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序章

序章 — 7月20日・18歳の誕生日 —

 ——七月二十日、午前六時二十二分。

 蝉の声が、窓の外でけたたましく鳴き続けていた。

 寝起きの頭にはうるさいはずなのに、今日だけは妙に意識が冴えている。


(……ついに十八歳か)


 布団の上で伸びをしながら、神谷賢はゆっくりと呼吸を整えた。

 誕生日に特別な予定はない。家族もいつも通り仕事や学校だし、ケーキの予約をしているわけでもない。

 それでも胸の奥がじんわりと熱いのは——

 今日からダンジョンに挑戦できる日だからだ。

 世界にダンジョンが現れて二十五年。

 制度が整い、日本でも十八歳から探索者として登録できるようになった。

 賢は鏡の前で前髪を整え、制服の襟元を直しながら、鼓動が少し早くなっているのを意識した。


(……緊張してるな、俺)


 その事実に小さく苦笑した。

 剣道は続けてきたが、ダンジョンと本物の魔物を相手にするのは初めてだ。

 家を出ると、真夏の空気がむわっと押し寄せた。


「いってきまーす」

「んー……気をつけてねー……」


 台所から母の気の抜けた返事が返ってくる。

 父はすでに出勤していた。家族はダンジョンにそこまで関心はないが、それが逆に賢を落ち着かせた。

________________________________________


WEA横浜支部

 横浜駅から少し離れた高層ビル——

 WEA(世界探索連盟)横浜支部は、朝なのに探索者志望の若者がほかにもいた。


(みんな、今日が誕生日か)


 同じ境遇の人が多いとわかると、緊張がほんの少し和らぐ。


「神谷賢くん? こちらへ」


 受付で名前を告げると、案内のお姉さんが優しく声をかけてくれた。

 ひんやりした空調と清潔な白い壁は、病院のようで落ち着かない。

 案内されたのはステータス測定室。

 無機質な空間に、大人ひとりがやっと乗るほどの鑑定板が置かれている。


「手を置くだけで大丈夫ですよ」

「……はい」


 緊張で喉が乾く。

 手を板に置いた瞬間——

 意識の奥に、ふっと光が差し込んだような感覚が走った。


(うわ……っ)


 体の中心を、冷たさと温かさが混ざったような何かが通り抜ける。

 思わず肩が震える。

 そして——


『初期化完了。……初めまして、神谷賢。

 私はMagical Intelligence、通称MIミー。あなた専属のサポートユニットです』

「……えっ?」


 声にならない声が漏れた。

 部屋は静まり返っているのに、耳ではなく“頭の中”に直接響いてくる。

 まさか——


(ス、スキル発現……!?)


 レアどころじゃない。

 初期から固有スキルは、一万人に一人ですら出ない。

 心臓が一気に跳ね上がった。


『混乱しているようですね。大丈夫、正常です』

「いや、大丈夫って……これは……」


 言葉が追いつかない。

 でも、驚きの中でも頭のどこかは冷静に状況を整理していた。


(落ち着け……話せてるってことは、会話型のサポートAIみたいなスキルか?)

『あなたと話せるのは、あなたが選ばれた証です』

「……そう、なのか」


 呼吸を整え、意識的に肩の力を抜いた。


「よろしく、MI」

『はい。まずは初期ステータスの確認から始めましょう』


 次の瞬間、視界の奥に淡い光のウィンドウが立ち上がる。

 ——その光景に、賢は思わず息を呑んだ。


(本当に……始まったんだ)


 十八歳の誕生日。

 平凡だと思っていた自分の人生が、音もなく動き出した瞬間だった。


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