第61話「暗愚なパピヨン王とマルスリーヌ王女を現状のまま、 ぬくぬく暮らさせるというのはありえない」
それから……
ロジェとアメリーは、休日デートを楽しんだ。
ふたりとも生まれて初めてのデートだと、お互いにカミングアウトし、
恥ずかしそうに苦笑し合った。
否、逆に初めてで良かったとも喜んだ。
ちなみにロジェ――ラウルは、マルスリーヌ王女とデートさえした事がない。
先述したが、王宮内において、ほんの一瞬だけ手をつないだくらいである。
さてさて!
拙い知識をフル活動させ、ふたりはデートの段取りをいろいろ組んだ。
ありきたりかもしれないが、おしゃれなレストランで美味しいランチを摂り、
絆のあかしとなるものが欲しくて、アクセサリー屋で指輪も購入し、
それぞれの左手の薬指にはめた。
内々の儀式ではあるのだが、ふたりで『婚約』を決めたつもりである。
それから、化粧品屋、衣料品屋、雑貨屋などへ行き、
ロジェは、アメリーの好きなものをプレゼント。
恐縮したアメリーは敢えて高価なものを望まず、
「つつましくてもふたりで幸せに暮らしましょう」と言い、ロジェを感激させた。
とまあ幸せなふたりであったが、元々、根っからの働き者。
デートを早々と切り上げ、午後3時には白鳥亭へ戻り、
オルタンスとバベットを手伝う事に。
「せっかくのデートなのに」と呆れられるが、
ロジェとアメリーは嬉々として働いた。
そして、まかない夕食後、オルタンスとバベットへ左手薬指の指輪を見せ、
婚約した事を伝え、認めて貰ったのである。
翌朝……ロジェは、再びアメリーと市場へ買い出しに行き、白鳥亭で働き、
まかない朝食を摂った後、受諾した馬車荷便の集荷を行う。
郵便省、A、B、C商会を回り、郵便、荷物の回収と指示を受け、
白鳥亭に戻り、遅いまかない昼食を摂る。
少し昼寝をした後、夕食の手伝いをし、まかない夕食を摂ったら、早めに就寝。
更に翌朝……ロジェは午前4時に買い出しに行くアメリーとバベットを、
オルタンスとともに見送った。
正式に婚約者となったアメリーからは、
「気を付けて行って来てくださいね」と一時の別れを惜しまれる。
そんなアメリーの傍らには一匹の黒猫が。
ロジェが不在時にはいつものように、黒猫に擬態したファザーガッドのナタンが、
アメリーのボディーガードを務める事になっているのだ。
さあて!
と、白鳥亭を後にしたロジェは気合を入れ直す。
守るべきものがたくさん増えた。
『抜け勇者』たる自分の人生だけを守るのではない。
愛するアメリーとその家族も守る!
これから300㎞を走り抜け、全10の町村をめぐる行程の中で、
配達、集荷の仕事をきっちりこなしながら、
マルスリーヌ王女対策も考えなければならない。
頷き、王都の正門を出たロジェは、軽快に走り出したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
実は飛翔、転移の魔法を使いこなし、300㎞の移動などはほんの一瞬。
しかし表向き時速100㎞で1時間走行プラス休憩というスケジュールに見せる為、
ロジェは10町村の到着時間を『調整』した。
こうして移動時間を大幅に短縮。
作り出した『自由時間』を使い、
マルスリーヌ王女への対策を考えようという腹積もりである。
事前に王都で購入した地図を見て、思案するのに最適な場所を選んである。
その全てが原野であり、人影がまったくない無人の地であるのは当然だ。
まず最初の思案場所。
高さ30mはあろうかという原野の高い崖の上に、ロジェは飛び上がり座り込む。
思案中に魔物や肉食獣の邪魔が入らないようにこの場所を選んだのだ。
後は飛行型の魔物や、猛禽類等のちょっかいだけ気を付ければ良い。
ちなみに、気分を変える為、過去に訓練した場所以外の原野を選んではいる。
さあ!
逆算し、着地点――目的から考える事にしよう。
目的……マルスリーヌ王女のシーニュ王国嫁入り阻止。
絶対にシーニュ王国皇太子と結婚させない。
……その為には、一体どうすれば、どうなれば良いのか?
マルスリーヌ王女の、非情、わがまま、自己本位、金遣い荒いなどの、
とんでもない『素』の姿を、シーニュ王国皇太子へ知らしめる。
愛想をつかした皇太子はマルスリーヌ王女との婚活を取りやめるはず。
何も関係がなければ、シーニュ王国皇太子の駄目さを伝え、
そんな相手と結婚などしたくないという考えを、
マルスリーヌ王女の方に持たせるのもありなのだが……
シーニュ王国皇太子は、次期国王。
ロジェとアメリーの未来を託す人物である。
人となり、能力は未知ではあるが、いたずらに貶める事は避けたい。
皇太子の叔父にあたるマクシミリアン殿下とつながりが出来た事もあり、
逆に陰ながら応援したいというのが本音だ。
シーニュ王国皇太子は全面的にフォローするとして、
外道のパピヨン王、マルスリーヌ王女をどうするのかという問題もある。
以下が先日、ロジェが考えた選択肢。
選択肢1⇒このまま完全に放置し、パピヨン王国の滅亡を見守る。
選択肢2⇒国民には罪はないので、陰ながら何らかの形でパピヨン王国を助ける。
方法は未定。
選択肢3⇒王と王女だけ密かに断罪の上、引退させる。
方法やその後は未定。
選択肢4⇒自分が生きている事をカミングアウト。
王と王女に協力し、瀕死状態の国を立て直す。
選択肢5⇒勇者プラス魔王の能力を発揮。
国を圧倒的な力で占領し、自分が王となる。
改めて考えてみても、4と5はない。
1も後味が悪すぎる。
選ぶとすれば、2か3なのだが……
暗愚なパピヨン王とマルスリーヌ王女を現状のまま、
ぬくぬく暮らさせるというのはありえない。
考え抜いた結果は……3である。
パピヨン王とマルスリーヌ王女を密かに断罪するのだ。
しかし断罪した後のふたりの処置、そして主の居ないパピヨン王国をどうするのか?
という問いに答えは出ない。
……よし、続きは次の試案場所で考えよう。
ロジェは周囲の気配を確認の上、崖上から転移魔法を行使。
街道付近へ跳び、再び、街道を時速100㎞で走り始めたのである。
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