第35話「このまま、白鳥亭まで自分が先導して歩くつもりなのだ」
王都より数十から100㎞ほど離れた場所にある、
いくつかの町村への手紙配達の仕事。
王都から先方へ手紙を届け、逆に先方の手紙を王都へ持ち帰れば、
報奨金は1往復金貨5枚、つまり往復の距離が約200㎞で1往復金貨5枚である。
馬車荷便が魔物、山賊に襲われ、休止中となり、
まずは手紙だけでもと、冒険者ギルドへ依頼された案件である。
しかし手間がかかり、危険があるわりに、報奨金は激安。
引き受ける冒険者は皆無だった。
そこで、この依頼を聞いたロジェは、自身が所持する収納の魔道具を使い、
馬車便の代わりをする提案とともに、報奨金の大幅アップを申し入れした。
すると冒険者ギルド職員クリスは、一気に10倍の金貨50枚、
プラス危険手当金貨15枚を見込んでくれ、依頼主と調整をすると応えてくれた。
その調整に数日かかるので、その間ロジェは白鳥亭の手伝いをする事に。
事情を話し、手伝いを申し出たロジェに対し、白鳥亭の面々、
特にアメリーが喜んだのは言うまでもなかった。
……という事で、今朝も朝4時にロジェとアメリーは市場へ買い出しに。
最近のアメリーは何の遠慮も臆する事もなく、
当然のようにロジェとしっかり手をつなぎ歩いていた。
訪れた市場では、いじられ冷やかされてもアメリーは全く否定しなかったのである。
常にロジェを慈しみ、優しく思いやるアメリー。
ロジェもそんなアメリーがひたすら愛おしい。
もはやふたりは誰もが認める公認のカップルである。
そんなふたりに『事件』は起こった。
帰途、白鳥亭へ向かう通りにある民家の屋根屋根に、
数百匹にもなる数多の猫達が鎮座していたのである。
「あ、あら!? す、凄い数の猫ねえ!!」
大いに驚くアメリーの声に応えるかのように猫達は、
にやお、にゃお、にゃお、にゃおと、大合唱。
まるで、何かをねだるというか、嘆願するようなシュプレヒコールである。
「わあ、何? 猫ちゃんたち、どうしたの? 何か欲しいの? でも可愛い!」
と発するアメリー。
リアクションからすると結構な猫好きのようである。
例によって索敵を最大限MAXで張り巡らしいたロジェは気づいていたが、
猫達の中心には黒猫に擬態したファザーガッドのナタンが居た。
ナタンの周囲には、ケット・シーらしき猫達も相当数居る。
こうなるとナタン以下猫達の意図は明白。
ロジェに断られた『配下入りの再申し入れ』であろう。
アメリーは更に言う。
「う~ん。猫、可愛いし飼いたいなあ。それに最近ネズミの被害で困っていたし」
それも「将を射んとする者はまず馬を射よ」とばかりに、
アメリーの『猫好きと需要』を見透かしたかのように『搦め手』で来たに違いない。
と、ここで頃合いと見たのか、ナタンがぱっと身を躍らせ、くるっと華麗に1回転。
すたっと道へ降りて来た。
そして、とことことこと、ロジェとアメリーに駆け寄ると、
ごろんと転がり、可愛らしく「にゃあ」と鳴いたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
愛らしいナタンの姿を見て、思わずアメリーが、
「わあ! 可愛いっ! 黒猫ちゃんに癒されるう!」
と、声を張り上げた。
猫好きな女子にとっては、心のツボにはまるパフォーマンス炸裂!なのであろう。
寝転がったポーズのまま、
ごろごろごろと喉を鳴らすナタンは得意げに、
ロジェへ心と心の会話――念話で話しかけて来る。
『主! 例の件、一族郎党とともに、またお願いにあがりましたよ!』
しれっと言うナタン。
そんなナタンを見て、何も知らないアメリーは、
「ロジェ様、どこかの飼い猫なのか、のらちゃんなのか、分かりませんが、凄く人懐っこい猫ちゃんですねえ。そう思いません?」
「はあ、まあ、人懐っこいというのか、ずうずうしいというのか……」
「え? ずうずうしい?」
「……いえ、何でもないです」
更にナタンは、ぱっと起き上がると、引き続き喉を鳴らしながら、
アメリーの足元にすりすりした。
更に女子に対する可愛さMAXな猫パフォーマンス炸裂である。
とんでもないハートブレイカーな攻撃であり、
よほどの猫嫌い以外、抵抗するのは困難であろう。
「わあ! 本当に可愛いっ! 黒猫ちゃん、ウチに来る?」
思わずアメリーがそう言うほど、ぶりぶりのナタンは愛らしかった。
しかし、事の裏側を知るロジェは呟いてしまう。
「こいつ、本性隠して、文字通り、完全に猫かぶってやがる……」
「あら? ロジェ様、何かおっしゃいました?」
「言ってませ~ん」
そんな会話が続いたが、そのままナタンを連れ帰るほど、アメリーは常識知らずではなく、幸いというか現実的で冷静であった。
目の前でパフォーマンス炸裂な黒猫は、ノラではなく、
誰かの飼い猫かもしれないからだ。
「じゃあね、残念だけど、そろそろ私達帰らなきゃ、バイバイ、黒猫ちゃん」
アメリーがふんぎりをつけるようにそう言ったので、
密かにホッとしたロジェも小声で、
「永遠にバイバ~イ、黒猫ちゃん」
と言い、アメリーの手を取り、現場を離脱した。
しかししかし! 何と何と何と!
ナタンは「ぱっ」と駆け出し、ふたりの前に立つと、先頭を歩き始めた。
このまま、白鳥亭まで自分が先導して歩くつもりなのだ。
そう、ナタンは、白鳥亭の場所を知っている。
ここまでの展開を完璧に読み切り、作戦を立てたのに違いなかった。
白鳥亭についたら、オルタンスさん、バベットさんも抱き込み、
なしくずしに寝技に持ち込むと見た。
おいおいおい、さすがというか、そこまでして俺の配下になりたいのか?
……ナタンが考えたであろう策略に苦笑するロジェ。
一方アメリーは、元気に先頭を歩くナタンを大層可愛いと思ったのか、
「あらあらあら、黒猫ちゃんたら! 勇ましく歩くわねえ!」
「にこにこにこっ」と満面の笑みを浮かべたのである。
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