話ぐらいは聞いてやる」

凡そお客に対する態度じゃないとは思うが、いつものことだからここはスルーしておく。

ほかの客にやり始めたら容赦なく、この伝家の箒「雨露の潮」で粛清を下してやる。

「実は……」

「実は?」

「彼女に振られちゃったんですよぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお」

ダンダンッとカウンターを叩いて喚き散す。

ああ……だから気落ちしてたのか…かわいそうに

「そっか……ちょっとまってろ」

言うと、店長は珈琲メーカのあたりに戻ると、カップに熱い珈琲を注いでいく。

それを再び山田さんのところに運んで行き――

「ほら――」

「店ty――」

頭の上から珈琲をぶっかけ……ってええええええええええええええ!?

「あああああああああああああああああああああ!!!!?!?!??!??!」

余りの熱さに顔を抑えて床に転がって悶絶する山田さん。

「ぼぼぼぼぼぼぼぼ、僕プリティーでキュアキュアなイケメンフェイスがぁあああああああああああああ!!!!!!!!!」

「ざまぁああああああwwwwお前なんか彼女出来たことすらおこがましいんだよwww振られて当然だわwwwww短小で短足で小太りでオタク面とか最悪じゃねーかwww」

ひ、ひどおおおおおおおおおおおおおおお!?

言ってることもやってる行為も最早人間とは思えねえええええええええ!

「た、短小は認めるが、短足はマスターだって同じだろ!座高のが10センチ長いくせに!」

「あーあ、お前言ったな。言ってはならんことを言ったな。言ってしまったんだな。おい」

気にしてるんだ……店長

「どーせあれだろ?お前なんて一発かますときに短小なのばれて、体の不一致が理由とか可愛そうだから、『貴方の愛が重いのぉおおおブモー!』とか言われて振られた口だろ?あれだ、三日後くらいにそいつに張り付いてみろよ。お前なんかよりも太くて足長でイケメンで痩せ型の男と寄り添い歩く女の姿見れっからよ!」

「…あ、……あああああ」

「………え?あ、あれ?ちょっと、山田?お、おいマジへこみかよ…ど、どうすっかな……あ」

やばい店長と目が合ってしまった。

にっこりと笑う店長。

微笑み返す私。若干笑いは引きつっている、と思う。

「じゃぁ真島さん」

「は、はい?」

「後よろしく!休憩はいりまーす!」

「ちょ、て、店長!?」

行ってしまった……

ああなると店長は妙にすっきりした顔で休憩時間ぎりぎりまで帰ってこないからなぁ

あきらめるしかないか……

「あ、あのー山田さん?」

「う、うう……叙位子ぉ……」

「じょ、じょいこ?」

「そいつの彼女の名前よ。まぁ今は元彼女、か」

「ツン子さん……」

「いや、いい加減それやめてよね」

一体なんのことだろう。

「まぁでもあれねぇ。叙位子はなぜか知らないけどよくもてるわよねぇ」

へぇ

「ツン子さんは叙位子さんのこと知ってるんですか?」

「知ってるのも何もここに一度つれてきてたじゃない……ってそうかあの時はあんた休みだったか」

なるほど。丁度休みの時に叙位子さんは来てたのか。

みてみたかったなぁ

「すごい美人さん何だろうなぁ……」

「いや、うん。部分的に見れば美人?いや、部分的に見てブス……というか、あれは最早人間と形容していいのかしら……」

「あははは、いくらなんでもそれは言いすぎですってば。それに人間は見た目じゃないですよ?」

「いや、まぁねぇその意見には賛成だけどね?でもオラウータンよ?さすがに人間じゃない顔とは無理じゃない?」

「お、お、オラ?」

「おっす!オラ!g…じゃないわよ?」

「いやわかってますって」

ならいいけど。とテーブル拭きに戻っていくツン子さん。

いや、わからないわけがないでしょう。ていうか、オラだけで玉を七つ集めに行くお話思い出すほうがすごいと思う。

「ううう…うううう……」

「あ、」

いや、今のは忘れてたとかそういう「あ」ではない。

そういうことにしとく。

「大丈夫ですって……必ずまたいいことがありますよ…ね?お話ならいつだって私が聞きますから」

「ほ、ほんと?広菜ちゃん」

「え、ええ」

あ、あれ?なんか地雷踏んだっぽい?

「ひろなっちゃぁあああああああああああああああん!」

がばぁ!っと抱きついてこようとする山田さん。

いきなりのことで回避行動が間に合わない。

――――っ抱きつかれる!

目をつぶって衝撃に備える。

がいつまでたっても衝撃は襲ってこない。

恐る恐る目を開けてみると。

「み、美咲さん?」

上条美咲がそこにはいた。

手にトレンチを抱え、地に伏せた山田さんを見下ろしている。

なんか頭から煙が出てるところから察するに、トレンチで思いっきり殴られたんだろう。

しかも淵で。

「……平気?」

「あ、ああ、はい。ありがとうございます」

「……ならいい」

ツイッとそっぽを向いてキッチンに戻っていく。

なんか、美咲さんって懐かない猫みたいだなぁ。

なんとなくそう思った。

「あ、あのー。身体的に今度は大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫大丈夫。こんなの叙位子を失った心の痛みに比べればっ」


「ただし!」


刹那、店の扉を吹き飛ばして店内に女性が飛び込んできた。

扉を『開けて』ではなく『吹き飛ばして』だ。

「じょ!叙位子!」

この人が、叙位子!?

まず視界に収まったのは足。

とてもすらっとしていて、肌も白く綺麗だ。

視線を上に上げていく。

腰も胸もバランスよくメリハリが在って非常にうらやましい。

モデル体型の典型的なタイプなのかもしれない。

肩も腕も細く、女性らしさが伺える。

なんだ、ツン子さんがオラウータンとか言うからごつい男の人っぽい女の人なのかと思ってたよ……

どうやら普通の、いやすごい美人な女性じゃないか、と安堵して最後に顔を見た瞬間

「ま”っ!?」

体中に電流が走った!

「あら、ついに見ちゃったのね。叙位子の姿を」

ツン子さんが台拭き片手に隣に立つ。

「ま”まままま”ま”ま”(な、何なんですかあれ)」

「アレが叙位子よ。南東京のクラブMJC48(南東京叙位子クラブ48)の頂点。数多の叙位子を倒して無敗。敗走はなく、逃走もない。ただがむしゃらに真正面からぶつかり合い、その腕で、その顔で、その足で、その心で相手の叙位子を粉砕してきた正真正銘のオンリー叙位子」

いや、そういうことじゃなく。

あの正しくオラウータンを表現した顔のことなんだけど……

ていうか新の叙位子って何!?

数多の叙位子って叙位子さんはそんなにいっぱいいるの!?

あんな顔したのがいっぱいいたら南東京壊滅しちゃうよ!?

ブワッ!

と熱風にも近い重圧が私たちに襲い掛かる。

その重圧の発生源は山田さんだった。

な、なにこの息苦しいまでの重圧はっ……

ま、まさか、まさかのこの重圧は!

ツン子さんも息を呑む。

叙位子と山田さんはゆっくりと近づいてゆく。

その度に重圧の濃度はより濃くなって、濃厚なピンク色が視界を覆ってゆく。

「ただし。私間違ってた。さっき本で読んだのよ。イケメンでも。長身でも。短小じゃなくたって。マッチョだったってそんなの関係ないんだって!小太りな貴方こそが!最も長生きできるんだって!長生きできるってことはより多く生涯でお金を稼げるってこと!つまりより多くのお金を私に運んでくれるんだってことを!さっき気づいてイケメンで長身で体の相性も抜群な男をふって貴方の元に舞い戻ってきたわ!」

「じょ。ジョイ子おおおおおおおおおおおお!僕は、僕は!君を、もう一度この腕に抱いても良いのかい?」

「もちろんよ!むしろ、貴方以外に私を抱くに値する男はきっといないわ!」

「よく見ておきなさい、広菜。今まさに私たちの『天敵』、バカップルの生まれ出でる瞬間をっ―――」

バカップル……だと……

神々しいまでに山田さんと叙位子の間に光が輝く。

まぶしくて目も開けない。

そして、その光が、二人の影に消えていくその瞬間だった。

ドンッ

と世界が揺れたのではないかと思えるほどに、強い衝撃が店内を駆け巡る。

そして一瞬の静寂の後。

先ほどのピンクより更に濃厚で濃密で、甘ったるい匂いを交えて重ったるい重圧が私たちに襲い掛かってきた。

「ぐっ……」

「ツン子さん!?」

「ま、まさかね……飲食店で働いて結構こういうのには体性があった筈なのに……あなただってこの重圧の正体には気づいているでしょう?神社ならこういう経験はよくしたことあるはずよ?」

た、たしかに。

巫女のあるバイト中、よくこのような重圧に晒されていた。

正直耐え切れずにやめようとしたことはあったし、やめていった友人もいる。

そうだ、その重圧に晒されるときいつだって彼らがそこにいたじゃないか!

この重圧の正体は……


「―――リア充」


そうだ。リア充から発せられる重圧。通称『リア充圧』。

ピンク色の固有結界すら発してしまう重度のバカップルのものから、軽度の威圧感だけを発するもの。

様々なリア充圧はあるが、今まさに目の前で展開されているの正しくリア充の、バカップルそのもの―――

「いい?広菜。合図したら店長を連れてきて」

「店長を?」

「ええ、前回叙位子が来たときも似たような事態があったわ。けれどそれを店長は収めて見せた」

この固有結界をたった一人で!?

「わ、わかりました」


「―――いや、呼ぶ必要性はないな」


「て、店長!」

「これほどのリア充圧を発せられて気づかないわけがないだろう?」

た、確かに……

「ツン子、広菜。下がっていろ。これは女子供にゃ任せられねぇ」

「店長……死なないでよ?」

「ツン子……それは出来ねぇ相談だが……お前らの給料払わないといけないしな」

ふぅと店長は息を一つ吐くと

「誠心誠意努力はしてやるさ。けどな、もしも、俺にもしものことがあったら。後は頼むぞ―――」

言って店長は一歩山田さんと叙位子さんのほうに足を踏み出した。


「おい、バカップルさんよ。いちゃつくなら外でやれや」


いつもなら客にやる態度じゃないとツッコミを入れる展開ではあるが。

というか、この状況でさえツッコミどころ満載ではあるのだが。

それでもなお、そんな状況であってなお、頼もしいその背中になんだか胸が熱くなってくる。


「マスター。君は何故僕らの愛の語らいを邪魔しようとする」

「邪魔する気はねーよ。場所をわきまえろって言ってんだ。むしろお前らの方が正しく営業妨害だって言ってんだよ」

「なるほど、引かないようね。ただしと私の仲を妨害しようだななんて愚かにも程があるわ」

「ったく、コレだからバカップルどもは……話が通じなくていけねぇな、いけねぇよ。こっちでケリを着けなくちゃいけなくなる」

店長が指を鳴らす。

「いい度胸ね。48の叙位子の頂点に立つ私の、真の叙位子たる私に、一介の喫茶店の店長が勝てるとでも?」

「はッ減らず口叩けるのも今うちだぜ?叙位子。この店出るときにゃ、『私はマスター様の奴隷ですぅブモーブモー』って言いながら首輪つけて、おめぇの顔にお似合いなオスのいる動物園に送り返してやるよ。そこで気の済むまで盛ってこいや」

「―――言ったな下郎!!!!!!!!」

「こいやバカップル!財布の中身明け渡す準備は十分だろうなぁ!!!」



こうして、店長とバカップル山田&叙位子の戦いの火蓋が切って落とされた――――



投げっぱなしEND

投げっぱなしですみません

頑張ってオチつけてみようかな…

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