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第5話  思い浮かべた顔は・・・

 


 家に着いて、着替える時にスカートのポケットから携帯を取り出す。見ると順子さんと悠ちゃんからメールがきてた。


『花音、大丈夫? なんか様子が変だったから気になって……。なんでもないならいいけど! 二十三日は私も合コン頑張るから、花音も映画デート頑張って! なんだかんだ言ったけど、山口ほんとにいいやつだからさ、花音にはおススメだよ』


『二十三日のこと、よく考えてみてね。迷ってるならまた相談に乗るし。元気出せ!』


 メールを読んで、胸がじーんとする。なんていい友達なんだろうって。

 どうしてもこの時期――大嫌いなクリスマスに周りが浮かれてる時期――は、イライラして情緒不安定になってしまう。私がクリスマスを嫌いな理由を聞いたら、きっと皆は「そんなこと?」って言うかもしれないけど、私にとっては大問題なのだ……

 早く、クリスマスが過ぎるといいな……



  ※



 極力、通学以外は外に出ずクリスマスムードの場所には近づかないで三日間を過ごした。そして、十二月二十三日。

 八幡駅の改札前で、山口君を待つ。駅に併設したスーパーからクリスマスソングが聞こえてきて、私は知らず眉間に皺を寄せた。スーパーの前では特設のケーキ屋ができてサンタの格好をした店員がクリスマスケーキを売っている。

 クリスマスムードの場所には近づかない様にしていた努力もむなしく、クリスマス一色の場所に来てしまったことを少し後悔する。今日からの三日間、クリスマスムードが一気に最高潮になることをすっかり忘れてて、出かけたことを後悔した。

 ふぅーっとため息をついた時に、改札を抜けて山口君が来た。


「花音ちゃん。ごめん、待った?」


 そう言った山口君が、私の険しい顔を見てふっと表情が止まる。


「俺、無理やり誘っちゃったかな?」


「えっ?」


 私は一瞬、心の中を見透かされたのかとビックリして、山口君を振り仰いだ。


「映画とか、あんまり興味ない?」


 そう聞かれて、私の険しい顔の理由(ワケ)を映画が嫌だからと勘違いされたと気づく。


「違うよ、ちょっとビックリして……」


「びっくり?」


 山口君が、首をかしげて聞き返す。


「すごい街中がクリスマスって雰囲気で……圧倒されちゃって」


 そう言った私に、山口君がにこっと笑って。


「そうだね、どこいってもクリスマスソング流れてるしね、行こうか」


 私の言葉を特に気にした様子もなく、そう言って歩き出した。



 映画は、何年も前に流行ったアニメを実写化したもので、心のどこかでクリスマスに関連した映画じゃなくてほっとしてた。

 映画を観終わって、ファーストフードに入る。


「映画面白かった?」


「うん、原作は見たことなかったけど面白かったよ、感動した」


 山口君と見た映画について話してると、ふいに山口君が顔を上げてお店の入り口の方を見た。


「山口」


 その声にドキンとして振り返ると、そこには、香川理桜と女の子がトレーを持って立っていた。


「おう」


 そう言って片手を挙げる山口君。


「こんにちは、理桜の友達の山口君だよね」


「えっと、君は……」


「A組の奈良 佳世子(なら かよこ)です」


 香川の隣にいた女の子がこちらを見てぺこっと頭をさげる。私もつられて頭をさげる。


「席、空いてないみたいだから、一緒にいいか?」


 香川が言うと山口君が頷いて、奈良さんも笑顔で頷く。

 私は内心、えっ? と思ったけど、十二時を過ぎて店内が混み始めていたので、席を詰めて隣に奈良さんを迎えた。彼女はにこっとかわいらしい笑顔を見せる。順子さんが言ってた彼女って、きっと奈良さんのことよね、休みの日に一緒にいるくらいだもの。そう考えた時、胸にツキンと小さな痛みが走ったけど、その理由がなんなのかやっぱり分からなかった。


「山口君の彼女?」


 奈良さんが聞く。


「友達の千葉花音ちゃん、今日は映画見てきたんだ」


 山口君が爽やかな笑顔で言う。


「私たちはね、買い物してきたの」


「そうなんだ、なにか買った?」


 私たちが話してる間、香川は一言も発せず、一人黙ってた。


「先週の日曜日が私の誕生日でね、その日は理桜が用事あったから今日一緒にプレゼント選んでくれるって言って、コレかわいいでしょ」


 そう言って、鞄についたウサギのキーホルダーを見せてくれた奈良さん。私と山口君は顔を見合わせる。

 先週の日曜って……私たちと合コンした日じゃない! 彼女の誕生日より合コン優先ってどうなの? ってか、彼女に黙って合コン行くってどうなのよ!? 私は心の中で憤慨した。


「そうなんだ……よかったね」


 山口君も同じようなことを思ったのか、少し申し訳なさそうに言う。

 その間も、やっぱり会話に加わろうとしない香川。


「あっ、ちょっとお手洗いに行って来るね」


 そう言って奈良さんが席を立つ。奈良さんがトイレに入るのを見届けてから。


「なんだよ、彼女の誕生日だったなら先に言ってくれればよかったのに。ってか、いつの間に付き合いだしたんだよ?」


 そう言う山口君。


「別に」


 横を向いて座って、こっちを見ずに香川が言った。

 うわっ、最低な男。心の中で香川をなじる。奈良さんも、こんな男のどこがいいのかしら。あんなにかわいいんだから、モテそうなのに。そう考えて、眉根をぎゅっと寄せて香川を見た。その瞬間。

 ばちんっ。

 ちょうど顔を上げた香川と目があう。香川は無言で私をみつめ、それからふいっと視線をそらした。

 ガン飛ばしてきたよ! なんて嫌なやつなの! 口に出しては言えない感情が、私の胸の中をぐるぐると渦巻いた。


「あいかわらず、淡白だな……」


 そう言って苦笑いした山口君は、私に聞く。


「あっ、花音ちゃんは誕生日いつなの?」


「えっ?」


 私は驚いて、香川から山口君に視線を移した。山口君が爽やかな笑顔を向けて聞いてくる。きっと他意はないんだろうけど、私は返答に困ってしまう。


「えっと……」


「山口知らないのか? こいつの……」


 香川がそう言った時、奈良さんがトイレから戻ってきて席に座った。


「ん? 何の話?」


 そう言った奈良さんがちょっとだけ女神様に見えて、私はあわてて話題を変えた。


「ううん、なんでもないよ」


「そう?」


 なんでもない――は嘘っぽかったかな? 私、感じ悪かったかな?

 でも奈良さんは気にした様子はなく、笑顔で首をかしげて、山口君はちらっと香川を見た。香川はまた、窓の外を眺めてこっちを見ようとはしなかった。

 しばらく四人――いや三人かな――で話してから、ファーストフードを出て香川と奈良さんと別れ、山口君と一緒に駅に向かった。



 鉄道高架の下を歩きながら。


「今日はありがとう、楽しかったよ」


 私はそう言った。始めは、こんな日に出かけたくないと思ったけど、楽しくてあっという間に一日が過ぎて、最近の憂鬱だった気持ちを忘れられて良かったと思った。


「こちらこそありがと。また会えるかな?」


 山口君が爽やかな笑顔で言う。私はそんな山口君を見て、順子さんの言葉を思い出した。



『恋は突然やってくるものなのよー、気付いたらドキドキしたり、胸が痛んだり』



 そう言ってたけど……山口君といて楽しいけど、そういう感情にはならないことに気づく。


「明日、また会えるかな?」


 その言葉に、私ははっとして、勢いで頷いてしまった。



  ※



 終業式。講堂に向かいながら、順子さんがため息をついた。


「あーあー、明日から冬休みだって言うのに、つまらないわねぇ」


 私が首をかしげると、悠ちゃんが耳元で教えてくれた。どうやら、昨日の合コンでも彼氏はできなかったらしい。


「私の何がいけないのかしら……」


 そうつぶやく順子さんに、私は心の中で答えた。順子さんは面食い、理想が高すぎるのよ、って。もちろん本人に言っても、そんなことないって言われるだけだからね。


「それより! 花音は昨日どうだったの? デートは上手く行った?」


「上手く行ったかどうかは分からないけど、楽しかったよ」


 正直な気持ちを言う。


「今日も遊ぼうって言われて……」


「くぅー、いいなぁ。その幸せ、私にも分けてほしいなぁ」


 私の言葉を遮って言い、順子さんががばっと私に抱きついてこちょこちょとくすぐり始めた。


「やっ、やだ、順子さんやめてよー」


 そんなことをやりながら歩いているうちに講堂に着き、しばらくして終業式が始まった。



「もういっそ今日は、独り者同士でぱぁーっと騒ごうよ!」


 終業式とホームルームが終わると、私の机の前にきて、ばんっと机をたたいって順子さんが言った。そのあまりの迫力に、私はうんと言うしかなかった。


「じゃ、この後は、プランタン行ってカラオケで決まりね! 私、他の子にも声かけてくるから、花音は先に行ってて。あっ、山口にもメールよろしく!」


「えっ?」


 カラオケ……? 私はうんって言ったことをすぐに後悔したのだけど、順子さんは教室で何人かに声をかけた後、他のクラスに行ってしまって、もう嫌とは言えなくて、私の伸ばした手はむなしく空をかいて、順子さんを呼びとめることはできなかった。


「私もちょっと部活のミーティングがあるから先に行ってて」


 悠ちゃんにもそう言われ、私はしぶしぶ一人帰り支度を整えプランタンに向かった。向かう途中、山口君にメールをする。


『今日なんだけど、順子さんがみんなでカラオケ行こうって言うんだけどいいかな?』


 そんなメールに対して、すぐに返信が来る。


『了解! じゃ、こっちも友達誘って行くね。場所はプランタンでいいのかな?』


 返信を見て、笑みがこぼれる。普通だったら嫌って言われてもおかしくないのに、山口君って優しいな、アイツとは大違い……

 そこまで考えて、自分の考えに動揺する。

 なに、アイツって? やだ、私、誰の事考えてるんだろう……

 胸がドキドキして、顔が赤くなる。自分が思い浮かべた顔に、イラっとしてぎゅっと眉間にしわを寄せる。



  ※



 プランタンに着いて、通路に置かれたベンチに座る。外で待つのは寒いからと中に入っちゃったけどみんな分かるかな。念のためメールをしておこうと思い、携帯を取り出す。相変わらずマナーモードにしっぱなしで、メールが来てたことに気づく。

 あっ、順子さんからだ。


『ごめん! 補習の説明会があること忘れてた……。みんな集まったら先に行ってて』


 あらら。順子さん、補習だったのね。くすっと笑って、携帯を閉じる。

 プランタンの中では、やっぱりクリスマスソングが流れてたけど、その時になって気づく。今まであんなに毛嫌いしてたクリスマスにクリスマスソングだけど、なんだか今日は全く気にならない、変な気分だった。

 それは今日が二十四日だからかも。クリスマスももう明日で終わるし。

 そんなことを考えていたら。



「……千葉花音?」



 そう声をかけられて、私はぎゅっと眉根を寄せて、そう言った男の子を見た。




誤字などありましたら、お知らせください<m(__)m>


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