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2-3 いざ行かん! (乗り気じゃないけど)

 

 穏やかな昼下がりの陽光に包まれた庭園の片隅で、わたしとエヴァリーナとジュスティナは、木陰のテーブルセットに腰を下ろし昼食を摂っていた。


「ルシーナ、ジュスティナ、わたしの話聞いてる?」

「「えっ?」」


 対面の席に座るエヴァリーナが、少し拗ねたように口を尖らせた。


「二人ともどうしたの? ボーっとして」


 ジェフリー・シュタイナー子爵とオーレリー様のことを考えていたわたしは、「ごめん、ごめん」と謝りながらエヴァリーナに顔を向けた。


 サンドイッチに手を伸ばしひと口かじったとき、わたしの隣に座るジュスティナが、浮かない表情でつぶやいた。


「おかしいんですよねぇ……」


 彼女に顔を向けると、ジュスティナはサンドイッチを持ったまま、椅子にもたれかかり首を傾げた。


「でしょう? 何が目的なのかしら」


 サンドイッチを咀嚼するわたしと首を傾げたジュスティナに、エヴァリーナは手を顎に当てながらじっと考える仕草を見せた。


「なんの話?」

「絵画事件の話よ!」

「んぐっ……!」


 わたしの問いに、エヴァリーナは興奮気味に口を開いた。その返答に思わずサンドイッチを詰まらせそうになり、急いで紅茶で流し込む。



 エヴァリーナが口にしたのは、今、世間を賑わせている奇妙な事件の話だ。



 ジェフリー・シュタイナー現子爵とオーレリー様の父である亡きゲオルグ・シュタイナー前子爵は、絵画コレクターとして広く知られていた。


 病に侵され死期を悟った彼は、遺品整理のために所蔵していた絵画のいくつかを売却した。


 しかし、最近になってそれらを購入した家々に泥棒が入り、絵画は盗まれた。


 ところが、翌日にはそれぞれの屋敷のどこかから絵画が見つかるという、不可解な出来事が起こったのだ。


 偽物にすり替えられたのではないかとも考えられたが、調査の結果、それらはすべて本物だった。



「口さがない人たちの間では、未練を残した前子爵の幽霊の仕業だなんて言われているのよ! ゲオルグ様はそんな方ではないのに!!」


 エヴァリーナは身を乗り出し、憤慨した様子で声を荒げた。


「エヴァリーナ、シュタイナー前子爵を知っているの?」


 わたしは彼女を落ち着かせるよう、静かに問いかけた。


「ええ、父の親しい友人だったの。生前のゲオルグ様から父にも絵画の売却について話があったわ。でも、父は絵画や肖像画には詳しくなくて……。ゲオルグ様は本当に絵画を愛していたの。だからこそ慎重に譲る相手を選び、納得したうえで絵画を託されたはずよ。そんなふうに言われるなんて許せないわ!」


 エヴァリーナの言葉に、わたしの思考は深まる。


(もしかして、オーレリー様が抱えている不安は、ロレンツィオ様との結婚じゃなくて、この事件にまつわる噂のこと?)


 そう考えながら、ふとジュスティナの様子がいつもと違うことに気づいた。


 レオポルト様によれば、ジュスティナはオーレリー様の友人だ。友人の父に関するこの件について、何か思うところがあるのかもしれない。


「ジュスティナ、どうしたの?」

「妙だなと思って……」

「そうでしょう! いったい犯人は何がしたいのかしら」


 わたしが問いかけると、ジュスティナはエヴァリーナに顔を向け、ゆっくりと首を振った。


「それも妙ですけど……違うんです。実は昨日、侍女長の指示で迎賓館へ書類を届けに行った帰りに迷ってしまって……気づいたら、トレス離宮の前に出ていたんです」


 ジュスティナが声をひそめ、わたしたちは自然と顔を寄せ合った。


「トレス離宮って、アルベルト殿下が幼少期を過ごされた場所ですけど、今は誰も暮らしていないですよね? でもわたし……窓に映る人影のようなものを見てしまったんです」


 ジュスティナはほんの少し身を縮める。けれど、その瞳には微かな好奇心が揺れていた。


「定期的に入る清掃じゃないかしら」


 面倒な予感がしたわたしは、彼女を納得させるように言ったのだが……。


「いいえ! 絶対に何かあるんです! 幽霊……? 犯罪……? それとも王家に隠された秘密!?」


 思い込みが激しいジュスティナは、謎を解こうとするかのように小さく拳を握った。


 話が変な方向へ進まないよう、わたしは意識的に話題を変えた。


「ところでジュスティナ。あなたオーレリー様と親しいんでしょう? おかしな噂のせいで辛い思いをされているかもしれないわ。ヴィヴィアナ様にも声をかけて、お茶会を開くのはどうかしら?」

「それは良い考えね!」

「ええ、きっとオーレリーも喜びます!」


 話題を変えることができ、ついでに目論んでいたお茶会の提案もできたことで、わたしはほっと息を吐いた。


(そこでジェフリー・シュタイナー子爵の動向についてヴィヴィアナ様に尋ねよう)


 しかし、ほっとしたのも束の間、ジュスティナが話を戻した。


「その前に、トレス離宮を見に行きませんか?」

「そうね。もし何か異変があるなら、早めに報告したほうがいいもの」

「…………」


 エヴァリーナまでも賛同し、話はもう逸らせそうにない。二人の勢いに、わたしはここでも抗うのを諦めた。


「わかったわ……。見に行くだけよ?」


 わたしが頷くと、ジュスティナは期待に満ちた表情で話しを続けた。


「ルシーナ様、エヴァリーナ様、次の休日はいつですか? わたしは明日です」

「わたしも明日が休日よ。ルシーナは?」

「わたしも……」


 ジュスティナの目が輝いた。


「決まりですね! では明日、離宮を見に行きましょう!」


 エヴァリーナも頷き、ジュスティナはすでに計画を立てる気満々だ。二人の熱意に押され、わたしは観念した。


 こうしてわたしたちは、翌日、トレス離宮へ向かうことになった。



 このときのわたしたちは、そこで待ち受ける真実が想像を超えるものであると知る由もなかった。







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