第66話「すがるようなポーズで、声を振り絞るように発し、 懇願するパピヨン王とマルスリーヌ王女」
その日の晩も、パピヨン王とマルスリーヌ王女は、
全く同じ夢を見て、地獄の責め苦を受けた。
だが、2日連続の信じられないような悪夢でも、
ゴキブリ並みにしぶとい父と娘は強がり、やせがまん。
死ぬような目にあっても「こんなものは単なる夢だ」と割り切ろうとしていたのだ。
しかし3日目にも、パピヨン王とマルスリーヌ王女は全く同じ夢を見てしまう。
とんでもない痛みを感じるリアル感は、夢からさめた現実の世界でも、
記憶が鮮やかによみがえり、はっきりと感じるようになった。
結果、ふたりは完全にメンタルをやられ、眠るのが怖いと騒ぎ出し、
コンディション不良を宣言。
両名が行う公務は全て停止してしまった。
ずうずうしいを筆頭に、鉄面皮、厚顔無恥、恥知らず、野放図、勝手、わがまま等々、いくら言っても言い足りない……
恥を恥と思わない、『厚かましさ』を人間にしたようなパピヨン王とマルスリーヌ王女でさえ、3日続けての地獄ツアー?には、心底参ってしまったのだ。
食欲は完全に落ち、頬はひどくこけ、げっそりとなってしまった。
これもロジェの作戦のうちなのだが、まだまだ「ざまあ!」とは言えない。
仕上げは、これからなのである。
眠ると再びリアルな悪夢を見るので、就寝したくないと駄々をこねていた、
パピヨン王とマルスリーヌ王女であったが、睡魔には勝てない。
ず~っと眠らずに起きていたのだが、遂に力尽き、
コテンと寝室のベッドへ倒れ込んでしまう。
超夢魔の技は強力極まりない。
パピヨン王とマルスリーヌ王女はあっという間に熟睡してしまう……
と同時に、冥界に立つふたりの前には、
またも冥界の裁判官ミーノースが立っていた。
「ははははは! また来たか、お前達! 今夜もたっぷり苦しみ悔い改めるがよいぞ!」
現世では権力を欲しいままにするパピヨン王とマルスリーヌ王女だが、
この冥界――地獄でわがままは通らない。
ふたりとも真っ青、げんなりとしてうつむいてしまったその時。
ひゅうううううう!!!
と大気を切り裂く音と、
どっか~~んんん!!!
という爆発音。
もくもくと白煙がたち、消え去ると、身長10mはあろうかという人外が立っていた。
フクロウの頭、狼の胴体、蛇の尾を持つまがまがしい異形の姿だ。
人外の姿を見て、ミーノースがさっと跪く。
「おお! これはこれは大悪魔アモン様! ご機嫌麗しゅう! ようこそいらっしゃいました!」
ミーノースほどの者が跪くのだ。
冥界でも上位に位置する大悪魔であろう。
自分達も跪かないと、まずいと思ったに違いない。
パピヨン王とマルスリーヌ王女も慌てて、跪き、礼を尽くしたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
平伏に近い姿勢で跪く者たちを見て、大悪魔アモン――擬態したロジェは、
「ははははは!」
と高らかに笑う。
そして、声を張り上げる。
「ミーノース! 勤めご苦労!」
「はは! アモン様!」
「そしてそこの者ども! お前達は、パピヨン王国のパピヨン王とマルスリーヌ王女であるな!」
「………………………………………………………………」
「………………………………………………………………」
アモンの呼びかけに、臆したのか、無言で、
すぐに返事が出来ないパピヨン王とマルスリーヌ王女。
そんなふたりに焦れ、いらついたのか、ミーノースが怒鳴る。
「ごらあ!! 何をしておる!! 畏れ多くもアモン様がお呼びかけされているのだぞ!! 両名ともしっかり返事をせんかああ!!」
「はっ、はい~!! パピヨン王国国王ウジェーヌ・パピヨンでございますうう!!」
「はい~!! 同国王女マルスリーヌ・パピヨンでございますうう!!」
何とか、呼びかけに応え、名乗ったふたり。
対してアモン――ロジェは、
「そなた達は罪深き者!! 人生を終えるまでこの責め苦が続くと思え!!」
人生を終えるまで!?
この責め苦が続く!?
あまりのショックに、パピヨン王とマルスリーヌ王女はまたも無言になってしまう。
「………………………………………………………………」
「………………………………………………………………」
ここでアモン――ロジェはニヤリと笑い、
「だが!! お前達に、このアモンがチャンスをやろう!! 我が出すいくつかの条件を受け入れたら、このナイトメアから、解放してやってもよい!」
チャンスをくれる!?
いくつかの条件を受け入れたら、このナイトメアから、解放して貰える!?
怖ろしい悪魔が来たと思い、怯えていたら……何と! 取引を持ち掛けて来た。
冷静な者なら、悪魔との取引は極めて危険だとためらうはずなのだが、
パピヨン王とマルスリーヌ王女は、助かりたい一心で、そんな余裕はなかった。
「お、お願い致します!!」
「そ、その条件をお聞かせください!!」
すがるようなポーズで、声を振り絞るように発し、
懇願するパピヨン王とマルスリーヌ王女。
アモン――ロジェは重々しく響き渡る声で告げる。
「……そうか、分かった! では条件を言おう。よ~くおぼえておくがよい!
ひと~つ……王、王女という王族の身分を捨て、政務から引退せよ。
後継者は血縁のない貴族から選ぶ事。
ひと~つ……財産を全て放棄し、国庫へ戻す事。
ひと~つ……自身の犯した全ての罪を告白し世界へ公開する事。
特に勇者ラウル・シャリエを洗脳した上、理不尽に追放した顛末を
書面にした反省文を提出せよ。
ひと~つ……犯した罪、ラウルへのおわびとして両名は僧籍となり、
生涯独身を貫く事。
そして、それぞれが違う辺境の修道院へ入所する事。
ひと~つ……入所した修道院では規則正しい生活をし、質素に暮らし、
恵まれぬ人々へのボランティア活動を必ず行う事。
よいか! それらを必ず守ると言うのなら、明日の夜からナイトメアはナシだ!
ちなみに、両名が悪魔と取引した事は厳秘とする!
但し、ひとつでも条件を破ったり、他者へ契約内容を漏らした場合、一生のナイトメアは復活する!」
アモンがあげた5つの条件。
王族として好き放題に豪奢な暮らしをして来た、
パピヨン王とマルスリーヌ王女にとっては、どれもが厳しいものだろう。
また、自身の悪行を世界へ告白するのは相当な勇気が必要だ。
しかし平民のロジェから見て、命が助かるのであれば、
結構な好条件レベルではある。
この作戦は、選択肢3⇒王と王女だけ密かに断罪の上、引退させる。
そして、マルスリーヌ王女の、非情、わがまま、自己本位、金遣い荒いなどの、
とんでもない『素』の姿を、自身の告白により、シーニュ王国皇太子へ知らしめるなど、趣旨全てをクリアしたものだ。
果たして、5つの条件を呑むのか、吞まないのか、選択はいかに……
人生のターニングポイントたる選択に、
さすがにパピヨン王とマルスリーヌ王女は顔を見合わせたのである。
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