3話
メンバーの確認をした俺たちはすぐに出発した。
俺たちには一刻の猶予もない、前線が崩壊する前に敵の勢いを殺さなくてはいけない。
とは言っても前線から堂々と入っていくわけにも行かないので俺たちは回り道をして国境を越えた。
しかし前線である砦以外に国境を越えられるところは無い。
人類の領土と魔族の領土は大陸を分断する山脈によって別れていて、国境を魔族の領土に侵入するには険しい山を超えなければならないが、特に問題もなく越えることができた。
魔族の領土に入ると一気に景色が変わる。
魔族の住む土地には魔力の量が増え生態系や景観に大きく影響し、人間が住む領土とは全く別世界のようになる。
これはエルフが住まう土地にも同じことが言えることだ。
元々土地に住んでいた生物は魔力を体内に溜め込み急激に通常とは全く異なる進化を遂げる。
体は肥大化し好戦的になり生存に有利な攻撃系の能力を手に入れる。
人はそれを魔獣と呼ぶ。
そして稀に知能が発達し人間的な進化を遂げるものも居る。
それらが魔獣の域を超えた者たちを人間は魔族と呼び、魔族の住む土地を魔界と呼ぶようになった。
「山を越えるだけでもかなり疲れてしまったのお」
トールヴァルが言う。
「私はもうすぐにでも休みたいです」
ノグチが続けて言う。
「何言ってるの?まだ任務は始まったばかりよ、それに私達には時間が無いんだから」
アナノイアが鋭い口調で応える。
「まあノグチさんは調合師で肉体派では無いからな疲れるのも無理ないさ」
カズナリがなだめる。
「魔王城まで一直先に行ってさっさと倒さないとな」
と俺が言ったところでカズナリが地図を出した。
「こっから最短距離だとちょうどまっすぐ西の方角に進めばいいが、途中魔族の集落や国が多数あるからそこは潰しながら移動したい」
「休んでいる暇はない移動を始めよう」
カズナリの一言でみんなが動き出す。
俺がリーダーなのに。
5人で魔界の嫌にしっとりした土を踏みしめながら進み始めた。
進み始めてすぐは元々人間が占領していた名残で人工物が残っていたが、進むに連れてだんだんなくなっていった。
徐々に木の量が増えだし森になった。
全長20mを優に超え、幹は直径4,5mはある巨木で構成された森だ。
「何じゃここは、木の葉のせいで日光が届いていないではないか、こんな深い森初めてじゃ」
「エルフの森もここまで深くは無いわね」
「人間の領地でも見たこと無いですね」
「俺も初めて見たぞホッグはあるか?」
「獣人の住む地域にはあったな、夜目が効かないと通るのは難しい、その上魔獣もでる、どうする?周るか?」
「怖いので私もできるだけ通りたくないです」
「みっとも無いわね、男のくせにビビってんじゃ無いわよ」
「性別は関係ありません怖いものは怖いのです」
「いや、地図を見るにこの森はかなり広い周ると相当時間がかかる、魔界は広いただでさえ移動に時間がかかるのに俺たちは乗り物も無い、少しでも短い経路を辿らなくては」
それを聞いたノグチは軽く絶望の色を見せた。
「私が先導するわ、魔術で光が出せるから」
「ワシは疲れたんじゃが」
「老人には辛い道のりだったかもな」
「なんじゃと?そこまで老いぼれておらんわい、ホッグ若いからって調子に乗るなよ」
「はいはい」
!?
突然森の中から気配がした。
身構える一同。
ノグチとトールヴァル、アナノイアが後ろに下がる。
気配の数が増えていく。
ビュン
風切り音がしてカズナリに向かって何か大きな物体が飛んできた。
ザン
カズナリがそれを切り落とす。
ドカ
見るとカズナリの頭ほどあるであろう岩が落ちていた。
次の瞬間大量の岩が森の中から飛ばされてきた。
巨大な岩は猛烈な速度で木々に激突し鈍い音を立てながら飛んでくる。
カズナリは回避しつつ回避しきれないものを切り落として行った。
俺は後方の三人を守るように岩を拳で弾きながら防いでいった。
そのうち投石がやんだ。
森の中にはおそらく複数の魔獣が居る、後衛の三人を守りながら戦うのは難しい。
「俺が一人で行く、カズナリはコイツラを守っていろ」
俺は俺の背後に隠れていた三人をカズナリに任せて一人で森に入っていく。
森は暗くてほとんど何も見えない。
が、臭いはする。
濃い獣の臭いだ。
俺はゆっくり一歩ずつ前へ進んでいく。
少しずつ中に入って行き、入口が見えなくなる。
四方から獣の臭いがする。
次の瞬間、巨大な猿の形をした獣たちが一斉に襲いかかってきた。
20匹はいる。
俺が拳を振り上げて地面に叩きつけると地面にヒビが入り大きな揺れを起こす。
俺の拳によって起こされた衝撃波で猿たちが吹き飛ばされる。
すかさず正面の猿に向かって咆哮。
木々が揺さぶられ土がえぐれる。
俺は体内に魔獣の肺を入れたことで圧倒的な肺活量と声量を手に入れているのだ。
俺の咆哮に当てられた猿たちが耳から血を吹き出し皿にふっとばされる。
俺は敵が怯んだ隙に地面を蹴り、正面の猿に肉迫し頭をつかみ握り潰した。
横の猿が俺の顔に岩で殴りつけてきた。
その攻撃を喰う岩が顔面にめり込むが関係ない、猿の手を掴み引き寄せて顔面に頭突きを食らわす、猿の顔面が潰れる。
左右と背後から他の猿の追撃が来る。
俺はそれぞれの攻撃を体で全て喰らいながら振り返り、攻撃してきた猿たちに対して拳をお見舞いしてやった。
猿たちはそれぞれ拳を食らったところからメキメキと音を立てながら体が歪み飛ばされていく。
さっき攻撃を食らったところの肉がえぐれて痛みが走る。
残りの猿たちが狼狽る、逃げようとするが逃さない。
背を向けて走っていく猿に向かってフックを飛ばす。
猿の腹部に突き刺さり貫通する。
痛みで暴れる猿を引き寄せてもう一匹の猿に投げつける。
猿と猿が接触した瞬間ドシャッという鈍い音がして木に叩きつけられる。
俺は剣を抜き残りの猿の侵攻路に倒れるように木を叩き切った。
木はメキメキと音を立てながらちょうど猿の上に倒れ猿を潰した。
周りにスプラッタになった猿の亡骸が散乱している。
討伐完了だ。