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第64話「魔物に捕食され、無念の最期を遂げたラウルの恨み、今こそ思い知るがよいぞ!」

ロジェ・アルノー……かつて勇者ラウル・シャリエと呼ばれた男が、

以前暮らしたパピヨン王国王宮へ、

シーニュ王国皇太子の手紙と献上品を届けた夜の事……


ロジェは、そのままパピヨン王国王都へ留まり、とある宿屋へ宿泊していた。


そう!

いよいよ今夜、ロジェの『作戦』が発動する。


その結果、パピヨン王、そしてマルスリーヌ王女が、

自身の行いを死ぬほど後悔し、引退。

ロジェ同様、第二の人生を歩んで行く事となるのだ。


今……日付が変わった。


おもむろに立ったロジェはまず変身魔法を使い、

フクロウの頭、狼の胴体、蛇の尾を持つまがまがしい姿の人外に姿を変えた。


この擬態は誰が見ても上位の魔族、はっきり言って悪魔の姿である。


鏡に映った自分の姿を見て、満足そうに頷いたロジェは、

ふっと、その姿を消したのである。


……一方、睡眠中のパピヨン王とマルスリーヌ王女は、夢を見ていた。


奇妙な夢であった。


やけにリアルで、普通の夢にある曖昧さがない。


そして楽しい夢ではなく、真逆な辛い夢であった。


厚い雲に覆われた灰色の空が見下ろす、

だだっ広い、岩だらけの荒野をふたりはさまよっていた。


少し先に川がある。


濁った茶色の水が流れる幅広い大きな川だ。

アケローン川……というらしい。


橋は、どこにもかかっていない……

だが、「向こう岸に渡れ!」と、ふたりの心の内なる声がささやく。


ふと気が付けば……渡し舟がある。


渡し舟のそばには、長い(かい)を持ち、

着古したみすぼらしい服をまとう、長い髭の老人が立っていた。


「じじい! 我らにこの川を渡らせよ!」

「ぐずぐずしないで、さっさと船を出すの! 高貴なる王と王女の命令よ!」


パピヨン王は声を張り上げ、マルスリーヌ王女は金切り声で叫んだ。

命令口調の声を聞き、じろりと、ふたりを一瞥した老人。


面倒くさそうに手で「乗れ」と合図した。


川は流れが速そうだが、老人は見た目と違い、力強く(かい)を漕ぎ、

ふたりを向こう岸へ渡してくれた。


「ふん! ごくろう!」

「何よ! 見た目と違って良い腕じゃない!」


礼の言葉でさえ、嫌味とか捨て台詞のように聞こえる、

人として終わっている残念なパピヨン王とマルスリーヌ王女。


「……………………………」


結局渡し守――カロンはひと言も発せず、ふたりを見送った。


パピヨン王とマルスリーヌ王女がしばし歩くと、

今度は荘厳な趣きの巨大な門が見えて来た。


門の前には、これまたひとりの老人が立っていた。


ただ先ほどの渡し守よりも、顔や体つきがふくよかで、

着ているものも王族が着るような立派な服である。


老人は、パピヨン王とマルスリーヌ王女を見て声を張り上げる。


「わしは! 冥界の裁判官ミーノース! お前達へ沙汰を申し渡す!」


ミーノースと名乗った老人の言葉を聞き、父と娘は大混乱に陥ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「め、め、冥界だとお!?」

「え、えええ!? そ、それって、地獄!?」


パピヨン王とマルスリーヌ王女の言葉を聞き、

ミーノースは重々しく頷く。


「そうだ! ここは冥界――地獄だ! お前達は生前、取り返しのつかぬ大罪を犯した。よってこの冥界において罰を受け、悔い改めるのだ」


「何を申しておる! 罪など全然犯しておらぬわ!」

「私達へ変な言いがかりはやめてちょうだい!」


とぼけているのか、自覚がないのか、

父娘は騒ぐが、ミーノースは一喝。


「黙れ!! 愚か者ども!! 世迷言(よまいごと)を申すな!!」


びりびりびりと響き渡る大音声。


「……………………………」


「……………………………」


「パピヨン王国国王ウジェーヌ・パピヨン、同国王女マルスリーヌ・パピヨン! そなた達は、職権乱用、賄賂受け取り、不当人事、過重労働などの悪政三昧。パピヨン王国を滅亡へと導きつつある!」


「……………………………」


「……………………………」


「そして一番の大罪は、魔王討伐の恩義ある勇者ラウル・シャリエを散々利用し、使いつぶした上、さしたる理由もなく婚約破棄! ろくな報酬も支払わず追放。挙句の果てに亡き者にしようと刺客まで送った! 言語道断! 恩を仇で返す外道畜生の所業だ! 魔物に捕食され、無念の最期を遂げたラウルの恨み、今こそ思い知るがよいぞ!」


「ま、待て……そ、それは、ご、誤解だ!」

「そ、そうよ。ま、間違いなの! 間違いなのよ!」


「何が誤解だ! 何が間違いだ! 罪深きお前達はひとつの地獄では生ぬるい!」


「ひええ!」

「た、助けて!」


「改めて申し渡す! そなたたちがまず送られるのが第四圏、貪欲者の地獄だ! 物を惜しんだり浪費の悪徳を積んだ者が、重い金貨の袋を転がしつつ互いに罵る!


次に送られるのが第八圏悪意者の地獄だ! そのうちまず第五の(のう)! 職権を悪用乱用し、利益を得た汚職者が、煮えたぎる熱湯に漬けられ、悪鬼から責められる!


次に第六の嚢! 偽善をなした者が重い金張りの鉛外套に身を包み、ひたすら歩く!


次に第八の嚢! 権謀術数をもって他者を欺いた者が、身を爆炎に包まれて苦悶する!


次に第九の嚢! 不和と分裂の種をまいた者が、身体を引き裂かれる!


そして第九圏 裏切者の地獄! 嘆きの川と呼ばれる氷地獄! 最も重い罪だ!

一番の重罪たる裏切者は首まで氷に漬かり、全てが凍る寒さに歯を鳴らし、身体を震わすのだ!」


冥界の裁判官ミーノースが告げたのは、とんでもなく凄まじい地獄の数々。


「そ、そんなもの耐えられない!」


「む、無理よ! 無理! 死んじゃうう!!」


怯え切ったパピヨン王の弱音、そしてマルスリーヌ王女は恐怖に絶叫した。


「ははははは! 安心せい! 現世でお前達は既に死んでおる! だがこの冥界では不死の状態となっておるのだ! この意味が分かるか?」


「……………………………」


「……………………………」


ミーノースの問いかけにふたりは答えられなかった。


そんなふたりを見て、ミーノースはニヤリと笑う。


「各地獄の責めを受ける度に、お前達は死に、そして蘇る。永遠に苦しみの中で生きて行くのだあ!」


きっぱりと言い切ったミーノースの言葉が終わった瞬間。


周囲の景色がガラリと変わった。


パピヨン王とマルスリーヌ王女がまず送られたのは、第四圏! 

貪欲者の地獄である。


気が付けば、いつの間にか……


目の前に人の身長ほどもある金貨の大袋があり、全くその気がないのに、

パピヨン王とマルスリーヌ王女は自然に手が伸び、大袋を押そうとしていた。


しかし、大袋は全く動かない。


ただただ疲労だけがたまって来る……


「く、くそ! 愚かなお前が、ラウルを捨てなければ、こんな事には……」


「う、うるさい! 地獄に堕ちるなんて酷い目にあうのは全部お父様のせいよ!」


ミーノースが言った通り、金貨の大袋を転がそうと試みながら、

父と娘は容赦なく罵り合っていたのである。

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