2-2 また……?
騎士団本部会議室。ここでは現在、二人の男たちが顔を揃えていた。
紺色の騎士服を纏った第三騎士団副団長のレオポルト様が、困惑した表情を浮かべながら彼に問う。
「……彼女の様子は依然として変わらないのか?」
レオポルト様の対面に座るのは、先日の舞踏会で注目を集めていたロレンツォ様だ。レオポルト様と同じ紺色の騎士服を纏っている彼は、第三騎士団所属の騎士である。
その表情から、彼の迷いと不安が伝わる。
「彼女は笑顔を浮かべますが、それはどこか憂いを帯びています。まるで心の奥に何かを抱えているようで……」
ロレンツィオ様は肩を落とし、ため息交じりに続ける。
「時折考え込むような表情をしているんです。俺との結婚を……迷っているんじゃないかと思うと、不安でたまらないんです!」
「気持ちは痛いほどわかるが、焦ればかえって彼女の心を遠ざけることになるかもしれないな」
レオポルト様の助言に、ロレンツィオ様は固く目を閉じた。
「彼女の本当の気持ちを聞きたいのですが……直接尋ねるのは難しい。仮に彼女の心に迷いが生じていたとしても、俺は……彼女を手放したくない……!」
ロレンツィオ様は言葉を詰まらせ肩を震わせる。
わたしは手元を動かしながら、先日のレオポルト様の発言を思い出した。
『マリッジブルー? とはどういった症状なんだろうか』
(なるほど、あれは部下であるロレンツィオ様のことだったのか)
しかし、先日の舞踏会で見た限りではオーレリー様は幸せそうだった。それなのに、彼女の心に迷いがあるというのだろうか?
レオポルト様は腕を組み、しばし沈思したあと視線を上げ、おもむろに口を開いた。
「確信が持てないからこそ、慎重になるべきだろう。そうだな……やはりここは同性であるルシーナ嬢の意見を聞くべきだ」
「へ?」
急に話が振られ、思わず間の抜けた声を出してしまった。
「ロレンツィオ、彼女はルシーナ・エラフォール男爵令嬢だ。俺の婚約者であるジュスティナの友人であり、俺だけでなくアルベルト、エルネスト、ランバートも彼女に救われた」
「いや、別に救っちゃいませんけど……」
レオポルト様がわたしのつぶやきを遮るように「彼女は信頼できる助言者だ」とロレンツィオ様に紹介すると、ロレンツィオ様はすっと席を立ち、わたしの前で深く頭を下げた。
「はじめまして、ロレンツォ・アルヴァです。突然のお願いで恐縮ですが、少しお話を聞いていただけないでしょうか?」
その言葉に続き、彼は自身の悩みを語り始めた。
しかし……。
「あの、つまりわたしにどうしろと?」
「オーレリーの不安を確かめてほしいのです」
話を聞き終えたわたしは、そっとペンを置いた。
「ですが、わたしはオーレリー様と面識がありませんし……」
「大丈夫だ、ジュスティナは彼女と友人だ」
レオポルト様は、さほど深く考える様子もなく軽く手を振る。
「それならジュスティナに頼んだらいいじゃないですか」
「それは駄目だ! オーレリー嬢と話しているうちにジュスティナまでマリッジブルーに陥ったらどうするんだ!?」
「ですから! 先日も言いましたけど! ジュスティナに限ってそれはないです!」
レオポルト様は両手を合わせて軽く頭を下げた。
「頼むルシーナ嬢! ロレンツィオは俺の副官なんだ。彼がこのような状態では騎士団の士気も下がってしまう」
「いやでも、わたしなんかじゃとてもお力には……」
レオポルト様の横では、切実な様子を見せるロレンツィオ様が、先ほど以上に深く頭を下げた。
(うっ……! 断りにくい……)
わたしは抗うのを諦め、仕方なく頷いた。
「わかりました……。話を聞くだけですからね?」
「ああ、恩に着る!」
「ありがとうございます、エラフォール男爵令嬢!」
顔を上げたロレンツィオ様は、安堵の色を浮かべていた。
***
騎士団本部会議室。ここでは現在、二人の男たちが顔を揃えていた。
臙脂色の騎士服に身を包んだ第二騎士団副団長のエルネスト様と、黒い騎士服を着た第四騎士団副団長のランバート様だ。
室内は張り詰めた空気に包まれていた。外の風がかすかに窓を揺らす音がするが、それさえも重い沈黙の中へと吸い込まれていく。
エルネスト様は目の前の羊皮紙に視線を落とし、ランバート様は腕を組みながら思索に沈んでいるようだった。
「警備の配置は慎重に。過度な警戒は不要だ。不自然な動きは余計な疑念を生む」
エルネスト様の低く押し殺した声が響く。ランバート様は微かに顎を引き、羊皮紙へと視線を滑らせた。その指先が端をかすかに撫でる。
「捜査の進捗は?」
「断片的な情報は掴んでいるが、確たる証拠を掴むにはまだ時間がかかるだろう」
エルネスト様の静かな問いに、ランバート様は冷静に答える。
淡々とした会話に細かい説明はない。しかし、その言葉の奥に潜む重みを、彼らだけが理解している。
「人員は最小限にする。ただし、不測の事態には備えを」
「特別な手筈は不要。ただ、些細な変化を見逃すな」
互いに視線を交わし頷き合う。慎重に考え抜かれた計画の中へと、彼らは足を踏み入れていた。
(そう! これよ、これ!)
この騎士団本部会議室は、本来なら参謀会議を行う重要な場所である。ここでの恋愛相談などもってのほかで、これが本来の正しい使い方なのだ!!
わたしは背筋を伸ばし、適度な緊張感に心地よくペンを進めた。
しかし……。
「ジェフリー・シュタイナーの関与は間違いないとはいえ、核心にはまだ遠いな」
その名に、心臓が跳ねる。
ジェフリー・シュタイナー子爵——アルベルト殿下から調査を依頼された人物。そして、ロレンツィオ様の婚約者であるオーレリー様の兄。
「……っ」
思わず声が漏れそうになる。
(アルベルト殿下の勘、恐るべし!!)
妙な胸騒ぎを感じながら、わたしは慎重に記録を書き記した。




