第44話「最後にひとつだけ、ロジェは質問する事にした」
オーク3,000体を軽く屠ったロジェは予定通り、
村を出てから約1時間後に赴くべき最後の町に到着した。
最初の町、次の村で経験を積み、仕事の手順にも慣れた。
郵便省の支局、C商会の支店と巡り、スムーズに業務をこなしたのである。
これで無事に帰還すれば、残金の金貨50枚を受け取り、今回の仕事は終了となる。
ロジェは、いつものようにこの町の特産品をアメリー達へのみやげとして購入する。
後はもうひとつ、ギルドの仕事ではないが、最後にやるべき事があった。
それは、この町の一般猫を束ねるファザーガッド、ナタンの部下、
小隊長の位にある妖精猫ケット・シーへの顔見せである。
ケット・シーの王ファザーガッドのナタンによれば、
そもそもケット・シーは、商隊や馬車荷便など人間の移動に便乗し、
他の場所へ行く事が多いという。
そしてナタンに命じられた部下たる小隊長ケットシーは、
赴いた地元の一般猫を支配下に置き、
その繰り返しでどんどんネットワークを広げて行くそうだ。
だが魔物や賊の襲撃により、シーニュ王国王都の馬車荷便がしばらく中止となったので、郊外にあるこの町へ赴いた部下は、行きっぱなしで、
王都へ戻る手立てがなかったのである。
それゆえナタンからは、ロジェがナタンの新たな主となった事、
部下が王都へ戻る意思の有り無しを尋ねて欲しいと頼まれたのだ。
ナタンが心の底から申し訳なさそうに頼んで来た事もあって、ロジェは快諾した。
どうせ、ギルドの仕事のついでである。
そしてナタンの作り上げる猫ネットワークは、
そのままロジェのネットワークにもなるし、利害は一致する
小隊長たる部下へロジェが直接顔見せをし、よしみを通じる事が今後に向け、
プラスになると判断したのである。
長きにわたり部下は王都に居るナタンとやりとりをしていない。
なので、現在何をしているのかは勿論、所在さえも不明だと言われた。
だが、ロジェには強力な探索のスキルがある。
部下が生きてこの町の中にさえいれば、所在を確かめるのはとても容易い。
そして索敵の効果により、この町の5㎞手前から分かっていた。
部下は生きており、元気にはしていると。
という事で、ロジェは仕事中から、部下の所在をつかみ、その動きを追っていた。
それゆえ速攻で、部下の居る場所へ最短ルートで移動した。
最短ルートはいっても転移、飛翔はさすがに使わないが。
そしてナタンの部下はといえば、路地奥で数多の一般猫達に囲まれていた。
何か相談話をしているように。
闖入者である人間ロジェの姿を見て、一般猫達は大いに驚き、
本能的というか蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。
しかし唯一残った少し大き目な黒猫――ナタンの部下ケット・シーだけは逃げない。
ふん!と鼻息荒く「人間なんか、鼻にもかけない」と傲岸不遜な態度で、
ロジェを完全に無視していた。
そんな部下へ、ロジェはいきなり念話で話しかける。
『おい、お前がファザーガッド、ナタンの部下ユーグか? 〇§ΦΨΘΔγ……』
ロジェはその呼びかけを二種類の言葉で告げた。
ひとつは勿論人間語だ。
そしてもうひとつは……魔族語だったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
いきなり念話で、それも人間語、魔族語で話しかけられ、
びっくり仰天したのは部下――ケット・シーのユーグである。
それまでの落ち着き払った態度が一変!
にゃあ、にゃあ、にゃあ、にゃあ、にゃあ、にゃあ、にゃあ、にゃあと鳴きわめく。
『ね、念話!? そ、そして魔族語うう!? お、お、お前!? な、な、何者にゃあ!?』
驚き噛みながら念話で質問をして来るユーグ。
ユーグは人間語をしゃべっているので、ロジェも人間語オンリーで話すと決め、
淡々と言葉を戻す。
『ユーグ、俺はナタンの新たな主、ロジェ・アルノーだ。ナタンと奴の配下ケット・シー100体、一般猫2,000匹には既に話がついている』
『な!? ナ、ナタン様が!?』
『ああ、ユーグ。お前がこの町に赴き、ケット・シーネットワークの構築をし、その後、馬車荷便の運航が中止となった為、王都と連絡がつかない。だから俺が仕事のついでにやって来たんだ』
『はあ!? お、お前が!? あ、主!? し、仕事のついでだと! そ、そんなの信じられにゃい!!』
ロジェの訪問趣旨を聞き、ユーグはまたも大いに驚き、
噛みっぱなしで話しつつ、訝し気にロジェを見つめる。
まあ、初対面の人間がいきなりお前達ケット・シーの主になったと言っても、
信用しない方が普通だ。
そういう場合もロジェは方法を考えてある。
『まずはユーグ、お前と会い、お前が無事にこの町で暮らし、ネットワークを構築している事をナタンに伝えよう。今回はそれで充分だ』
そう、とりあえずユーグとコンタクトを取り、
安否を確認した事だけ告げればOKと、ロジェは返したのだ。
『うぐぐぐ……』
そこまで言っても、ユーグはまだ信用出来ないのか、唸っていた。
しかし、もう用事は済んだ。
後は、王都へ帰還するだけ。
最後にひとつだけ、ロジェは質問する事にした。
『ユーグ、猫の集会とは良く聞くが、集まって何を相談していたんだ? ひどく緊張し、怯えていたようだが……』
そう、ユーグと一般猫達は集まり、緊張と怖れの波動を心から発していたのだ。
『お、お前には! 関係にゃい! な、何も話さにゃいぞ!』
やはりロジェを信用出来ないユーグは頑なである。
『分かったよ、じゃあ俺は王都へ帰る。お前の無事だけをナタンには言っておこう』
踵を返し、ロジェが立ち去ろうとした時、背後から声がかかる。
『ま、待てえ!! ナタン様にSOSをう!! つ、伝えてくれないかああ!! だ、大至急助けがいるうう!! この町へ来て欲しいんにゃあああ!!』
絞り出すように、声を張り上げ、ユーグは自身と猫達の窮状を訴えたのである。
いつもご愛読頂きありがとうございます。
※当作品は皆様のご愛読と応援をモチベーションとして執筆しております。
宜しければ、下方にあるブックマーク及び、
☆☆☆☆☆による応援をお願い致します。
東導号の各作品を宜しくお願い致します。
⛤『魔法女子学園の助っ人教師』
◎小説書籍版既刊第1巻~8巻大好評発売中!
《紙版、電子版、ご注意!第8巻のみ電子書籍専売です》
(ホビージャパン様HJノベルス)
※第1巻から8巻の一気読みはいかがでしょうか。
◎コミカライズ版コミックス
(スクウェア・エニックス様Gファンタジーコミックス)
既刊第1巻~5巻大好評発売中!
《紙版、電子版》
何卒宜しくお願い致します。
コミックスの第1巻、第3巻、第4巻は重版しました!
皆様のおかげです。ありがとうございます。
今後とも宜しくお願い致します。
また「Gファンタジー」公式HP内には特設サイトもあります。
コミカライズ版第1話の試し読みも出来ます。
WEB版、小説書籍版と共に、存分に『魔法女子』の世界をお楽しみくださいませ。
マンガアプリ「マンガUP!」様でもコミカライズ版が購読可能です。
お持ちのスマホでお気軽に読めますのでいかがでしょう。
最後に、
⛤『外れスキルの屑と言われ追放された最底辺の俺が大逆襲のリスタート! 最強賢者への道を歩み出す!「頼む、戻ってくれ」と言われても、もう遅い!』《連載中!》
⛤『冒険者クラン新人選択希望会議でドラフト1位指名された無名最底辺の俺が、最強への道を歩みだす話!』《完結済み》
⛤『帰る故郷はスローライフな異世界!レベル99のふるさと勇者』《連載再開!》
⛤『頑張ったら報われなきゃ!好条件提示!超ダークサイドな地獄パワハラ商会から、やりがいのあ
る王国職員へスカウトされた、いずれ最強となる賢者のお話』《完結》
⛤『異世界ゲームへモブ転生! 俺の中身が、育てあげた主人公の初期設定だった件!』《完結》
も何卒宜しくお願い致します。




