黄昏に燃ゆ
蔵が焼け落ち、残された灰は冷たく静まり返っていた。
屋敷の中は張り詰めた空気に包まれ、誰もが口を閉ざしている。
蓮は皆を集め、厳しい声で言った。
「今回の事件、三人が犠牲となった。最初の被害者はヒ素中毒、次は火災による焼死、そして最後の一人は明らかに襲撃によるものだ。
電話線は切断され、外部との連絡が完全に断たれている。これは計画的な犯行に違いない」
元医者の館林は冷静に付け加えた。
「ヒ素は特殊な毒物で、使用するには専門知識が必要だ。犯人が医療関係者か、それに近い人物の可能性が高い」
蓮は警察学校で学んだ知識を頭の中で整理した。ヒ素の特徴、死体に残る痕跡、摂取経路……。
「犯人の動機は復讐にある」蓮は声を落とした。
その時、冴が震える声で口を開く。
「私、屋敷の過去に関わる秘密があるの……話さなければいけない」
その告白に一瞬、空気が凍りついた。
疑心暗鬼が一層深まり、視線は冴へと集中した。
夜、蓮は犯人の動きを探るため、闇に紛れて屋敷の廊下を静かに歩いていた。
微かに香る柑橘系の香水の匂いが風に乗って漂ってくる。
「来た……」蓮は息を潜め、影に身を隠した。
目の前に現れたのは、髪に白いフケのようなものがついているあの人物だった。
蓮は心の中で確信した。
「犯人だ」
だが、捕らえようと手を伸ばす前に、その人物は激しく抵抗し、廊下を走り抜けて屋敷の外へ逃走した。
追いかける蓮。山の斜面を必死に駆け上がるが、暗闇の中、足を滑らせて犯人は見えなくなってしまった。
「逃がしたか……」蓮は悔しさと焦りで胸が張り裂けそうだった。
夜明け前の静寂の中、疑惑の影は深まっていく。