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——4日目
4日目の採掘は、もはやルーティンになりつつあった。
岩穿7階層への最短ルートをMIがほぼ把握しており、交戦ゼロで鉱脈帯に到達できるようになっていた。採掘しながら、賢の頭は並行して次の設計を考えていた。
「MI、地上型の構造を詰めたい。飛行型と同じ駆動原理は使えないな」
『地上型は歩行が主体です。関節部をサーボモーターに相当する回転駆動部で動かし、MIが各関節の角度と出力を制御します。飛行型の駆動原理を小型化して関節に応用できます』
「関節が十二ある。四本脚で各脚に三関節。……全部に駆動部を組み込むのは手間がかかるな」
『ただし一度作り方を確立すれば、同じ工程の繰り返しです。飛行型の量産と並行して進められます』
「武装はどうする。地上型には盾とガトリングを搭載したい」
『盾は前腕部に固定式で取り付けます。魔力膜の術式を刻んだ魔鉄製なら、衝撃吸収と物理防御を両立できます。ガトリングは反対の腕か、胴体側面への搭載を推奨します。射角の自由度を確保するなら可動式の砲台にする方が有効です』
「胴体側面に可動式砲台か。……飛行型のガトリングはどこに付ける」
『飛行型は機体下部への搭載を推奨します。飛行中は地上に向かって撃つ形になります。機体前部に付けると飛行バランスが崩れる可能性があります』
帰宅後、賢は弾丸の量産から始めた。
魔鉄を直径5ミリほどに削り出し、一発ずつに風属性の魔術を薄く付与する。一発あたりの威力は低い。それでいい。連射で圧力をかけ続けることが目的だ。
錬金術を使えば成形は速い。しかし魔術の付与は一発ずつ丁寧にやる必要があった。二時間で二百発ほど完成した。
「MI、二百発で足りるか」
『飛行型のガトリングが毎秒15発の連射速度だとすると、二百発は約13秒で尽きます。八機全部にガトリングを搭載するなら、最低でも数千発は必要です』
「……量産の規模が全然違うな。弾丸の製造も並行作業にする必要がある」
その夜、賢はプロトタイプ1号機にバッテリーと簡易ガトリングを搭載した。ガトリングは回転式の銃身を持つ機構を錬金術で成形し、弾を順番に押し出す機構を組み込む。複雑な部品だったが、構造を理解すれば錬金術での成形は可能だった。
「MI、試射する。庭に出る」
プロトタイプが庭に浮き、ガトリングが弾丸を連射した。
庭の地面に小さな風の爆発が連続して起きる。一発ずつは大したことはないが、連続すると圧力になる。
「……いいな、これ。威力は低いが、これを受け続けるのは嫌だろう」
『ヘイト管理ツールとして機能します。これを飛行型から地上の魔物に向けて撃ち続ければ、賢への集中を分散させられます』
(プロトタイプとして十分だ。この設計で量産に入る)
——5日目
5日目は採掘を午前中で切り上げ、午後から制作に集中した。
飛行型の2号機と3号機の制作を並行して進める。一機目で確立した工程を繰り返すだけだ。ローターの翼型成形、駆動部のコイル構造、制御素子の取り付け、バッテリー搭載、ガトリング搭載。
手順が体に馴染んでいるため、一機あたりの時間が初日の半分以下になった。
夕方から地上型の1号機に取り掛かった。
四本脚の骨格を成形し、十二の関節それぞれに駆動部を組み込む。飛行型の駆動部を小型化したものだ。一つ一つの精度が歩行の安定性に直結するため、丁寧にやる。
「MI、関節の駆動部への接続テストをしてくれ」
『接続開始。……左前脚第一関節、応答あり。第二関節、応答あり。第三関節——応答なし』
「第三関節か。確認する」
分解して確認すると、制御素子の接続が甘かった。組み直して再テスト。
『全関節、応答を確認しました。歩行テストを行います』
地上型1号機が床の上を歩いた。最初の一歩はぎこちなかったが、MIが各関節の出力を調整するにつれて安定していく。
「歩いた」
次に盾の取り付けだ。左前腕に魔鉄製の盾を固定し、術式を刻んで魔力膜を展開する設計にする。右胴体側面にガトリングの可動式砲台を搭載する。
深夜、地上型1号機が完成した。飛行型三機と合わせて、机の上に四機が並んでいる。
(半分だ。あと四機)
——6日目
6日目は採掘を最小限にした。
必要な素材はほぼ確保できている。今日は制作の時間を最大化する。
飛行型4号機と地上型2号機・3号機を並行して制作した。
工程の反復で手順がさらに洗練されていく。ローターの翼型成形は最初の倍の速度でできるようになった。駆動部のコイル構造も、最適な巻き数と素線の太さが経験でわかってきた。
夕方、MIが口を開いた。
『賢、地上型2号機の盾の術式刻印を確認しました。継ぎ目の処理が1号機より均質になっています。技術が向上しています』
「毎日やっていれば自然と上手くなる」
『はい。ただし改善速度が通常の習得曲線より速い。魔力視で術式を確認しながら刻めるため、フィードバックが即時なのだと考えられます』
(魔力視があるから、刻んだ瞬間に正しいかどうかわかる。普通の工作とは根本的に違う)
その夜、弾丸の量産も並行して進めた。
作業しながら弾丸を成形するリズムができてきた。錬金術で十発を一度に成形し、魔術付与を順番に行う。二時間で五百発。合計で千発を超えた。
「MI、千発は足りるか」
『8機全機が同時に連射する状況でなければ、短期戦なら十分です。ただし長期戦や連戦が続く場合は補充が必要になります。毎回の探索前に補充することを習慣にすれば問題ありません』
「了解だ。補充は日課にする」
深夜、飛行型4機・地上型3機が完成した。
机の上に七機が並んでいる。最後の一機だ。
——7日目
7日目、採掘はなかった。
朝から作業台に向かい、地上型4号機の制作を始めた。すべての工程を一人でこなすのに慣れきっていた。骨格、関節、駆動部、外殻、盾、ガトリング。順番に手を動かすだけだ。
昼過ぎ、最後の関節に制御素子を埋め込んだ。
「MI、全関節の接続テストをしてくれ」
『全十二関節、応答確認しました』
「盾の魔力膜術式の確認は」
『展開効率94%。設計値の範囲内です』
「ガトリングの動作確認は」
『可動式砲台の回転動作、問題なし。弾の供給機構も正常です』
「全部問題なし、か」
賢は八機目の地上型を机の上に置いた。
部屋の中に、八機が並んでいる。飛行型四機と地上型四機。黒銀色の機体が静かに並ぶ姿は、最初に設計図を引いたときに想像していたものと、ほとんど同じだった。
「MI、全機への接続テストを始めてくれ」
◆ ◆ ◆
『壱、接続完了。弐、完了。参、完了。肆、完了——』
飛行型四機が静かに浮き上がった。
ローターの駆動音は思ったより小さい。魔術で静音化の術式を刻んでいたからだ。四機が部屋の天井近くで、MIの制御のもと整然と旋回している。
『伍、完了。陸、完了。漆、完了。捌、完了』
地上型四機が床を歩いた。伍と陸が賢の左右に並び、漆と捌がその後ろに位置した。八機が同時に動く光景は、一機目が机の上で震えていた三日前とは別次元だった。
「全八機、正常起動か」
『はい。通信は全機安定しています。処理リソースの使用率は約55%。残り45%で賢への情報提供と戦況分析を並行できます』
賢はしばらく、八機が動く様子を黙って見ていた。
(七日間だ)
毎朝岩穿に潜り、素材を採掘して帰り、夜に手を動かした。設計を直しながら、失敗しながら、少しずつ形にしてきた。
「明日、スカイフィールドで実戦テストをする。今日は充電と弾薬の確認だけしておいてくれ」
『了解しました。……賢』
「なんだ」
『七日間、毎日手を動かし続けました。私はその全工程を見ていました』
「……それで?」
『感想として。一機目が机の上で数センチ浮いた瞬間と、今日八機目が完成した瞬間。賢の顔が似ていました。どちらも、ほとんど表情が変わらなかった』
賢は少し考えてから答えた。
「どちらも、予定通りだったからな」
『……そうですね。賢らしい答えです』
電気を消した。
薄暗い部屋の中に、八機が静かに並んでいる。胴体に埋め込まれた魔石がわずかに光を持っていた。
(明日、動かす)
賢は布団に入り、目を閉じた。
七日間で積み上げてきたものが、明日試される。
それだけのことだ。
でも——
(少し、楽しみにしている)




