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第23話「まあまあ、良いじゃないか、そんな事は」

冒険者ギルドを出たロジェは、足取りも軽やかに歩き出した。


理由は、はっきりしていた。


ポケットには発行されたばかりの冒険者ギルド所属登録証があるからだ。


何故、ここまでロジェが喜ぶのか、補足しよう。


この世界における冒険者ギルドは、

半官半民的ともいえるワールドワイドな組織である。


ギルドの所属冒険者は、いくつか加盟していない国を除き、ほぼ世界各国において、

この所属登録証を提示すれば、身元をとがめられず自由に活動する事が可能である。


いわば、この所属登録証は国際的な身分証明書として大いに信用があるものなのだ。


極端な話、この所属登録証を携帯して行けば、

故国のパピヨン王国でさえも怪しまれる事はない。


しかも、所属登録証の所持メリットは身分証明だけにとどまらない。


入国や都市町村へ入る際、税金の無料や軽減などもあるし、

冒険者ギルドと提携している数多の店では優遇措置が受けられる。


勇者と魔王の能力があっても、人間社会で生きて行く事を選んだロジェにとって、

冒険者ギルド所属登録証は、必須のアイテムなのである。


さてさて!

魔導懐中時計を見れば、午後3時前。

午後4時以降の『ラッシュ』になる前にギルドを抜けて来てラッキーだった。


使う一方で手持ちの金は残り少なくなっているのだが、

今日はこのまま宿――白鳥亭へ戻り、報告がてら手伝いでもしようかと思う。


そんな事を考えていると、


『おい! お前、ちょっと待て!』


という声がロジェの心の中に響いた。


これは、心と心の会話、『念話』である。

誰かがロジェの心に話しかけているのだ。


しかし『殺気』がないので、ロジェは身構えたりしない。


『誰だ?』


ロジェの視線は、とある民家の屋根に向けられた。


そこには1匹の黒猫が居た。


黒猫が念話で話している……

そう、黒猫は普通の猫ではなく猫の魔物ケット・シーである。


補足しよう。


ケット・シーは黒猫の姿をした妖精族であり、人語を操る。

時には衣服を着たり、直立二足歩行も可能であり、

そして独自のネットワークと王国を持っているという。


普段はノーマルな猫の姿をして人間の街で暮らしているが、

決してその正体を悟らせることはない。


なので、ケット・シーの方からわざわざロジェへ話しかけて来たのは、

極めて異例だ。


ロジェは黒猫――ケット・シーを見据え、話しかける。


『何だ? お前はケット・シーか。俺に何か用なのか?』


『ああ、用は今出来た』


『へえ、面白いな。今、用が出来たのか?』


『そうだ! 人間の癖に念話を使うなんて…………やっぱ、お前只者じゃないな。見かけは普通のガキなのによ』


『そっか、お前、念話が使えるのか、俺を試したんだ』


『ああ、もしやと思い、念話で話しかけた。わざと出力を抑えてはいるが、お前の体内魔力量は尋常じゃねえからな』


『ははは、ばれちまったか』


ロジェが苦笑すると、屋根の上から念話で話しかける黒猫――ケット・シーは顔をしかめ、


『それにどうなっているんだ? お前の放つ魔力は、すっごく変なんだよ!』


そう、吐き捨てるように言ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


(はた)から見れば、

冒険者の少年と黒猫が見つめ合っているようにしか見えない。


しかし両者は、心と心の会話――念話で言葉を交わしている。


『へえ、俺の魔力のどこがすっごく変なんだ?』


『お、おう! ズバリ、お前の魔力には、清らかな聖と汚濁の邪が混ざり合っている! 不思議というか、カオスな底知れない魔力だ! 俺は500年生きて来て、こんな魔力に出会った事はねえ!』


『ほうほう、聖と邪が混ざり合った? 不思議というか、カオスな底知れない魔力かあ……成る程な』


勇者ラウル・シャリエとして、魔王を倒し……

その魔王の能力も受け継いだら、魔力の波長もそのように変わってしまうのか。


うんうん……勉強になった。


しかし、ケット・シーの言葉にも気になる部分があった。


『よし、ではこちらからも聞こう。お前は500年生きていると言ったな?』


『ああ、そうだ。つい口が滑ったが、俺は生を受けてから約500年……生きている』


『そうか。普通のケット・シーはな、生きてせいぜい200年くらいの寿命なんだ。俺が変だという癖に、お前も普通のケット・シーじゃないな?』


ロジェがいきなりそんな事を言い、尋ねるのが想定外だったのだろう。


ケット・シーは、虚を衝かれたという雰囲気で驚いた。


『な、なに!?』


『お前は今、普通の黒猫に擬態しているが、他にも隠し持ったいろいろな能力がある』


ズバリ、という感じでロジェが突っ込むと、ケット・シーは呻く。


『う!?』


『……そうか、分かったぞ! お前、ケット・シーの王ファザーガッドだろ?』


ケット・シーを統括する王を称し、ファザーガッドという。

正体は上位種のケット・シーだが、1,000年近く生き、様々な魔法を行使する。


どうやら、ロジェの言う通りだったようだ。


ケット・シーは完全に動揺している。


『な、何故!? わ、分かった!? お、お前、本当に何者なんだ!?』


『まあまあ、良いじゃないか、そんな事は。これからは互いに不可侵という事で上手くやろう。よほどの事がなければ、俺はお前達、猫のテリトリーには踏み込まないからさ』


ロジェはそう言うと魔導懐中時計を見た。


時刻は午後3時15分、結構話し込んでしまったらしい。


『じゃあな、ファザーガッド。俺はもう帰るから』


『………………………………………………』


屋根の上で呆然とするケット・シーの王ファザーガッドをそのままにし、

ロジェは手を振り、歩き去ったのである。

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