第36話「そうか? 無骨&不愛想だが凄く良い奴だぞ。じゃあここへ召喚しよう」
結局……黒猫――ファザーガッドのナタンは、
白鳥亭までロジェとアメリーを先導してしまった。
そして「にゃお~ん」と鳴き、白鳥亭の軒先に鎮座してしまったのだ。
とりあえず母オルタンスと叔母バベットに報告せねばと、
出入り口の前でアメリーは声を張り上げる。
「お母さ~ん! バベット叔母さ~ん! 大変よお!」
「まあ、アメリーったら、どうしたの? ただいまも言わず。大変って」
「アメリーちゃん、また、かぎ爪団に絡まれでもしたのかい?」
「違う! 違う! そんなんじゃないの! ロジェ様と市場へ行った買い出しの帰り、街中で会った黒猫ちゃんがウチまでついて来てしまったのよ!」
「え!? ね、猫?」
「黒猫って……」
アメリーの声に誘われ、オルタンスとバベットが表に出てみれば、
相変わらず黒猫――ナタンは軒先にちょこんと座っていた。
「あら、本当だ」
「何か、ふてぶてしい猫ねえ」
という会話の後に、「この猫をどうしようか?」という話になった。
そんな声が聞こえたのか、ナタンは「ごろん」と転がり、
可愛らしく「にゃあ」と鳴いた。
「「「わあ! 可愛いっ!」」」
その姿を見てアメリー、オルタンス、バベットの声が重なった。
さすが自称愛玩動物ナンバーワン。
本当に女子の気持ちのツボを知る猫である。
策略に呆れるロジェをよそにして、女子3人はナタンを巡る『会議』を行う。
けんけんがくがくとしたやりとりの結果……
『迷いネコ《黒猫》預かり中』という張り紙をし、
しばらくナタンを預かる事になった。
当然飼い主など居ないので、嘘吐き以外に問い合わせがあるはずもない。
「預かっている間に、この黒猫が最近増えたネズミでも捕まえてくれたらありがたいけどねえ」
そんなオルタンスの声が聞こえたかのように、
ナタンは「任せて!」と言う様に、「にゃおん!」と鳴いた
「うふふ、頼むわね」
「頼もしいわね」
と、オルタンスにバベット。
そして既に心をつかまれているアメリーも、
「飼い主さん、居なければ良いなあ。そうしたらウチの子になれるのに」
などと言い出す始末。
猫にとって女子は全員『ちょろいん』かあ……と嘆息するロジェ。
ナタンの作戦は……見事成功したのである。
こうなると、ナタンとは再び相談し、ケルベロスと仲良くやる事を了解させた上で、従士に加えなければならないだろう。
ここまで考えてロジェはポジティブに発想を転換させる事にした。
ナタンとケット・シー100体&猫軍団2,000匹は王都では一大勢力。
猫は小回りがきき、情報収集に長けている。
犬だけでなく猫の従士を連れていれば、
元は勇者ラウルだろうと言われ、疑われる可能性も低くなると。
まあ、しょうがないか……
とロジェは女子達に甘えまくるナタンを見つめたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その日の深夜……ロジェは新たに『仮』従士となったケット・シーの王、
ファザーガッドのナタンを連れ、かぎ爪団の所持する無人の空き家に赴いていた。
空き家は施錠されているが、かぎ爪団のボスから使用許可を得て鍵を預かった上で、
転移魔法を使い、室内へ入っている。
空き家を一時的に借りたのは、街中で人目につかぬよう、
ナタンを先輩従士魔獣ケルベロスに引き合わせする為だ。
引き合わせして、ケルベロスに了解を得たら、
ナタンは『仮』が取れて正式にロジェの従士となる。
……ロジェが出した、従士になる為に実績を見せろという条件に対し、
ナタンは、自分の能力の開示をした。
スピード、俊敏性、瞬発力等々優れた身体能力と猫目を活かし夜戦にも強い戦闘能力、人間や一般猫に擬態し、言葉が話せる優れた変身能力などをアピール。
更に大勢の配下達を使った情報収集能力、
この世界の猫達を使った巨大ネットワークもアピールした。
以上を、ロジェに仕えながら実績としてあげて行くと。
対して、ロジェはあくまでも仮従士という形で認めたのだ。
そして事前にこのような会話が『念話』であった。
『おい、ナタン、お前が馬鹿にした犬、実は普通の犬じゃなく魔獣ケルベロスなんだけどな』
『へ!? ま、魔獣!? ケ、ケルベロス!?』
『ああ、俺の唯一の従士だよ』
それを聞いたナタンは、ハッとし……すぐに突っ込みを入れて来る。
『ケ、ケルベロスを従士に!? ま、まさか!? あ、貴方様は魔王を倒せし勇者ラウル様!?』
『ああ、俺ロジェ・アルノーの正体は勇者ラウル・シャリエだ』
『で、でも! 勇者ラウル・シャリエ様は、魔王討伐後、能力を喪失。パピヨン王国王都を追放され、出現したオーガキングに襲われ、亡くなったはずじゃあ……』
『ははは、パピヨン王国の王と王女に騙され、ただ利用されていると分かってなあ。能力喪失のふりをしたら、奴らが本性を現したんでひと芝居打ったんだ』
『ひ、ひと芝居って……ど、どうやって?』
『まあ、いろいろとな』
ケルベロスを変身の魔法でオーガキングに擬態させ、騙したと具体的に言えば、
一切合切を話さなければならなくなる。
魔王を倒した際、その能力を受け継ぎ、とんでもなくパワーアップした事は、
まだ教える必要はないだろう。
もっと信頼度が増してから、伝えるのか考えれば良い。
『……まあ、とりあえず死んだと思わせて、このシーニュ王国王都へやって来たんだ』
『そ、そうだったんですか……』
『俺は、たんなる便利屋、駒としてか使われないしがらみを断ち切り、5千キロ離れたこのシーニュ王国王都で人生をやり直すと決めた。その手助けをしてくれたのがケルベロスだ。リリースなんて出来るはずがない』
『そ、そうだったのですか』
『ああ、ナタン。先日も言ったがお前が俺の従士になる為には、いくつか約束して貰うぞ。それを守らなかったら、非常手段を取らせて貰う』
『ひ、非常手段!?』
『ああ、例えばだ、お前に禁断の魔法を施し、俺の事は一切忘れて貰う……とかな』
『え!? 私の記憶を消すって事ですか!?』
『ああ、そうだ。策を弄して、アメリーさん達に取り入る搦め手を使ったようだが、お前は俺との約束を守る前にずるい手を使った。フェアじゃないと思うぞ』
『うう!』
『だが、そこまでして俺の配下になりたいというその気持ちに免じ、今回だけは許してやる。但し、先輩の犬――魔獣ケルベロスと上手く折り合いをつけ、協力し合う。そして充分な実績を見せる。まずこのふたつはクリアして貰うからな』
『わ、分かりました!』
……という事で、ナタンはケルベロスに会う事となったのだ。
『さ、さすがに、め、冥界の門番に会うのは、き、緊張しますよ』
『そうか? 無骨&不愛想だが凄く良い奴だぞ。じゃあここへ召喚しよう』
ロジェはそう言い、召喚魔法を行使。
異界へ戻していた魔獣ケルベロスを呼び出したのである。
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