第27話「必ず生きて戻って来てくださいませ!!」
かぎ爪団全員をカタギにするセッテイングが終了したのは午後5時近かった。
そろそろ白鳥亭へ戻らないと、アメリーさん、オルタンスさんが気にするだろう。
それにかぎ爪団の妨害を終了させたから、
白鳥亭は宿泊希望客で混みだしているはずだ。
よし、『続き』は今夜以降だ。
この後、どうするのかという段取りも、ちゃんと考えている。
初仕事がまさか愚連隊の鎮圧とは、思わなかったが、
これからこのシーニュ王国王都でお世話になる恩返しだと思えば構わないだろう。
最後にロジェはかぎ爪団のボス以下へ念を押す。
「お前達、早速明日の朝から実行するんだぞ」
「へいっ! 了解です! ボス!」
という返事でロジェは撤収。
さっさと、白鳥亭へ帰還した。
時刻は午後5時過ぎ。
予想通りというか、かぎ爪団の妨害がなくなった白鳥亭は、入口に札が下がり、
『満室』となっていた。
ロジェは、
「ただいま、戻りましたあ」
と何事もなかったかのように、声を張り上げた。
しかし、
「……………………………………………………」
「……………………………………………………」
満室のせいで、オルタンスとアメリーは接客と夕食の準備にてんてこ舞い。
忙しすぎて、無反応、ロジェを構う余裕がない。
スルーされるのは仕方がないと、ロジェは速攻で部屋へ戻り、
借りている合鍵で開錠。
部屋へ入り、革鎧を脱ぎ捨て、エプロンを着ると、
部屋を出て施錠し、手伝いに加わった。
昨日手伝いに参加しているので段取りは分かっていた。
アメリーを手伝い、接客をしながら、
厨房のオルタンスも手伝う。
まさに大車輪の働きぶりである。
ロジェの加入は、オルタンス、アメリーの多忙さを著しく緩和。
ようやく会話が出来る余裕が生まれて、全員が笑みも浮かぶ。
そうこうしているうちに、オルタンスの料理も出来上がり、
ロジェとアメリーは厨房と食堂を往復しながらトレイにセッティングし、
てきぱきと配膳を行った。
……午後9時を回ると客達の夕食は終了。
3人は、がらんとした食堂で、やっと遅い夕食を摂る。
「ロジェ様、今日もありがとうございました」
「本当に助かりましたわ、ロジェ様」
「いえいえ、お安い御用です」
という会話から、オルタンスがしみじみと言う。
「アメリー、今日は昨日と違い、夕方の出足が悪かったけど、急にお客が増えたよ」
「ええ、お母さん、結局、今日も満室になったよね」
という母娘の会話。
どうして、夕方は客の出足が悪かったのか?
それは、かぎ爪団の妨害があったからである。
しかし、オルタンスとアメリーはその事実を知らないようだ。
で、あれば余計な事を言うのは愚の骨頂。
多分だが、懲らしめたから、二度とかぎ爪団は悪事を働かない、
つまり今日のような妨害は二度とない。
アメリーが思い出したように言う。
「そういえば、ロジェ様は今日、冒険者ギルドへ行かれたのですよね? 結局、正式な冒険者には、おなりになったのですか?」
「そうそう、私も気になっていたのですよ」
とオルタンス。
……どう言おうか、ロジェは少し迷った。
だが、結局シンプルに所属登録証を見せる事にした。
「ええ、何とか。これが所属登録証です」
ロジェが出した所属登録証を見て、
「え!? ええええ!?」
「う、う、うそ!?」
アメリーとオルタンスは、大いに驚いたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「い、いきなり、ラ、ランクC!? そ、そんな!?」
絶句するアメリーに続き、オルタンスも、
「ええ、いきなりランクCなんて凄いですね、ロジェ様は」
と感嘆し、
「アメリーの話を聞き、お強いとは思っていましたが、『冒険者』という職業に関しては、全くの初心者ですよね?」
と尋ねて来た。
対してロジェは、
「はい、冒険者に関しては初心者です。故郷に居る時、そこそこ体は鍛えていましたが、飲食店の他、荒事には無縁の仕事ばかりでした」
そう、しれっと答えた。
……これは半分が本当で半分が噓。
創世神の啓示を受けるまで、ロジェ――ラウル・シャリエは、パピヨン王国の片田舎で、飲食店の従業員やもろもろの雑用をし、生計を立てていたから。
両親をはやり病で亡くし、天涯孤独のラウルは生きて行く為に、
必死だったのだ。
しかしある日創世神教会で啓示を受けてからは、日々魔王軍との戦いに明け暮れ、
最後は魔王以下を全て討伐……一騎当千と謳われる勇者となった。
ロジェの言葉を聞き、オルタンスは話を続ける。
「実は私の夫……アメリーの父も冒険者だったんです。依頼遂行中に不慮の事故で亡くなりました」
「そうだったんですか……」
……ロジェが冒険者になると聞いて、アメリーが落ち込み、
元気をなくしていた理由が分かった。
「夫は25年以上頑張りましたが、40代でやっとランクCでした。しかし必死に働きお金を稼いでくれ、この白鳥亭を残してくれました。私の自慢の夫、アメリーにとっても誇らしい父親だったと思います」
オルタンスの言葉を聞き、アメリーも同意し、頷く。
「ええ、私……亡くなったお父さんが大好きでした。優しくて強くて……自慢のお父さんだったんです……それがいきなり居なくなるなんて……凄くショックでした……」
「……………………………………………………」
ロジェは無言であった。
上手く慰める言葉が見つからない。
「ですから! ロジェ様! 絶対に命を大事になさってください! 依頼を遂行出来なくても構いません! 逃げてもいいんです! 必ず生きて戻って来てくださいませ!!」
絞り出すように声を震わせるアメリーの言葉を、
ロジェはじっと聞いていたのである。
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