第42話「現物を見て気に入ったら、持って行ってくれ。この先、役に立つかもしれないからな」
懸賞金を受け取りに来るよう衛兵長から言われ、
ロジェは村の衛兵隊と一緒にランチを摂った。
この村の衛兵隊は専業ではなく皆、兼業で、本業があるらしい。
人口は約1,000人で男女半々だが、
性別関係なく40代以下が持ち回りで村の警護にあたるという事だ。
若干15歳でランクCとなったロジェのプロフを衛兵隊は知りたがる。
『抜け勇者』である自分の正体を、さすがに洗いざらい話すわけにはいかないが、
こうなる事も想定し、ロジェは説明用のプロフを考えてあった。
プロフのしょっぱなは、アメリーへ話した内容と同じである。
ロジェは自分が15歳……《実際は20歳なのだが》だと言い、
パピヨン王国の隣国キャナール王国の片田舎から、
魔王軍の侵攻による両親の死をきっかけに天涯孤独となり、
違う国で冒険者になろうと決意、長い旅をして来たと告げた。
用心深いロジェは、
「俺、キャナール王国出身者だが、そんな奴は知らないぞ」などなど、
万が一の突っ込みを考え、その場にキャナール王国出身者が居ない事を、
さりげなく事前に確かめてあった。
そして、ロジェは……
自分は長い旅路の果てに、シーニュ王国王都へたどりつき、
とある宿屋で暮らしながら、冒険者ギルド所属の冒険者となり、
今回の仕事を請け負ったと話す。
ロジェの経歴を聞いた衛兵長以下衛兵達は面白がり、
「何故若干15歳でランクCの準ランカーに認められたのか?」と、尋ねて来た。
……これも予想された質問である。
対してロジェは、
「ランク判定試験の模擬戦において、、剣聖と謳われる冒険者ギルドの上級ランカー、アルフォンス・カルヴェ様に、たったの1ポイントという、まぐれで勝ったのです。それで分不相応ながらランクCへ認定されました」
アルフォンソに許可を貰っているから、勝利を喧伝するのも問題はない。
剣聖アルフォンソの名は衛兵達も知っており、
たとえ模擬戦とはいえ「あの剣聖に勝ったのか!?」と驚かれた。
「1ポイント入れたら後は怖くて逃げ回っていました。勝ったといっても、タイムリミットに助けられたまぐれ勝ちなんです」
と言われたら、全員が爆笑。
……中でも特に衛兵長はロジェを気に入ったようである。
話したいオーラをバリバリ出し、ロジェへ話しかけて来る。
「ははははは! ロジェ君。君は剣聖に勝つ為にはどうしたらいいのかと事前に考え抜き、自分の特性を活かした作戦を立てたんだな」
「はい」
「そして、そのスピードを今回も活かし、賊の奴らに罠をかけた……という事だな」
「ですね」
「さすがだ! ロジェ君は、15歳にしては切れ者すぎるぞ」
「いえ、ほめ過ぎです。そんな事はないと思いますが」
「いやいやいや、たいしたものだ。この後、20㎞離れた町へ行くんだよな?」
「はい、そうです」
「で、今日はどうする?」
衛兵長は言い、詰め所の壁にかかった魔導時計を見る。
「遅い昼メシと、たくさんのおしゃべりでもう午後4時過ぎだ。これから出たら、途中で日が暮れるかもしれんな」
いや、大丈夫です。
20㎞の距離など転移魔法でほんの一瞬なんですよ。
飛翔魔法でもほんの数分、表向きの時速50㎞で走っても30分かからないですし。
なので、今から出発しても余裕で楽勝です。
……などと言いたかったが、ネタばらしとなってしまう。
さすがにカミングアウトは、まだまだ不可である。
やはり目立ち過ぎはまずい。
ここは常識的に行こう。
「はい、衛兵長様、おっしゃる通りです。自分は今日、この村へ泊り、朝早めに出発しようと思います」
そうロジェが答えると、衛兵長は満足そうに頷き、機嫌が最高に良くなったのか、
「ああ、それが賢明だ。良かったら、宿屋ではなく、俺の家に泊まるが良い。独身の一人暮らしだから、何の気兼ねも要らん」
と、笑顔で一夜の宿を提供してくれたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
対して、ロジェは一瞬考えたが、せっかくの申し出であるから、
衛兵長の厚意を受ける事にした。
「では、お言葉に甘えてお世話になります」
と返せば、先ほど貰った地図に印をつけて貰い、
衛兵長からは勤務の関係で夜6時に来るよう言われる。
少し時間が出来たので、ロジェは村内を見物する事にした。
この村の商店街は小規模である。
生活に必要な最低限の店があるという感じだ。
郵便省支局、B商会支店以外に、
様々なものを扱う『よろずや』的な店があったので、
先に赴いた町同様、アメリー達へおみやげを買おうと、
地元の名産品を数種類購入する。
これから訪問する衛兵長宅への『差し入れ』『晩御飯』も購入した。
懸賞金、金貨200枚という臨時収入があったので、懐はあたたかい。
更にいくつかの商店も見て回る。
そのうちのひとつが、衛兵長宅である鍛冶屋。
そう衛兵長は鍛冶屋との兼業で、村の治安を守っているのだそうだ。
衛兵長にはお世話になったから、在庫で何か良い武器があれば、
予備で買っておくかなどと考える。
村はそう広くないから、見物が終わるくらいに約束の時間となった。
先ほど見た鍛冶屋――衛兵長宅へ伺う。
「失礼しま~す! ロジェ・アルノーで~す!」
「おう! よく来たな。さっきも言ったが俺は独身の一人暮らし。何の気兼ねも要らねえ。自宅だと思ってくつろいでくれや」
「ありがとうございます。これ、てみやげです。衛兵長が晩酌の際、つまみにしてください。あと今夜の晩めしにと思い、弁当もいくつか買いました」
「おお、気が利くな。本当に15歳とは思えんぞ」
「ええ、一宿一飯の恩義ですから」
「ははははは。古いことわざを知ってるな」
そうだ、忘れないうちにと、
「衛兵長は、鍛冶屋さんですよね? これも良いご縁なんで、何か武器の在庫があれば買いたいんですが」
とロジェは申し入れた。
すると衛兵長は、
「ごめんなあ。残念ながら、俺はオーダーメイドで武器を作っていてな。完全予約制なんだ。なので在庫はないんだよ」
と苦笑した。
「そうですか、それは残念ですね」
とロジェ。
そんなロジェを見て、衛兵長はポンと手を叩く。
「ああ、そうだ! 思い出した! 以前、下取りで受け取った雷撃剣があるんだ!」
「雷撃剣?」
「ああ、魔力切れで使えなくなってるけどな。それなら、つまみとメシを買って来てくれた礼に、ロジェ君へタダでやろう」
「良いですね、それ、見せて貰えます」
「おう、さっき剣聖との模擬試合の話を聞いて思い出したんだ。現物を見て気に入ったら、持って行ってくれ。この先、役に立つかもしれないからな」
……という事で、下取りしたという雷撃剣を見せて貰うと、
確かに魔力切れしていて古めかしかったが、意外にも結構な逸品であった。
切れ味は良さそうだし、魔力を充填すれば充分に使えそうだ。
「これ、いただきます、おいくらでしょうか」
ロジェが改めて値段を聞くと、衛兵長は首を横へ振る。
「代金なんか、要らねえって」
何回も繰り返した押し問答の末、
衛兵長は、諦めたロジェへ無理やり雷撃剣を渡した。
……その後、ロジェと衛兵長は面白おかしく語り明かし、
夜は楽しくふけて行ったのである。
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