超能力者たちは楽園から追放される
科学技術はどんどんと発展していき、ついには地上に楽園を作り出すまでになった。
外界のどんな害でも跳ね除ける白亜の壁の内側にある楽園では、そこに住まう全ての人間が皆幸福で満たされた生活を送っていた。
しかしこの幸福を壊す可能性がある者たちがいた。それが超能力者である。彼らは楽園のバランスを崩す可能性があるとされており、それゆえに超能力者たちは見つかればすぐに捕らえられ、壁の向こう、楽園の外へと追放されるのである。
たとえば、このように。
「お仕事お疲れ様。今日は少し凝った料理を作ってみたの」
「へえ、なんて名前の料理なんだ?」
「まだ名前は決めてないわ」
このような会話をしていた夫婦の妻は捕まり、超能力者だと断定されて追放された。
オリジナルの新しい料理を作るなどというのは超能力者にしかできないことだと、そう判断されたのだ。
最初こそ夫は嘆き悲しんだが、彼女が超能力者だと知るとすぐに諦めた。そんなものは楽園全体の平和とは比べるべくもないことなのだ。
こうして白く美しい壁の中にある楽園は、全てが一定の規格に保たれ、平和に、なんの変化もなく平穏が続いていくのだった。
一方で楽園から追放された女性は泣きながら壁から外へと出ると、楽園の外にいた人たちから思わぬ歓待を受けた。彼らは女性を歓迎すると口々にどんな理由で追放されたのかを聞いてくる。
「私は少しでも夫の疲れを癒やそうとして新しい料理を作りました」
女性がそう答えると、わっと歓声が上がる。
「料理人だ! 新しい料理人だ!」
その後彼女は楽園の中では知ることもなかった様々なことを知り、様々なものを見て、様々な新しい料理を創り出したのだが、それを楽園の中に住む人が知ることはなかった。
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