第39話「具体的には、ヒットアンドアウエイで行く。 それも致命傷を与える必要はなく、上手く罠にはめてやるのだ」
……街道からそれた荒れ地でたっぷり1時間、能力テストをしたロジェであったが、
魔導懐中時計を見て、そろそろタイムリミットだと思い、街道へ戻った。
ちなみに荒れ地から離れた場所に気配があった魔物どもは、
能力テストをするロジェへ全く近づこうとしない。
ロジェの持つ何かを感じたのか、怖れて遠巻きにしていたようである。
せっかくのテスト機会なのに、少々がっかり。
これでは戦闘訓練が出来ない……だが、時間もない。
ポジティブ思考のロジェは、
物理攻撃&攻撃魔法は、またの機会に使おうと思い直す。
でも、考えていた通り、この仕事は自分の裁量ひとつで時間を作れ、
自由にスケジュール管理が出来る。
単独行動をしつつ、自分の能力を確認し、磨く事が可能。
今の自分には本当に最適な仕事だと、ロジェは満足であった。
さてさて!
街道へ戻ったロジェは、たっ、たっ、たっと、
時速30㎞を少し超えたくらいで走る。
赴く最初の町までは、テスト前より更に進んで後9㎞。
王都からの手紙を届け、輸入品も含めた嗜好品を納品すると同時に、
手紙を回収し、出荷する地元の名産品などと関連書類を受け取る。
これらの作業をその次に赴く村、そして終点である最後の町でも繰り返すのだ。
……今回、受諾したのは派手さはない地道な仕事である。
魔王とその軍団を倒し、「世界を救う英雄だ」と称えられる勇者とは、
真逆なものかもしれない。
しかし、魔物や賊が原因で馬車荷便が中止され、人々は難儀しているはずだ。
自分が仕事をする事で喜ぶ人々が居る……そう思うとロジェはとても満足であった。
町までの道は順調。
相変わらず、魔物、賊は出現しない。
賊の方は分からないが、魔物はロジェの気配を感じ、本能的に怖れ、
遠巻きにしているような気配を感じる。
ホッとするような、少し不満のような、微妙な心持で走り続け、
ロジェは最初の町に到着した。
町の趣きは、小さな王都という感じ。
あまり高くない石壁と古びた正門がある。
いかつい中年男の門番へ、冒険者ギルド所属登録証を提示。
ギルド発行の配送便証明書も併せて見せる。
それらを見た門番は、笑顔でロジェを通してくれた。
ロジェはまず郵便省支部へ赴く。
……運んで来た手紙を渡し、町の人が書いた手紙を受け取る。
預かる小包みも若干ある。
それらと書類を収納の魔道具へイン……
次にひとつめのA商会の支社へ赴く
……運んで来た嗜好品を納品し、地元の名産品と書類を受け取る。
ちなみに、郵便省の支社は赴く3つの町村全てに存在するが、
クライアントである3つの商会は、全てに支社があるわけではない。
この町にはA商会、次の村にはB商会、最後の町にはC商会の支社があるとの事だから、間違えにくく、仕事がやりやすいのもロジェには嬉しかった。
久々にやって来た配送便を郵便省とA商会支社の担当者達は大歓迎してくれ、
「ありがとう」「助かった」と言われ、作業は終了した。
作業終了後、ロジェは、ひと休憩して、念の為、昼食も購入。
心地よい気分で最初の町を後にしたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
最初の町を出たロジェ……次の村までは約30㎞。
魔導懐中時計を見やれば、現在の時刻は午前11時少し前。
冒険者ギルド快速レベルと合わせて微調整するのならば、時速50㎞から60㎞で
到達したと思わせるのがベストだろう。
時間を多めに見て、午後0時くらいまでの到着予定で行く事にしよう。
そして、3つめ最後の町までは更に20㎞。
2時間作業して出発すれば、午後4時到着予定くらいとなる。
納品締め切り時間が間に合わなければ、
最後の町で1泊し、翌朝の納品で行けるだろう。
そんな事を考えながらジョギングレベル――時速10㎞超で走っていたロジェ。
街道から人影が消えたと見たら、速度を一気に上げ、70㎞で駆けて行く。
クリスに聞かれたが、ロジェの視力は超が付くくらい抜群である。
大鷲の数倍にもなる3㎞先の視認が可能だ。
当然、索敵はお約束の最大MAXで、
直径50㎞圏内の有機生命体を全て把握しており、
対象の感情までも察知出来るようになっている。
視認と索敵を存分に使いながら、ロジェは速度を上げ下げし、
走行距離と到着時間を調整した。
ん?
村の少し手前に索敵の反応がある。
人間の男どもで人数は30人か……殺気に満ちているじゃないか。
魔物や肉食獣どもは、人間よりも気配察知に長けている。
なので、凄まじい気配を発するロジェを避ける傾向があるようだが、
鈍感?な人間はそうは行かないらしい。
数を頼み、ロジェを含めた旅人、通行人を待ち伏せし、
金品を目当てに、襲おうとしているに違いなかった。
……ここでロジェは改めて状況を確認&整理。
最初の町を出てから次の村への30㎞のうち、既に20㎞以上は走破している。
という事は、次に赴く村まで残り10㎞を切っているから、早すぎる到着はNG。
それゆえ、ここからはスピードダウン。
「待ち受ける賊どもをどう処理しようか?」と考えながら、ゆっくりと歩く事に。
悪即斬で、剣でも格闘でも何でも構わないので30人を倒す。
……いやいや、強すぎると変な噂が立つから却下!
遠距離魔法で攻撃する。
……いやいや、生活魔法オンリーの冒険者が何故いきなり上位魔法が使えるのか?と
変に疑問を持たれるから却下!
……………………………………………………………………………………
……結論!
スピードと瞬発力が売りの『戦えるシーフ職』ロジェ・アルノーなら、
やはり、『蝶のように舞い、蜂のように刺す』華麗な戦い方をするしかないだろう。
具体的には、ヒットアンドアウエイで行く。
それも致命傷を与える必要はなく、上手く罠にはめてやるのだ。
……後は、敵の分析だな。
賊30人の中に魔法使いは居なさそうだが、
もう少し接近すれば視認も使える。
飛び道具の有無など、使う武器なども分かるだろう。
……よし! 考えはまとまったぞ!
大きく頷いたロジェは、面白そうに笑い、歩みを速めたのである。
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