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 翌日。

 夏休み前の終業式。

 神谷賢は、昨夜の魔力練習の疲れが少し残る目元を指で押さえながら家を出た。


(睡眠は浅かったが、意識ははっきりしている。むしろ魔力操作を再現したくて頭が冴えているな)


 校門に着くと、いつも通り騒がしい声があちこちから聞こえてくる。


「おはよー賢!」

「……おはよう」


 挨拶を返しつつ、賢は必要以上に会話を広げず席につく。

 ホームルーム、体育館の終業式、担任から通知票の返却。

 全体的に退屈だが、流れは把握しやすく、賢にとっては雑音の少ない時間だった。


(昨日のあれが夢でないと、こういう静かな時間にこそ確信できる)


 ポケットに入れてあるステータスカードを指先で軽くなぞった。

 “錬金術”の文字は、現実の変化を確かに示している。

________________________________________

 午前11時すぎ、下校。

 昇降口から外に出ると、夏休みの計画を話す学生たちの声が混ざりあっていた。


「合宿いつにする?」

「ダンジョン行ってみたくね?」


 賢は特に参加することもなく、鞄を肩に掛け歩き出す。


(早く帰って魔力の感覚を確認したい。昨日の感覚はまだ曖昧だ)


 帰宅後、昼食を簡単に済ませ、装備のチェックを行った。

 刀は鞘に収まり、動作確認も問題ない。


「準備完了……行こう」


 終業式のため学生探索者の姿は多かったが、賢は人混みを避けつつWEA近くの横浜Fランクダンジョンへ向かった。


「ステータスカードね……はい通っていいよ」


 入り口のゲートを抜け、薄暗い洞窟へと足を踏み入れる。

 昨日よりも湿気や暗さに対して抵抗がない。


(感覚の順応が進んでいる。悪くない兆候だ)

『魔力感知に成功した影響で、外界認識が微調整されています。昨日より情報処理負荷が軽減』

「なるほど、理屈はわかった」


 短く返すと、賢は昨日と同じ通路を奥へ進む。

________________________________________

 淡い青色の影が跳ねる──スライム。

魔力に関して動かす練習をしていく中で動かすのは難しかったが自分の中に流れていることが感覚的にわかるようになってから新しいスキルを手に入れた。その名も魔力探知、できることは周囲の魔力も感じることができるようになる。感じ方は第六感のような感じで見たりはできないが、なんとなく感じることができる。

 賢は刀を抜く前に、魔力の流れがどう反応するか確かめるように一瞬だけ静止した。


(魔力の感知は維持できている。では行動を)


 一歩踏み込み、横薙ぎ。

 線のように滑らかな軌道でスライムを斬り払う。


『動作効率3%向上。昨日の反復練習の成果』

「やはり定量化されると分かりやすいな」


 その後、スライムを数体片付けた頃、MIが提案してきた。


『賢、そろそろ魔力循環の再訓練を推奨。今日の目的の一つです』

「了解。では実施する」


 賢は刀をしまい、壁に背を付け姿勢を整える。

 掌の魔力を意識し、昨日感じた圧を捉える。

 それを腕へ──肩へ──胸部へ──。


「……っ、流れた」


 身体がわずかに軽くなり、視界の情報処理が速くなる。


『魔力循環20%成功。ただし安定度はまだ低い』

「今日は無理に進めない。段階的な強化が基本だ」


 その後、軽い身体強化を維持しつつスライムを狩り、探索を切り上げて帰宅した。

________________________________________

 夕方。

 玄関を閉めた瞬間、日常の温度が戻ってくる。

 味噌汁の香りが漂うリビングを横目に賢は自室に入り、ノートを引き寄せた。


「……今日もデータとしては悪くない」


 鉛筆を回しながら、淡々と記録を始める。

•スライム7体撃破

•魔力循環:まだムラがある

•脚への魔力集中 → スピード上昇に効果

•背後からの落下物への警戒不足

•ソロ探索は視界と後方確認が課題


「問題は明確だな」


 その判断にMIが反応する。


『賢、日中の整理おつかれさま。内容の妥当性も確認済み』

「なら次だ。課題抽出と対策整理に入る」


 賢はページをめくり、新しいタイトルを書いた。


『これから身に付けるべきもの』

1.単純な戦闘経験

2.ソロ探索の安全確保(索敵・撤退判断)

3.魔力による身体強化の習熟

4.遠距離戦闘手段の確立

 少しペンが止まる。


「……接近戦中心ではリスクが高い。遠距離手段が必要だ」


 つぶやきは静かで淡々としているが、考察の深さは変わらない。

 ここで MIが話を引き取った。


『遠距離手段の検討に入る前に、魔力応用の基礎理解を確認します』

「わかった。説明を頼む」

『まず、身体強化について。


魔力流量を増やせば能力は向上しますが、過剰強化は筋肉・骨・神経への負荷が危険』


「理屈は筋が通るな。……では制御精度が最も重要だ」

『その通り。賢の場合、現段階で安全に維持できるのは“現在の約二倍”の流量まで』

「なら徐々に限界値を上げていく」


 賢はすぐにノートへメモする。

身体強化:無理な出力は不可。精密制御を最優先に。

 次に、MIは淡々と新たな概念を提示した。


『次に、魔力膜まりょくまくの説明を行います。』

「魔力膜?」

『魔力を皮膚表面の外側に薄く展開し、防御膜を作る技術です。

初期の段階でスライム程度なら衝撃を大きく減衰可能になります。流す魔力量などで硬度なども変化させれます。』

「……理にかなっている。優先度は高いな」

『維持には集中力が必要になります。長時間の展開は訓練が必要です』


 賢は迷わず追記する。

魔力膜 → ソロ探索の安全性が大幅に向上。必修項目。

 賢はノートの端を押さえながら、思考を整理するように声を出した。


「……MI。

 魔力を身体に巡らせることで身体能力を上げられるのは理解した。

 魔力膜も、魔力の使い方の一種なんだろ?」

『その理解であっています』


 言葉は短いが、賢にはそれで十分だった。

 彼は鉛筆を走らせながら問いを続ける。


「なら、魔力の形や性質を変えることで、別の物理現象を作ることは理論的に可能か?

 具体的には──温度上昇、液体化、気体の流れの生成、いわゆる『ファイア』『ウォーター』のような現象だ」


 MIは数秒間、情報を検索し要点を整理したかのように返す。


『先に前提整理を行います。一般的に“魔法”と称される現象は、以下の構成要素で成り立っています。

 1)魔力エネルギー:現象発生の原動力。

 2)スキル的媒介:特定の位相・位相変換回路を持つ“スキル”が作用点と変換則を定義する。

 3)制御精度:期待する現象を再現可能にするための知識・経験

 4)触媒要素/媒体:対象物質や魔石など、変換効率を上げる補助因子。』

「つまり、既存の魔法は“スキル”が変換則を規定しているわけだな」

『要約は適切です。スキルは、魔力を特定の現象へと再配列するためのアルゴリズムに相当します。

 例として『ファイア』スキルは魔力を高温のプラズマ的状態へと位相変換させ、対象空間に放出する手順を含みます。』


 賢は冷静に頷き、紙面にメモを重ねる。


「じゃあ逆に言えば、スキルが持っている“変換則”と同等の操作を、スキル無しで直接魔力に対して行えれば、同様の現象は再現できるはずだ。理論的にはスキルに依存することなく魔法を使うことができるはずだ。」

『その推論は理論上成立します。すなわち“スキル機能を個人の制御精度で代替する”という命題になります。

 しかしここで重要なのは次の点です。』


 MIは箇条を挙げるように続ける。


『A:エネルギー要件——ある現象(例:燃焼相当の温度)を生じさせるには必要な魔力量が存在する。スキルはこれを最小化・効率化する。

 B:位相制御——魔力は、ただ流すだけでは非局所的に拡散する。期待する現象を局所化するには、高次の位相制御が必要。

 C:安全弁(負荷分散)——スキルは副作用(過熱・崩壊・反動)を抑制する補助手順を持つ。個人で同等の安全性を再現できるかは別問題。』

(エネルギー、制御、補助手順……要するにスキルは効率化と安全機構を内包していると)


 賢は一度鉛筆を置き、ページの余白を指先でなぞりながら深く息を吐いた。


「……スキルは変換則を“自動化”してくれる装置みたいなものだとして。

 なら、その変換則そのものを数値や図式で記述できないかが問題だな」


 その言葉にMIがすぐ反応する。


『賢、発想が既存研究の枠を逸脱しています。

 ただし、論理的整合性は十分にあると考えられます。』


 賢はノートを半分ほど空け、そこに大きく円を描いた。


「魔法陣……という言葉が一番わかりやすいが、要するに“魔力操作の手順を図式化する”試みだ。

 魔力の流量、圧力、位相方向……これらを数式や幾何学で置き換えられるなら、制御精度の向上が期待できる」

『仮定としては妥当です。しかし、既存の魔法陣は儀式用途の象徴体系であり、機能的意味は薄いです。

 だが賢が言及しているのは“実用的な制御図式”だと解釈します』

「まずは、暴走してもある程度安全なウォーターボールの再現を考えてみよう。

必要なのは

①魔力を水に変える。

②水を空間上に保持する。

③水球を維持して打ち出す。

この3つの手順が必要になる。水球を維持して打ち出すなんて細かく分ければもっと多く分けなくてはいけなくなる。1個ずつクリアしていこう。」

『①の部分に関しては魔力に働きかけることで魔力を水に変えることができます。』


MIの説明に引っかかる部分がある。


「MI。魔力に働きかけると勝手に水に変化するのか?」

『魔力は、魔力単体でも身体能力の向上させたり魔力膜などを生成することができる力を持っていますが、賢は錬金術のスキルを所持しているので魔力を物質変換させることは何も難しいことではありません。』


ここで錬金術のスキルが生きてくるのか。しかしそれではいざというときに不安が残るから、図式化したい。


『図式化に関して検索しましたが、前例を見つけることができませんでした。』


魔力を変質させることは錬金術で行うことができる。でも毎回スキルを通すのでは意味がない。なら…


「いっそのこと新しく定義することは可能なのか…いや、魔力に関してあまりにも知識がなさすぎる。まずは魔力を操作することに慣れてから考えていこう。」

『今回のスキルを介さない魔法については、保留にしますか?』

「あぁ。魔力膜などの新しいものも知れたし、まずは魔力の扱いそのものの練習を行っていこう。」



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