第22話「当分の間、ソロプレイヤー行くと決めていますので、俺のプロフは非公開でお願いします」
闘技場を出たロジェは、真っすぐ本館ロビーに向かわず、冒険者ギルドの食堂で、
お茶を飲んで約30分ひと休み。
午後2時前に本館ロビーへ移動。
ロビーのソファに座り、ひたすら待った。
しばらくすると、覚えのある気配が近づいて来た。
視界にも飛び込んで来る。
冒険者登録の手続きを受け付け、手配してくれた業務課職員、
クリスことクリストフ・ジュベルである。
座っていたソファからロジェがすっくと立ちあがると、
駆け寄って来たクリスが声を張り上げる。
「ロジェ・アルノーさん! たった今、連絡が来て、ランク判定が出ましたよ。所属登録証を渡し、更に付帯説明を行いますから、業務カウンターまで来てください」
アルフォンソ試験官達から、判定結果の連絡が来たのであろう。
「はい、分かりました」
「ちなみに、今すぐ、私と一緒に来れますか?」
「はい、今すぐ行きます」
……という事で、ロジェはクリスとともに業務部職員達が陣取るカウンターへ。
クリスの席へ誘われ、お互いの席に座ると、開口一番。
いきなり、クリスの声が数オクターブ上がる。
表情はあまり変わらないが、結構な興奮状態なのが彼が放つ心の波動で分かる。
「ロジェさん! ランク認定、おめでとうございます!」
「はい、ありがとうございます」
「何と何と! 驚いた事に! ロジェさんは、準ランカーのランクCに認定されましたよ!」
「え? 俺? いきなり準ランカーのランクC……なんですか?」
「はい! 全くの素人がいきなり準ランカー! これはあまり例がない凄い事ですよ!」
ここで補足しよう。
冒険者ギルド所属の冒険者達は、下からランクF、E、D、C、
そしてランカーと呼ばれる上級冒険者B、A、
更にレジェンドクラスのSという序列が定められている。
ちなみにロジェの本体?勇者ラウル・シャリエは、
当然レジェンドたるランクSを授けられていた。
話を戻そう。
今回ロジェは、準ランカーとも呼ばれるランクCに認定されてしまった。
驚くロジェへ、クリスは言う。
「はい、ロジェさんは、ランクAの剣聖アルフォンス・カルヴェ様へ一撃を入れ、全ての攻撃を躱し、1ポイントで時間切れとはいえ、勝利を収めたんです。ランクCの評価は当然だと思いますよ」
「な、成る程」
驚いた後に、戸惑うロジェ。
いきなりランクCに認定されるとはだいぶ計算違いだ。
どうやらアルフォンソへの『持ち上げ』が効き過ぎたようである。
ここでロジェはハッとした。
原初の魔王の『遺言』を思い出したのだ。
思い当たる事があった。
継承した魔王の能力には巧みな話術を発揮する『弁舌』が、
そして好感度アップ効果がある『人たらし』などの交渉スキルがあったのだ。
多分それらが自動的に発動したに違いないと。
むむむという雰囲気のロジェを見て、クリスは首を傾げる。
「あれ? ロジェさん、とんでもなく凄い事なのに、あまり嬉しそうではないですね」
「はあ、クリスさん、嬉しそうではないというか、意外ですから」
「ほう、意外とは?」
「はい、アルフォンソ試験官へ一撃を入れた後は、俺、ひたすら逃げていましたから。なのでランクEあたりが妥当かと思っていました」
ロジェの言葉を聞き、クリスは笑顔。
「いやいやいや、却ってそれが良かったんですよ。今回はロジェさんのスピードと敏捷さが大いに評価されての結果ですから」
成る程。
アルフォンソ試験官もそう言っていたっけ。
「では、ロジェさん、これが冒険者ギルド所属登録証です」
クリスがそう言い、ロジェへ差し出したのはミスリル製の薄いカードで、
表面にはロジェ・アルノーという氏名とともに、
ランクCという大きな文字が記されていたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
所属登録証を受け取ったロジェに、クリスは付帯説明を行う。
ロジェの希望通り、『シーフ職』として登録した事。
アピールポイントである『戦える』旨は、
プロフィールに戦闘可能、そして生活魔法も行使可能と記載されている事。
「冒険者基礎講習において、冒険者の1日と暮らしという説明で、ほぼ理解していると思いますが、念の為、改めて説明します」
「ありがとうございます」
「まあ、講習よりもだいぶ、はしょりますけどね」
とクリスは微笑みながら、改めて話してくれた。
……はしょると言いながら、クリスの説明は簡潔明瞭で分かりやすかった。
カウンターが混雑する時間帯、朝夕方の『ラッシュ』の話もしてくれた。
「ラッシュで思い出しましたが、残念ながら準ランカー以下の冒険者は、特例以外に指名依頼は認められていません。これはトラブル防止の為です」
ここで再び補足しよう。
指名依頼とは、例えばクライアントがぜひロジェに遂行して欲しいと、
受諾冒険者を指定するものである。
指名依頼を認めるのがランクB以上のランカーである理由は、
完遂率が、中堅以下の冒険者の場合著しく低下。
冒険者ギルドの信用にかかわるからである。
さしたる理由もなく受諾した依頼を放棄するとペナルティが課せられるが、
無責任な冒険者は、そのまま逃亡してしまう場合もある。
だが、ランカーともなれば、身元も殆どしっかりしているし、実績もある。
そんな無責任な者は極めて少ないのだ。
「しかし、ロジェさん、準ランカーには、文字通りランカーに準ずる良質な依頼案件を、ギルドから優先的に案内します。私に任せて頂ければ、つまらない雑用などは皆無ですね」
「成る程、助かります」
「それともし、どこかのクランに所属希望であれば、ロジェさんのプロフを限定公開し、ギルドが、メンバー募集中のクランと交渉しますよ」
……このクリスの提案は、ロジェの選択肢に入っていない。
「お気遣いありがとうございます。ですが、当分の間、ソロプレイヤーで行くと決めていますので、俺のプロフは非公開でお願いします」
ソロプレイヤーで行く理由ははっきりしていた。
勇者プラス魔王という自分の能力を存分にテストする為だ。
凄まじい能力を、第三者の目に触れられたくないのである。
「分かりました。ではプロフへ記載しておきます。ロジェさんは、当分の間、ソロプレイヤーで行くと……では気が変わったら、言ってくださいね」
……その後もいくつか説明があり、クリスの話は終わった。
ロジェは、依頼候補のチョイスだけをクリスへ頼み、
冒険者ギルドを後にしたのである。
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