第52話「ひとりで思いつくまま、いくつか考えてみた」
約1時間後……
ロジェは、パピヨン王国王都から500㎞と少し離れた町を歩いていた。
現在まだお昼前の時間。
先述したが、もう一度言おう。
普通に考えれば、何もマイナス要素がない中、
あのままロジェはパピヨン王国の王都まで行っても良かった。
しかし目的地へ入る前に、ワンクッション置き、
もう一度じっくり考えたり、心構えをする必要があると冷静に考えたのである。
何も考えず、何の準備もせず、いきなりパピヨン王国王都へ赴いた挙句、
想定外の出来事にあたふたと慌て、振り回されるのはごめんだと。
勇者ラウルであった頃のロジェはひたすら純粋で無垢、かつ誠実であった。
その反面、マルスリーヌ王女の美貌と甘言にころっと騙されるなど、
脇が甘い部分もあったのは事実である。
だが、魔王の能力が加わって以降は、自身と他者、両方にほどよく厳しくなり、
『したたかさ』も加わった。
そんな現在のロジェが『幸せなやり直し人生』を送る上で重要だと思っている事。
さすがに『愛』は断トツのナンバーワンだが、
優先順位はその都度前後はするが『財力』『人材』『情報』が続くと思っている。
愛は……ひょんな事で出会ったアメリーと大切に育んでいる最中。
人材は、人脈と言い換えてもOKだが……白鳥亭の方々、
冒険者ギルド職員のクリス、配下にした愚連隊達、
馬車荷便代行で知り合った方々、そして宰相マクシミリアン殿下。
人外だが、魔物の配下も得ている。
魔獣ケルベロスにケット・シーの王、ファザーガッドのナタンと配下達だ。
そして情報は、物理的なタイムラグはあるのだが、
冒険者ギルドは勿論、愚連隊、ナタン達から入って来る。
さてさて!
この町ですべき事は『情報』の収集である。
無思考、無防備で王都へ入る前に、王都の状況は勿論、
パピヨン王とマルスリーヌ王女の近況と評判等を収集すべきなのである。
実際には存在しない『40歳地味オジ』に擬態したロジェは、旅の商人を装い、
巷の噂を聞きたいと言う感じで、さりげなく尋ねる事にした。
昼の食事にと入った飲食店、
またアメリー達へのおみゃげを兼ね、
これまたいろいろな店で様々な商品を買いながら、老若男女問わず、
いろいろと聞いて回る。
「あの……最近、パピヨン王国の景気はどうですか?」
「そういえば……パピヨン王とマルスリーヌ王女はお元気ですか?」
などなど。
対して、皆、良くある世間話的な質問である事、
平凡&地味な商人風オジのロジェだから、全く警戒せず、気楽に答えてくれる。
「いや~、景気は悪い、どんどん悪くなっているねえ。好景気のシーニュ王国がうらやましい」とか
「王と王女が出す施策、出す施策がことごとく失敗。完全に裏目になってるなあ」とか、
「魔王を倒した勇者ラウルが、油断して魔物に喰われ死んでから、この国はダメになったよ」とか、
「パピヨン王が年のせいか、ますます嫌味で頑固になっている」とか、
「勇者ラウルに対し、一方的に婚約破棄し、フリーとなったマルスリーヌ王女は、各国の王家へ、イケメン王子限定の条件付きで『婿募集』の触れを出した」とか、
「わがままな性格はともかく、容姿だけは抜群なマルスリーヌ王女には、何も知らない他国王家から、見合いの希望が結構来ている」とか、
……どれもこれも、ろくな話しかなかったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
やはりというか、予想通りというのか、
勇者ラウル――ロジェを失ったパピヨン王国は、暗愚で恥知らずな王と王女の悪政もあり、とんでもなくボロボロとなっていた。
やはりこの町へ来て良かったとロジェは思った。
パピヨン王国王都へ入る前に貴重な情報を得る事が出来たからだ。
ロジェが能力喪失と偽って、とんでもない本性をさらけ出した、
パピヨン王とマルスリーヌ王女。
ふたりは、冗談はよし子さんという無茶な事ばかり行い、
滅亡への道をひたすら歩んでいると言っても過言ではない。
仮にもロジェが生まれ育った思い入れがある故国なので、少し心苦しいが、
追放どころか、暗殺未遂というとんでもなく酷い仕打ちをした王と王女へは、
因果応報! 思わず、ざまああああ!!!と言っても良いくらいだ。
一方、ロジェが逃げ込んだシーニュ王国は、
うらやむパピヨン王国一般市民のコメントにあったように、超が付く好景気。
ロジェが日々暮らす王都も、仕事で回る町村も、活気にあふれ、
人々には笑顔が絶えない。
実は……白鳥亭の満席状態を含め、その超好景気が、
勇者プラス魔王のロジェ来訪による大きな幸運だった事は、
本人も含め、誰も知る由がないのだ。
町内で聞き込みの結果、パピヨン王国の現状、そしてパピヨン王、マルスリーヌ王女の近況と評価が判明したわけなのだが……はてさて、どうしたものかと思う。
適当な宿屋へチェックインし、部屋に入ったロジェ。
ひとりで思いつくまま、いくつか考えてみた。
選択肢1⇒このまま完全に放置し、パピヨン王国の滅亡を見守る。
選択肢2⇒国民には罪はないので、陰ながら何らかの形でパピヨン王国を助ける。
方法は未定。
選択肢3⇒王と王女だけ密かに断罪の上、引退させる。
方法やその後は未定。
選択肢4⇒自分が生きている事をカミングアウト。
王と王女に協力し、瀕死状態の国を立て直す。
選択肢5⇒勇者プラス魔王の能力を発揮。
国を圧倒的な力で占領し、自分が王となる。
他にもまだまだありそうだが、とりあえず上記5つ。
自分で考えておいてなんだが、
……二度目の人生は、他国で平和に静かに暮らして行くと決めたのに、
よりによって4と5はないでしょ?
特に5なんか、勇者の闇堕ち、魔王の再来とかって言われるぞ。
と、自問自答。
苦笑したロジェは、宿で出された夕食を摂ると、
穏やかな眠りについたのである。
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