疑惑の渦と真実への序章
夜明け前の静けさを破るかのように、絵里のかすかな息遣いが部屋に響いた。
「絵里……目を覚ましたか」
蓮はそっと彼女の手を握り、安心の表情を浮かべた。
絵里の目がゆっくりと開き、ぼんやりと周囲を見回す。
「あれは……誰か、来た。薬を……」
声は弱々しく、言葉は断片的だった。
蓮は絵里の話を何とか繋げようと努めたが、真実の全容は掴めなかった。
彼女の証言は事件の核心に触れそうでいて、どこか曖昧なままだった。
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蓮はすぐに屋敷の電話機に向かった。
外部に連絡を取るために、しかし、電話線が切断されていることに気づく。
「誰かが電話線を切った……」
声にならない怒りと焦りが胸を締めつけた。
館林が冷静に現場を見回しながら言った。
「ここは山奥だ。携帯もほとんど圏外だ。つまり、我々は完全に孤立している」
その言葉に、屋敷に集う全員の顔に不安が広がった。
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秘密の通路の存在を改めて確認するため、蓮は一人屋敷の隅々を探り始めた。
だが、その調査の最中に、数人の動きに奇妙な点が浮かび上がる。
冴は蓮の視線を感じてか、わざとらしく振る舞い始め、焦りを隠せなかった。
その様子に蓮は疑念を抱きつつも、決定的な証拠を掴めずにいた。
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一方、絵里はゆっくりと体力を回復しながらも、他の人々と距離を置いている。
「何か隠しているのか?」
蓮は彼女の沈黙に警戒心を持ちつつも、慎重に接した。
「皆が疑心暗鬼に陥っている。ここから先は、誰が本当の友人で、誰が敵なのか見極めなければならない」
蓮の言葉は、緊張の糸を張り詰めさせた。
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その晩、全員が屋敷の大広間に集められた。
蓮は冷静に言葉を紡ぐ。
「この屋敷には古くから伝わる秘密の通路があり、それが犯人の行動を助けている可能性があります」
「そして、今回の事件は単なる偶発的な殺人ではなく、深い復讐の物語だと私は考えています」
静かな室内に、重い沈黙が訪れた。
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その後、元医者の館林が静かに語った。
「ヒ素の知識は私が警察学校で学んだものです。犯人はそれを悪用している」
「今回の毒殺は計画的で、専門的な知識がなければ成し得ない。だから、犯人はこの屋敷の中にいて、医学に関わった者か、それに近しい人物だろう」
蓮はその言葉を受けて、深く考え込んだ。
だが、犯人の輪郭はまだぼんやりとしていた。
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翌朝、再び事件の現場を確認しようとした蓮と館林は、さらなる謎を発見する。
通路の一部に新たな痕跡があり、誰かが慌てて通った様子が伺えた。
蓮は全員に目を向けて言った。
「我々はこの屋敷の中に閉じ込められている。誰も信用できない状況だ。だが、犯人は必ず浮かび上がる」




