第65話「いきなりですが、酷い夢でもごらんになりました?」
第四圏、貪欲者の地獄……
物を惜しんだり浪費の悪徳を積んだ者が、重い金貨の袋を転がしつつ互いに罵る。
「く、くそ! 愚かなお前が、ラウルを捨てなければ、こんな事には……」
「う、うるさい! 地獄に堕ちるなんて酷い目にあうのは全部お父様のせいよ!」
地獄へと堕とされたパピヨン王とマルスリーヌ王女は罵り合い、
全身、滝汗をかきながら、ひたすら金貨の大袋を転がした。
しかし、まだまだ序の口。
ふたりの地獄巡りは始まったばかりである。
次にパピヨン王とマルスリーヌ王女が送られたのは、第八圏悪意者の地獄であった。
第五の嚢は、職権を悪用乱用し、利益を得た汚職者が、
煮えたぎる熱湯に漬けられ、悪鬼どもから責められるもの。
受ける痛み苦しさは、重い金貨の大袋を転がす比ではない。
「ぎゃああああああ!!!!! ゆ、許してくれええ!!!!!」
「ぎえ~~~っっっ!!!!! ご、ごめんなさい~!!!!!」
悪鬼どもにより熱湯に漬けられ、激痛に絶叫するパピヨン王とマルスリーヌ王女。
しかし裁判官ミーノースが告げた通り、ふたりは不死。
激痛を感じ、大やけどを負うが絶命せず、すぐに肉体は元通りに復活したのだ。
次にパピヨン王とマルスリーヌ王女が送られたのは、同じく第八圏、悪意者の地獄、
第六の嚢である。
偽善をなした者が重い金張りの鉛外套に身を包み、ひたすら歩くというもの。
とんでもなく重いが第五の嚢の熱湯地獄よりはマシと感じ、
ふたりは金張りの鉛外套の重さに耐え、ひいひい言いながら歩き続けた。
更に同じく第八圏、第八の嚢は、権謀術数をもって他者を欺いた者が、
その身を爆炎に包まれて苦悶する。
「ぎゃああああああ!!!!! ゆ、許してくれええ!!!!!」
「ぎえ~~~っっっ!!!!! ご、ごめんなさい~!!!!!」
生きながら焼かれるという罪人のような責め。
一旦焼死するが、すぐに復活してまた焼かれるという繰り返し。
そして同じく第八圏、第九の嚢は、不和と分裂の種をまいた者が、悪鬼どもにより、
身体を引き裂かれるというもの。
「ぎゃああああああ!!!!! ゆ、許してくれええ!!!!!」
「ぎえ~~~っっっ!!!!! ご、ごめんなさい~!!!!!」
悪鬼どもが力任せにふたりの身体を引き裂き、また復活するという、
これまた繰り返し。
そして、悲鳴と許しを請う叫びも、同じように繰り返された。
最後は……第九圏、裏切者の地獄である。
嘆きの川と呼ばれる氷地獄で最も重い罪を課せられる。
一番の重罪たる裏切者は首まで氷に漬かり、
全てが凍る寒さに歯を鳴らし、身体を震わせる。
これまで高温に責められたのとは一転、今度は凍える氷で責められるのだ。
公用に、私用にと、散々こき使ったロジェを裏切り、あっさりとポイ捨て。
挙句の果てに殺そうとまでしたふたりには、ぴったりの地獄である。
「さ、さ、さ、寒いぞ~~!!!!! ここから出してくれええ!!!!!」
「し、し、し、死んじゃううう!!! た、た、た、助けてええ!!!!!」
そしてパピヨン王とマルスリーヌ王女が責めを受ける場所から、少し離れたところに、フクロウの頭、狼の胴体、蛇の尾を持つまがまがしい姿の人外が一体居た。
……変身魔法で高位悪魔に擬態したロジェである。
そう、この地獄堕ちはロジェの作戦であり、魔王禁断の秘法のひとつ、
『超夢魔の技』である。
補足しよう。
『夢魔の技』とは人間に夢を見せ、魅了、混乱させ、惑わせる技であるが、
それを数百倍パワーアップし、現実世界と同じ感覚を覚えさせるのが、
魔王が行使する『超夢魔の技』なのである。
身内以外他者への情愛が皆無で、性格がねじ曲がったふたりだが、
少しは反省したのだろうか?
渋い表情の悪魔ロジェは、責めに苦しむパピヨン王とマルスリーヌ王女を、
じ~っと見守っていたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌朝……王宮の豪奢な専用寝室でマルスリーヌ王女は目を覚ました。
寝覚めは良いとは言い難い。
そして見た夢もはっきりと憶えている。
本当にリアルな夢であった。
……厚い雲に覆われた灰色の空。
岩だらけの砂漠といった荒涼とした大地。
設けられた様々な地獄。
それらで受けたとんでもない責め苦。
不死であるゆえ、死ぬ事は叶わず、痛み苦しさが永遠に続く……
本当に経験したら……地獄に堕ちたら、どんなに辛い事だろうか?
しかししかし!
でもでも!
目覚めたら……全てがリセットされていた。
慌てて飛び起き、鏡でじっくり見ても、
かすり傷ひとつなく、責め苦の痕跡は皆無である。
「喉元過ぎれば熱さを忘れる」ということわざがある。
苦しい事も過ぎてしまえば、その苦しさや恩も簡単に忘れてしまうという事だ。
夢の中で、あんなに悲鳴をあげ、助けを求め、
必死に許しを請うていたのに……
何よ?
大したことないじゃない?
所詮は、夢。
文字通り、悪夢だったけど、現実的ではない単なる夢に過ぎないでしょう?
マルスリーヌ王女はそう思い、強気になる。
良く言えば、切り替えが早く、ポジティブという事だが、
悪く言えば、己を顧みず、後悔、反省の気持ちがあっという間に消えて行く事……
……その後、マルスリーヌ王女は着替え、支度をし、大広間へ。
大広間で朝食を摂る際、いかにも寝覚めの悪そうな父パピヨン王と話す。
「ねえお父様? ちょっとお尋ねしたいのですが」
「うむ、何だ、マルスリーヌ」
「いきなりですが、酷い夢でもごらんになりました?」
「あ、ああ、ちょっとな……とんでもなく酷い夢だった。起きたら全身汗まみれだった。しかし、所詮は夢だ」
「実は私もそうでした。でも起きたら寝汗が凄いだけで、何事もありませんでした。全く問題はナッシングですわ」
「うむ、だな! お前の言う通り、現実でないなら全く問題はない! 起床したら何も起きてはいなかったからな!」
「あのような夢……多分もう二度と見ないでしょう」
「ああ、見てたまるか」
という会話を交わした。
さすが似たもの父娘。
喉元過ぎれば熱さを忘れるを、ふたりとも見事に示してくれた。
……だが、その日の晩も、パピヨン王とマルスリーヌ王女は、
全く同じ夢を見て、地獄の責め苦を受けたのである。
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