5話「操り人形」
ヨンクニ地方のカガワシティにある古墳には、一匹のポッキー“A”がひっそりと暮らしていた。Aは自分の体について、ある重大な「秘密」に気づいていた。そしてその秘密を本当か確かめるため、他のポッキーたちを古墳から遠ざけた。
その秘密とは「自分の中に混ざった複数の生物の遺伝子と同じ姿に変身できる」ということだった。
Aの筋肉が異常に発達していたのは、もともと人間だった頃に筋肉質だった名残だった。つまり、ポッキーになった後も、人間だった頃の遺伝子は消えずに残っていたのだ。
このことから、Aはポッキーの姿、ポッキーを開発する為に使われたネズミと人間の姿、そして自分自身が人間だった頃の姿の計4つの姿に変わることができる存在だと判明した。
この異常な能力については、Aを新たなリーダーに推薦した「鼻の大きいポッキー」も知っていた。
次の瞬間、Aは突如としてネズミウイルスを狂ったように放出し始めた。考え事に集中していた時は感じなかった孤独感が、ふとした瞬間に再び押し寄せたのだ。集中力が切れたことで、孤独という感情があふれ出し、それが暴走の引き金になった。
ウイルスは古墳全体に充満し、土の隙間をすり抜けて、徐々に外の世界にも広がっていった。しかし、死んだ人間がポッキーに変わることはない。Aは、5日後に1000万人のポッキーが古墳に戻ってくるまで、ネズミウイルスを放出し続けることとなった。
そしてその時、古墳の近くで笑っていたのが、例の「鼻の大きなポッキー」だった。実は、Aに大量のネズミウイルスを放出させることは、彼の思惑通りだったのだ。
なぜ彼はそれを計画し、成功させられたのか。それは彼が人間だった頃、相手の動きを先読みする「将棋のプロ」だったからである
鼻の大きなポッキーは、古墳の近くを彷徨いて人間を探している1000万匹のポッキーたちにこう言い放った。
「Aは“20日後に戻ってくれば良い”って言ってたよ!まったく、勝手に延長するなんて、自己中心的すぎるよね!」
この「20日」という数字も計算づく。ヨンクニ地方全体がポッキーに変わるまでに起こりうる様々な事態を想定した上での、ぎりぎりの時間設定だったのだ。
こうしてAは、知らぬ間に「鼻の大きなポッキー」に操られる、哀れな“操り人形”と化していたのだった。