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翌朝。
出発前に、賢はストレージの中身を確認した。魔鉄の弾丸が千二百発ほど。七日間の製造分だ。
「MI、弾薬は足りるか」
『8機が全機同時に連射した場合、約40秒で尽きます。短期戦なら問題ありませんが、連戦を想定すると補充の手間が生じます』
「毎回潜る前に補充するのを日課にしようと思っていたが……正直、量産が手間だった」
賢がそう言うと、MIが少し間を置いた。
『一つ提案があります』
「聞かせてくれ」
『ストレージの内部空間を、弾丸の自動生産ラインとして使う方法です。賢が事前に生産の定義と素材を入れておけば、私がストレージ内で錬金術の工程を代行して弾丸を製造し続けます。賢が戦闘や採掘をしている間も、並行して生産できます』
賢は少し考えた。
「……ストレージの空間内で、MIが錬金術を動かす、か。俺が意識しなくていいのか」
『定義の設計と素材の補充は賢が行う必要があります。ただし生産工程そのものは私が担えます。魔術式を反復実行するだけなら、私の処理の一部を使うだけで済みます。ドローン8機の統括と並行しても、リソースに余裕があります』
「俺が眠っている間も生産される、ということか」
『はい。素材が尽きるか、生産の定義に問題が生じれば停止します。それ以外は自律的に動き続けます』
(……それは、かなり大きな変化だ)
今まで弾丸の製造は賢が手を動かす必要があった。錬金術で成形して、一発ずつ魔術を付与する。それが並行作業のボトルネックになっていた。MIがそれを肩代わりするなら——戦闘も採掘も、弾丸の補充を気にせず動ける。
「やる。設計を詰めよう」
◆ ◆ ◆
「まず生産の定義から確認する。弾丸の成形と魔術付与、どちらもMIが担えるか」
『成形は錬金術の定義を私が実行するため、問題ありません。魔術付与は賢が一度「付与の定義」を作成してストレージに登録すれば、私がその定義を各弾丸に適用できます。設計上は可能です』
「付与の定義を登録する、か。……どんな属性の弾丸を作るかも事前に決めておく必要があるな」
『現状の弾丸は風属性の単一種類です。複数属性を用意する場合は、属性ごとに定義を登録して割合を指定できます』
賢はノートに書いた。風属性70%、土属性20%、火属性10%。風属性は軽くて速く牽制向き、土属性は重くて衝撃力が高く足止め向き、火属性は少量だが心理的な圧力になる。戦況によって混在している方が有利だ。
「この割合で生産し続けるように設定する。素材の消費量は?」
『魔鉄の削り出しと魔石からの魔力抽出を同時に行います。1時間あたり約200発の生産が可能と見込まれます。素材が十分にあれば、1日で約2400発が自動で蓄積されます』
「1日2400発。それだけあれば補充を気にする必要がなくなる」
賢はストレージに魔鉄の原石と魔石を追加で入れた。生産の定義を組んでMIに渡す。しばらくすると——
『生産ライン、稼働を確認しました。最初の弾丸が完成するまで約3分です』
「確認できたら出発する」
3分後、ストレージの中に小さな弾丸が一発追加されていた。風属性の魔術が薄く付与された、直径5ミリの魔鉄製の弾丸だ。
(動いている。俺が何もしなくても、勝手に増えていく)
「行くぞ、MI」
◆ ◆ ◆
スカイフィールドの入り口をくぐると、青い空と草原が広がった。
「展開する。標準編成で」
ストレージから八機が出てきた。飛行型の壱弐が上空へ展開し、参肆がその後方に控える。地上型の伍陸が賢の左右に並び、漆捌が後方を固めた。
草原の中に、小さな陣が出来上がった。
(七日前、設計図を引いていたときに想像していた形が、目の前にある)
『広域索敵を開始します。壱弐の上空情報と私の索敵を統合——北東方向、約200メートルにフィールドゴブリンの群れ。7体。密集隊形です』
以前なら自分の索敵でようやく掴む情報が、壱弐の視覚情報との統合で距離の段階から把握できている。
「接近する。伍陸を前衛に出して、俺は後方から銃で対応する」
『了解。伍陸の魔力膜を展開します』
伍と陸の外殻が光の膜を纏い、賢より先に歩き始めた。
100メートル。80メートル。フィールドゴブリンが気づいて向かってくる。
——その瞬間、壱のガトリングが動いた。
上空から弾丸の雨が降り注ぐ。一発の威力は低い。しかしゴブリンの群れに連続して着弾し、先頭の二体が動きを乱した。群れ全体に動揺が走る。
(これだ。この隙に——)
賢は銃を構え、乱れた隊形の中で最も前に出ていた個体に魔術を定義した——風槍。
引き金。
一体が崩れ落ちた。
続けて弐のガトリングが右側面から牽制を入れる。賢は迷わず次の標的に定義を切り替え——風弾。引き金。もう一体が吹き飛んだ。
(切り替えに迷いがない。壱弐が隙を作り、俺が仕留める。この流れが自然に回っている)
残り5体が伍陸に向かった。伍が正面から受け止め、魔力膜が衝撃を吸収する。陸が横から一体の体勢を崩す。賢はその瞬間を逃さず風槍を一発。3体になった。
『右から一体が迂回しています』
「漆、右を抑えろ」
漆が右方向へ走り、迂回個体の前に立ちふさがった。正面衝突の衝撃で漆が一歩下がるが倒れない。賢は右に向いて風弾を二発。一体を仕留め、もう一体は伍が押し返したところを刺した。最後の一体は弐のガトリングと賢の風刃が重なって沈んだ。
『全7体撃破。経過時間、約40秒。賢の魔力消費は推定12%です』
賢は銃を下ろした。
(……全然違う)
以前のスカイフィールドでは、同数のフィールドゴブリンを相手に索敵・魔術定義・近接判断を全部一人で回していた。今は索敵をMIと壱弐が担い、前衛を伍陸漆捌が担い、賢は銃で仕留めることだけに集中できた。
「MI、伍の魔力膜の残量は」
『伍のバッテリー残量は84%。想定通りの消費です。補充はまだ不要な水準です』
「ガトリングの弾薬残量は」
『壱が使用した弾丸は約60発。全機合計の残弾は1140発。ストレージ内の自動生産ラインは現在も稼働中で、すでに12発追加されています』
(戦闘中も増え続けている。使いながら補充されていく)
賢はその事実を少し意外に思った。弾薬を「消費するもの」として意識しなくていい感覚が、まだ体に馴染んでいない。
「次の群れを探す。深層に向かう」
◆ ◆ ◆
そこから二時間、賢は深層へ向かいながら戦闘を重ねた。
12体の大規模群れ、ボス級のフィールドリザードとの遭遇、複数方向からの同時接触——それぞれで気づいたことがある。
12体の群れでは、壱弐の上空からの連続ガトリングが群れを分断する効果が想定より高かった。密集した群れに弾丸の雨を降らせると、個体同士の間隔が開いて連携が崩れる。そこに賢の風槍が刺さる。
ボス級のフィールドリザードには、単体の火力が必要だった。ガトリングの弾丸では表皮を削れない。賢が空間分割を準備する時間を、伍陸が前衛で作り、漆捌が側面を固める。3秒後、空間分割がリザードの右腕を断った。動きが鈍ったところに風槍を集中させて仕留めた。
(空間分割の準備時間を誰かが作ってくれる。それだけで、切り札の使いやすさが段違いだ)
複数方向からの同時接触では、MIの判断速度が人間の反応速度を上回る場面があった。左からの接触を賢が察知する前に、漆がすでに動いていた。
「MI、さっき漆が動いたのは俺より先だったな」
『はい。壱の索敵情報から脅威を判定し、先行して移動させました。賢への報告より行動を優先しました。問題がありましたか』
「いや、正しい判断だ。……俺の指示を待たずにMIの判断で動かしていい。脅威度が高いと判断した場合は先行して対処しろ」
『了解しました。自律判断の範囲を拡張します』
帰路に就く前に、賢はその場で立ち止まった。
草原の風が吹く。上空では壱弐がゆっくりと旋回し、左右では伍陸が静かに待機している。
「MI、今日のデータをまとめてくれ。改善点も全部」
『了解しました。今日の戦闘ログを分析します。主な改善点——一点目。ガトリングの弾丸が群れの外縁に当たって無駄になる場面が多かった。射角の制御精度を上げることで、有効弾数を増やせます。二点目。地上型の移動速度が飛行型の牽制と噛み合わない場面がありました。私の処理側で連携タイミングを調整します。三点目。賢の銃と空間分割の使い分けの基準が、今日の戦闘では明確になりました。標準的な敵には銃、ボス級には空間分割の準備時間を確保する、という運用が最適と判断します』
「一点目は俺側の問題か、MIの制御側の問題か」
『両方です。ガトリングの射角はMIが制御していますが、群れの動きを予測した先読み射撃ができていませんでした。次回から改善します』
「わかった。……今日はここまでにする」
八機をストレージに戻し、賢は来た道を歩いて出口へ向かった。
スカイフィールドの空が、夕方に向けて色を変え始めている。
『賢』
「なんだ」
『今日のシステムの初陣、成功と判断します。改善点はありますが、基本的な連携は機能しています。七日間の成果です』
賢は前を向いたまま、少し間を置いてから答えた。
「……ああ」
出口をくぐると、みなとみらいの海風が頬を撫でた。
観覧車がゆっくりと回っている。
(次は石廊に、これを持って潜る)
八機が揃い、弾薬が自動で補充され続ける。銃があり、空間分割がある。
一週間前と、できることの総量が変わった。
賢はポケットに手を入れ、帰路についた。
頭の中ではもう、次の改善案が動き始めていた。




