第67話「いつもの高慢な態度は微塵も見られない」
進むも地獄。退くも地獄……という言葉がある。
どのように対応しても、状況が良くならない状態を指すのだが、
今のパピヨン王とマルスリーヌ王女の状態がまさにそれである。
究極の一択と言っても過言ではない。
アモンが出した5つの条件は……
ロジェが熟考したふたりの処置の結論とそれに伴う方法である。
ひと~つ……王、王女という王族の身分を捨て、政務から引退せよ。
後継者は血縁のない貴族から選ぶ事。
⇒これは悪政に苦しむ故国パピヨン王国を救う為の処置である。
血縁以外の貴族を後継者にするのは、王国が出直す為の心機一転、
しがらみを断つ為だ。
ひと~つ……財産を全て放棄し、国庫へ戻す事。
⇒悪政、収賄などで得た理不尽、不当な利益は、
全て王国へ返還させる。
ひと~つ……自身の犯した全ての罪を告白し世界へ公開する事。
特に勇者ラウル・シャリエを洗脳した上、理不尽に追放した顛末を
書面にした反省文を提出せよ。
⇒国王、王族という立場を利用して犯した罪を懺悔させる措置である。
全世界に犯した罪を公開する事で、心からの反省を促す。
特に、大嘘で誤解されている、
勇者ラウル・シャリエの名誉を回復させる為だ。
ひと~つ……犯した罪、勇者ラウルへのおわびとして両名は僧籍となり、
生涯独身を貫く事。
そして、それぞれが違う辺境の修道院へ入所する事。
⇒犯した罪を償う為の出家であり、辺境の修道院へ入所するのは、
中央とのかかわりを断つ為だ。
独身を貫かせるのは、結婚を望むシーニュ王国皇太子のような第三者
を巻き込ませないようにする処置であり、
やはり血のしがらみを断つ為である。
ひと~つ……入所した修道院では規則正しい生活をし、質素に暮らし、
恵まれぬ人々へのボランティア活動を必ず行う事。
⇒残りの人生を誠実に過ごして貰う為の処置だ。
恵まれぬ人々へのボランティア活動は、
悪意をぶつけた人々への贖罪を行わせる意味がある。
以上を呑めば、生き地獄といえるそんなナイトメアから解放される。
ロジェが擬態した大悪魔アモンが、その選択の答えを出せと求めているのだ。
まず、ひとつめの選択。
5つの条件受け入れを拒否した場合、
重い金貨の袋を転がしつつ互いに罵る、
煮えたぎる熱湯に漬けられ、悪鬼どもから責められる、
重い金張りの鉛外套に身を包み、ひたすら歩く、
生きながら爆炎に焼かれる、
悪鬼どもにより、身体を引き裂かれる、
首まで氷に漬かり、全てが凍る寒さに歯を鳴らし、身体を震わせる、
などなど、夢とは思えないリアルな地獄の責め苦にさいなまれる事となる。
心身の疲労回復やバランスを調整する為の睡眠が、一転し、地獄になる。
人生の3分の1から4分の1……約25年から30年は眠っていると言われるが、
夢とはいえ、その責め苦が一生続くのは辛すぎるといえよう。
そしてもうひとつの選択。
5つの条件受け入れをOKした場合、
王族という身分を捨て、政務から引退。
全財産を返納し、ラウル追放の顛末を含む、自身の罪を世界中に公開。
僧籍となり、生涯独身を貫き、修道院へ入所。
節度のある規則正しい生活をし、めぐまれない人々に尽くす。
以上を受け入れれば、安眠は確約される。
選択は、そのどちらかなのである。
……俺が勇者ラウル・シャリエだった頃、マルスリーヌ王女に洗脳され、
言いなりになって良いようにこき使われ、魔王を倒したらあっさりポイ捨てされた。
挙句の果てに、暗殺まで企てやがって……未遂となったからいいようなものの……
だが……完全に立場は逆転した。
この悪夢の世界、この場は俺が『支配』している。
ロジェ――大悪魔アモンは、ニッと笑い答えを促す。
「さあ、どうだ? パピヨン王、マルスリーヌ王女、どちらかを選べ!」
しばしの沈黙。
だがここで「はい!」といち早く手を挙げたのが、パピヨン王である。
「わしも年だ。残り少ない余生が毎晩こんな悪夢ではたまらない! どうせ退位後は修道院に入ろうと思っていたのだ。5つの条件を呑もう!」
あっさり白旗をあげたパピヨン王。
ただ、置かれた自分の立場を忘れたような、上から目線の物言いである。
「はあ? 何だ? その偉そうな言葉遣いは?」
怒りの色を見せたアモンがぎろりとにらめば、パピヨン王は殺気に怯え、
「も、申し訳ございません! い、言い直します! わ、私も年なのでございます! の、残り少ない余生が毎晩こんな悪夢ではたまりませぬ! 退位後は修道院に入ろうと考えておりました! つ、つつしんで! い、5つの条件を呑ませて頂きます!」
だらだらと滝汗をかきながら、丁寧に言い直すパピヨン王は、憔悴の色が濃かった。
まずは「ざまあ!」第一弾達成である。
一方、父親より傲慢で欲張りなマルスリーヌ王女は迷っていた。
往生際が悪いとも言えるが。
確かに毎晩メンタル完全崩壊に近い状態になるのは、とんでもなく辛すぎる。
かといって、老齢の父より遥かに若い自分が未婚のまま、
修道院でつつましく一生を暮らすのも耐えられない。
しかし、アモンはまたもニッと笑い、迷いに迷うマルスリーヌ王女へ、
とんでもない事を告げたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「おい! マルスリーヌ王女よ、ひとつ良い事を教えてやろう」
「よ、よい事? ですか?」
アモンの言葉を聞き、マルスリーヌ王女は恐怖で身体をびくりと震わせた。
いつもの高慢な態度は微塵も見られない。
「うむ、呪われた地獄のナイトメアを見る度に、寿命は1か月縮まるのだ。お前達父娘のナイトメアは今夜で3回目、それゆえ3か月寿命は縮んだぞ」
「ひ、ひえええっ!? さ、3か月寿命が!? そ、そんなの全然良い事ではありませ~ん!!」
「そうか? 毎晩、地獄のナイトメアを見ながら、悶え苦しみ、後悔し、更に寿命も尽きて行くというのも一興だと思うがな」
「うわわわ~ん!! いやいやいやああ~~!!」
大泣きし、絶叫するマルスリーヌ王女。
「ほう、そんなにいやか?」
「い、いやですう!!」
「ならば、我の出した5つの条件を呑め! 父親と同じくな!」
ぎろり!とにらむアモン。
当然、スキル魔王の威圧が使われている。
あまりの恐怖にマルスリーヌ王女は悲鳴をあげる。
「ひ、ひいいいい!!」
「どうだ? マルスリーヌ! イエスかノーか、どっちだ?」
「はっ、はいっ!! わ、分かりましたああ!! ち、父と同じように致しますうう!!」
こうして……ロジェの遂行した作戦は大成功し、パピヨン王とマルスリーヌ王女は、
完全に「ざまああああ!!!!!!!!!!」されたのである。
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