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第2話  理解不能な行動



 香川理桜(かがわりお)。彼とは、中学校が同じで、偶然にも三年間同じクラスだった。背は百六十八㎝と男の子の中ではそんなに高くない方だけど、きりっとした目元、鼻筋の整った中性的な顔が上級性・同級生の女の子から人気があって、運動神経も良く活発で、男の子のリーダー的存在でもあった。

 私は……というと、身長は百五十七cmと平凡、顔も成績も平凡で、その上性格は人見知り・内気ときて、クラスの人気者の彼とはほとんど接点がなかったのだけど。

 席替えで初めて席が隣になった時、教科書を忘れたと言った彼は、私の許可も取らずに教科書を勝手に使いはじめた。その強引な態度に私は頭にきてしまって、普段は思っていることの半分も言えない私が喧嘩をしたの。それ以来、私と香川理桜は犬猿の仲なのだ。

 その喧嘩の後も、ことあるごとに香川は私に絡んできて、ノートを勝手に写したり、お気に入りのペンを取られたり。そのたびに、私は言い返したいけど結局言い返せなくて、卒業まで香川のいやがらせが続いた。

 他の人にはそんないじわるをしてる様子はなくて、なぜ私にだけ絡んでくるのか、なぜ嫌われてるのかは分からなかったけど、私も香川のことは嫌いだったし、関わるよりはいいと思って我慢した。卒業後は会うこともなく、今まで存在すらも忘れていたのだけど……

 二年ぶりに目の前に現れた香川は少し背が伸びて格好良くなったように感じたけど、中学の嫌な思い出がよみがえって、嫌悪感が胸の中を渦巻いた。

 クリスマスの次に嫌いな、香川が目の前にいる……そんなことを考えてると。


花音(かのん)、知り合いなの?」


 そう、順子さんに聞かれる。


「中学が同じだったの」


 ただそれだけよ、そう心の中でつけたして答える。


「えっ? 偶然だね」


 そう言った順子さんの目はうきうきしている。私はうんざりした顔で順子さんを見た。その無言の威圧に、ちょっとたじろいた順子さんだったけど。


「じゃ、じゃあ、まずはカラオケ行こうか」


 そう言って、ショッピングモールの中にあるカラオケ屋に向かった。



  ※



「ねぇ、買い物って言ってなかった? なんでカラオケなの? っていうか、それはいいとしても、これって合コンよね?」


 女子トイレの中。鏡の前に立った順子さんを、腰に手をあてて問い詰める私。


「まあまあ、花音のためを思って順子さんがセッティングしてくれたんだからさ、いいじゃん、楽しめば」


 そう言って私と順子さんの間に割って入る、悠ちゃん。


「よくない!」


 私はそう叫んで、胸の前で腕を組んでぷいっと後ろを向いた。


「花音、そう怒んないでよ。騙したのは謝るけど、クリスマスを目前に彼氏がいないなんてつまらないでしょ?」


「別に……、クリスマスなんて嫌いだし、男の子も大っ嫌い!」


 私の嫌いなものランキング。クリスマス、香川理桜、男の子。あがり症で男の子とまともに話すことができなという理由もあるけれど、中学時代、香川にいじわるされてからは男の子自体が嫌いというか苦手になってしまった。


「彼氏が欲しいのは順子さんでしょ、この時期の合コンなんてクリスマス限定の彼氏探しなのはばればれ……」


「いいじゃない! 花音が男嫌いなのは知ってるけど、十七歳のクリスマスを一人で過ごすなんてもったいないよー」


 そう言った順子さんが私の肩を掴んで前後に揺らす。私は、その言葉に耳がピクピクっと反応して反論しようとしたのだけど。それを遮って、悠ちゃん。


「まあまあ、男の子たち待たせてるんだから、とにかく戻ろ! 愚痴はあとでいっぱい聞いてあげるから」


 男の子なんて、いくらでも待たせとけばいいのに。そう思ったけど、悠ちゃんにぽんぽんっと頭をなでられて、私はしぶしぶカラオケルームへ向かう二人についてトイレを出た。



  ※



「では、改めて自己紹介します! 宮城 順子です」


「長野 悠です」


「……千葉 花音です」


 小さな声で言って、俯いた。合コンには何度か、順子さんに無理やり連れて行かれたことがあったけど、やっぱり慣れないな。恥ずかしくって、顔が上げられない。


「あっと、花音は人見知りで徐々に話せるようになると思うから、よろしくね」


 そう悠ちゃんがフォローしてくれる。じぃーんとして、悠ちゃんを見上げる。悠ちゃんは、長身で手足に形よく筋肉のついたスポーツ少女。さらっとした黒髪を頭の上で一本にまとめた姿はとても魅力的だ。


「花音ちゃんって名前かわいいね」


「香川と同級生だったってほんと?」


 交互に山口君と石川君が私に話しかけてきた。注目が自分に向けられてることにビックリして、縮こまる。


「えっと……」


 私が口を開いた時。


「なんか曲入れていい?」


 足を開いてドカッと椅子に座った香川が、そう言って会話を遮った。みんなの視線の先が私から香川へと変わる。香川は、返事を待たずにリモコンを操作して機械に向かって送信した。さっきまで新曲の案内が流れてた画面がぱっと変わり、室内が暗くなり色とりどりのライトが光って曲が流れて始め、香川がマイクを取って歌いだした。



「ねっ、香川君ってカッコイイね! 歌も上手いし、さっきもさりげなく花音の事助けてくれて優しそうだし、イイかも」


 順子さんが耳元でささやく。かっこいい? 優しい? 私がいだいてる香川のイメージとは全く一致しない言葉に、自分の耳を疑い、まじまじと順子さんを見つめる。それになんて言ってた? 助けてくれた……だって?


「えっ、なに? 助けたって?」


「花音が注目の的になって困ってるのを、話そらしてくれたでしょ?」


 そう言って、順子さんが片眼をつむってウインクする。


「……えっ、そうかな?」


 私は腑に落ちない気持ちでつぶやいた。ただ単に、歌いたかっただけじゃないの? 香川の強引な性格は相変わらずなんだ、って私は感じたんだけど?



 香川が歌ったことで、みんなも曲を入れて次々と歌う。私はとりあえず、誰も見ていない歌本を膝の上に乗っけてパラパラとめくった。

 実は……カラオケもあんまり好きじゃない。こんなこと言ったら、嫌いなもの多すぎって言われるかもしれないけれど、人前で喋るのも恥ずかしいのに、歌うだなんて考えられない。それに音痴だし。そりゃあ、カラオケに行かないわけじゃないよ。仲のいい女友達だけでは時々行くし、歌いもする。でも、今日はさすがに歌うのは無理よ……

 そう考えて、どの曲にしようか選んでるそぶりで、歌本を見ていた。

 すると、いつの間にか山口君が隣に移動してきて、歌本を覗いてきた。


「花音ちゃんは、いつもなに歌うの?」


 あまりに近くで話しかけられて、私はびっくりして山口君をまじまじと見てしまった。

 山口君は、さらっとした髪を短く整えて、眼鏡をかけた顔は平凡だけど、全身から漂う柔らかい雰囲気が万人受けしそうな好印象を与えていた。そして、すらっとして見えるけど、脱いだら筋肉がすごそうだなと思った。いまはやりの細マッチョね。

 そんなことを考えて、山口君を隅から隅まで無言で観察してたら、山口君と目があった。話しかけられたのに、じろじろ見て何も言わない私ってカンジ悪いだろうに、山口君は全く気にした様子もなく白い歯を見せてにこっと笑った。


「花音ちゃんって、ほんとに恥ずかしがり屋なんだね」


 優しい笑顔でそう言われて、かぁーっと顔が赤くなるのが自分でもわかった。恥ずかしくて、両手で頬を押さえて下を向いた。


「えっと、ごめんなさい、慣れなくて……」


 そう言った時。

 ドサッ!

 山口君とは反対の、私の隣側に香川が音を立てて座ったの!

 さっきまで、私の横に座ってた順子さんが椅子の端に追いやられて呆然と香川を見ていた。


「なっ、なに!?」


 私は思わず叫んでいた。

 歌っていた悠ちゃんも、石川君も山口君も順子さんも私を見たけど、香川だけがまっすぐ前を見ててこっちを向こうとはしなかった。私は、ぎゅっと眉根を寄せてもう一度言った。


「なに?」


 なんで、いきなり隣になんか座るのよ! 近いし! ってか私に近づくな! 

 ガルルルル……

 犬だったらそう唸っていそうな勢いで、香川を睨みつけた。香川はそんな私の睨みも無視して、机の上の飲み物を取ってジュルルーっと飲み干すと、空のコップを持って立ち上がり、部屋の外に出て行った。



 流れてた曲が終わり予約曲もなくて、部屋の中が静まり返る。残された五人はお互いの顔を見合わせて、首をかしげる。


「なんだったんだ?」


 そう言った山口君。


「香川が自分から女の子の隣に座るなんてめずらしいな……」


 石川君。

 端っこにいた順子さんが間を詰めて私のすぐ横に座りなおして言った。


「花音も大きな声出すなんてめずらしいね」


 そう言われて、胸がざわざわした。



 私は、手元の歌本からリモコンに視線を移した。


「それ、歌うの?」


 山口君が聞いてきた。


「うん」


 私はこくんと頷いて、リモコンを操作した。さっきの出来事から胸がざわついて、なんだか歌いたい気分になったのだ。無難に歌える曲を選んで、送信する。


「いいよね、この曲。俺も好きだよ」


 そう言って笑った山口君の笑顔がとても素敵で。


「うん、私も好き」


 いつのまにか山口君と普通に話せてて、山口君につられて笑っていた。




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