4話「災害」
2040年3月26日。
トーキョーシティには、カントウ地方から多くの人々がポッキーを滅ぼす為、集まっていた。
だが、そこにポッキーの姿は一匹もなかった。
一方、ヨンクニ地方のカガワシティでは、人々が突然発生した激しい地震に怯えていた。
だが、それは自然の揺れではなかった。
海を渡り、山を越え、森を突き進んでやってきたポッキーたちの大移動による振動だったのだ。
ポッキーたち1000万匹は、すでにカガワシティに潜伏していた。
そこにある「古墳」と呼ばれる巨大な土の山を、住処にしていたのである。
彼らがそこに向かう前、初代ポッキーはトーキョーシティで天鼠国の仲間たちにこう伝えていた。
「カガワシティには古墳っていう大きな土の山があるんだ。そこを1000万匹のポッキーの拠点にする。
そして人間に気づかれずに、ヨンクニ地方をポッキーで埋め尽くしてくれ!
僕を含む残り500万匹はサイタマシティの古墳に潜伏して、カントウ地方をポッキーに染める!」
カガワシティに集まった1000万匹のポッキーたちは、初代ポッキーに代わる新たなリーダーを決めようとしていた。
そのとき、鼻の大きなポッキーが言った。
「じゃあ、Aはどう?」
周囲がざわつく。
「“A”? なんだそれ!? 俺たちは全員“ポッキー”だろ!」
「まさか、人間が紛れ込んでるのか……!?」
しばらくして場が静まったとき、鼻の大きなポッキーがもう一度口を開いた。
「“A”は、あいつのことだ!」
視線の先には、異様なほどの筋肉を持つポッキーが立っていた。
そのポッキーは堂々と名乗った。
「僕が“A”だ。つまり“名前”ってやつさ。人間が使ってる、自分たちを呼び合うための“名称”ってやつ。
そこで提案がある!僕がリーダーになったら、特別に25匹に“B”から“Z”までの名前を授けるつもりだ!」
ポッキーたちは戸惑った。
「なぜ、僕たちには名前がないんだ?」
「名前があればもっと便利なのに……」
その迷いを断ち切ったのは、またしても鼻の大きなポッキーだった。
「もう迷う必要はない!A以外に立候補者はいないんだから!
それにAの腕を見ろ!ひと振りするだけで大木をへし折るんだぞ!?
腕だけじゃない、全身の筋肉が鍛え抜かれてるんだ!!」
こうして“A”は、正式に新たなリーダーに選ばれた。
そして彼は1000万匹のポッキーたちに試練を与えた。
「死に物狂いで人間を“ポッキー”に変えろ!
ヨンクニ地方のどこでも構わない、思う存分やれ!!
そして、今から5日後――4月1日までに変えたポッキーたちをこの古墳へ連れてこい!
最も多く変えた上位25匹に、“名前”を与える!!! さあ、行け!!!!」
Aだけが古墳に残り、1000万匹のポッキーたちはヨンクニ地方の各地へと散っていった。
激しい地響きの正体が、地震ではなくポッキーたちの進撃によるものだと気づいた人間たちは、恐怖とともにこうつぶやいた。
「地震や津波に続く……新たな“災害”だ……」