第49話「さて、これでよし」
ギルド職員クリスからの話とは、ランクBにアップし、ランカーになるという事と、
何と何と何と! シーニュ王国王家からの指名依頼であった。
王家からの指名依頼ならば、普通に考えても、良い話ではないだろうか?
でも……この嫌な予感――胸騒ぎは何だ?
良い話のはずなのに、おかしくないか?
勘が鋭くなっているのは、勇者プラス魔王の能力から生じる、
危機回避能力の増大だろう。
とりあえずクリスの話を聞くしかない。
非常事態の場合はクリスの心を読まざるをえないが、
現時点でそこまでする必要はないだろう。
にこやかにクリスが言う。
「最近、疾風のロジェさんの名が巷で大評判となり、王家のさる御方のお耳へ入ったのですよ」
対して、ロジェはいつものように誇らず、驕らず。
淡々と言葉を戻す。
「へえ、俺が大評判なんですか、成る程」
「はい、まずロジェさんの類まれな快速が噂になりました。そして速いだけではなく、安全に確実に郵便や荷物を届ける仕事ぶりが4つのクライアントから称賛され、その中で郵便省の担当役人から王家へ情報が入ったのです」
「そうだったんですか」
「はい、それでですね、試しに王家でもロジェさんを使ってみたいという話になりました。結果、今回の指名依頼に至ったという経緯です」
「成る程、分かりました」
……今のところ話にヤバい部分はない。
しかし、油断は出来ない。
「それで、クリスさん、早速ですが、来た依頼の内容というのは? 教えてください」
「はい、ご説明します。まずはトライアルとして貴族家間におけるメッセンジャーをこなして貰い、問題なければ合格という事で、大きな仕事を発注したいとおっしゃっています」
……成る程。
貴族家間におけるお試しのメッセンジャーを合格すれば、
メインの仕事をやらせて貰えるという事だな。
「詳しい仕事内容は受諾後にお話しする事となりますが、報酬はトライアルが金貨300枚。大きな仕事は金貨1,000枚です」
うお!
何だ、その金額は!?
さすが王家。
仕事内容が不明なのが微妙だが、メッセンジャたった1回で金貨300枚は大きい。
大きな仕事というのも曖昧な言い方だが、報酬金貨1,000枚はでかすぎる!
どうせ、シーニュ王国王家の仕事はよほどの理由がない限り断れない。
さすがに犯罪まがいの行為は無理だけど、
クライアントは王家だし、ギルドを介して頼む仕事が犯罪の確率は著しく低い。
そう考えたロジェは、
「分かりました。今回の指名依頼、謹んで受けさせていただきます」
と言い、シーニュ王国王家からの指名依頼を受諾したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
依頼を受諾し、クリスから詳細な説明を受けたロジェ。
まずはトライアルのメッセンジャー依頼を受ける事に。
ちなみにまだ『大きな仕事』の内容を聞けてはいない。
このトライアルをこなし、合格してからとの事。
という事で、ロジェがやって来たのは、
貴族街区の中でもひときわ大きい建物である。
そう、ここは何と何と何と! 王家の中でも大物中の大物。
現国王の弟君、王国宰相を務めるマクシミリアン殿下の屋敷であった。
まさか、クライアントがシーニュ王国宰相とはなあ……
宰相様が、一体、俺に何を頼むと言うんだろ?
巨大な正門の前でふうと、軽く息を吐いたロジェ。
しかし、少し変だ……
否、少しどころではない。
王弟で宰相の屋敷であれば、
正門周辺にはいかめしく屈強な護衛の騎士達が詰めているはずである。
それが無人状態、誰も居ないのだ。
ただロジェは索敵で護衛の騎士達の位置はキャッチしていた。
騎士達は全員、屋敷内に詰めていた。
マクシミリアン閣下とおぼしき人物とともに。
そして正門前に来た自分は、彼らからしっかり監視されているとも。
本当に、一体どういうつもりなんだろ?
と、そこへ!
皆、体長2m近くある10頭以上の大柄な犬達が、
ばうっ! ばうっ! ばうっ! ばうっ!
ばうっ! ばうっ! ばうっ! ばうっ!
ばうっ! ばうっ! ばうっ! ばうっ!
ばうっ! ばうっ! ばうっ! ばうっ!
と声を張り上げ、吠えながら正門の柵超しに殺到して来たのだ。
宰相亭で飼っている番犬達に違いない。
ううううう~!!! ううううう~!!!
ううううう~!!! ううううう~!!!
ロジェを見て、歯をむきだし、唸り声をあげる番犬達。
多分、不審者が屋敷へ侵入したら、とんでもない状態になる。
一斉に不審者へ襲い掛かり、即、瀕死状態だろう。
こうやって吠えられるだけでも、
気が弱い者なら、震えあがり、動けなくなるか、速攻で逃げ出すのは必至だ。
しかし、しかし、ロジェは魔王以下、数百万の魔族を倒した猛者である。
加えて、巨大灰色狼に擬態した魔獣ケルベロスを従士にもしていた。
いくら大柄で訓練を受けたとはいえ、『普通』の番犬達に臆するわけがない。
ロジェは威嚇のスキルでも使おうかと思ったが、突如、犬達に変化が起こった。
吠え、歯をむき出して唸っていた犬達はすぐにおとなしくなり、
く~ん、く~ん、く~ん、く~ん、
く~ん、く~ん、く~ん、く~ん、とロジェへ鼻面を向け甘える始末。
そう!
ロジェが魔王から受け継いだ禁断の秘法ひとつ、
パーフェクトテイムが自動発動したのだ。
補足しよう。
そもそもテイムとは「手懐ける、飼い慣らす」という意味であり、
テイマーとは、魔物を手懐ける者やテイム能力を持つ者を表す。
魔王の持つ禁断のパーフェクトテイムは、結構なレベルの魔物でさえ手懐ける。
普通の動物になつかれるなど、造作もない事なのだ。
さて、これでよし。
番犬達を無力化し、微笑んだロジェはおもむろに、
正門に備え付けられた魔導ベルを押して鳴らし、訪問を報せたのである。
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