第17話「よし! 思った通り、良い人だ」
「いってらっしゃいませ! お気をつけて!」
冒険者ギルドへ出かけるロジェをアメリーは、母のオルタンスと並び、
笑顔で見送った。
アメリーの表情には、先ほどの憂いはない。
ロジェは安堵し、同じく笑顔で、
「行って来ます!」
と元気に言い、歩き出した。
歩きながら、ロジェはつらつらと考える。
……先ほどアメリーの表情が曇ったのは、冒険者という言葉を発してからだと。
そういえば、亡くなったアメリーさんのお父さんは冒険者だったと聞いている。
どのような形で亡くなったのかは、彼女が話したくないような雰囲気だったので、
それ以上は聞かなかった。
「……やはり冒険者におなりになるのですね……とても危険ではないでしょうか? かぎ爪団をひとにらみで追い払うロジェ様の強さは充分、分かりますが……」
「絶対に無理をしてはいけませんよ。いざとなったら逃げたって構いません。依頼を完遂出来なくても構わないんです。生き残り、無事で帰って来る事が第一ですから」
このような言葉から、冒険者イコール危険な職業。
依頼完遂よりも命が大事……というアメリーの考えが浮かんで来る。
もしかして……
依頼遂行の最中に、アメリーさんのお父さんは命を落としたのだろうか?
もしそうなら、慰めたいとは思うが、
無理に聞き出して、彼女を傷つけたくないと思う。
アメリーを気遣いつつ、発言と行動には充分注意しようとロジェは決めた。
特に危ない行動を匂わせる事は、厳禁であると。
白鳥亭から、冒険者ギルドまでは徒歩で約10分の距離。
ロジェが速足で歩くと、半分以下の時間でついてしまう。
なので、到着したのは白鳥亭を出て、たったの5分後、午前9時30分であった。
この時刻に合わせて来たのは計算通り、
多分、ギルドの『ラッシュ』からは外れている。
スムーズに冒険者登録の手続きをする事が出来るだろう。
建物を見やれば、冒険者ギルド、シーニュ王国王都支部は、
パピヨン王国王都支部とは趣きが違う。
しかし、建物の外観は変わっていても、内部の仕組みは世界共通、
それが冒険者ギルドである。
1階には受付カウンター、業務カウンター、大掲示板、ロビーという仕様。
ちなみに冒険者達が押し寄せるのが、業務カウンター。
各窓口にはギルド職員が座っており、依頼の受付。
また完遂報告を受け、報奨金の支払いを行うのである。
ここで補足しておこう。
ランクB以上の冒険者をランカーと呼び、上級冒険者として業務担当者がつく。
更にランクA以上は専任の業務担当者がつくのだ。
担当者がつく上級冒険者は、一般冒険者と違い業務カウンターではなく、
応接室で打合せをしたり、個室を与えられる事もあるようだ。
今のロジェの実力ならば、いきなりランクAに認定されるなど楽勝。
しかし、そんな目立つ事をすれば、大注目を浴びてしまう。
最終的には、ランクAになるだろうが、それはほとぼりがさめた時。
しばらくは、おとなしく中堅冒険者のままでいよう。
そうロジェは考え、業務カウンターへ向かったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ロジェの予想通り、支部の本館内に人影はまばら。
業務カウンターも、ガラガラである。
担当して貰う職員も選び放題?だ。
こういう時概して、若い男子冒険者は、綺麗で可愛い職員の居る窓口に突撃する。
何か機会を作り、特別に親しくなりたいと願うもの。
しかし、アメリーに充分癒されているロジェは、がつがつしていない。
真面目そうな20代前半と思われる男子職員が座る窓口へ進んだ。
職員が発する心の波動で判断し、真摯に業務に邁進、融通がきき、
秘密も厳守してくれる者を選んだのである。
これも能力テストの一環である。
ちなみに、原初の魔王からは、念話の延長で読心も可能であると告げられたが、
さすがにまだ、他人の心を読むまではしていない。
全ての能力がそうなのだが……
ロジェが決めた『外道に堕ちるボーダーライン』を越えなければ、
臨機応変に使用すると決めていた。
まずロジェはあいさつする。
あいさつは笑顔で元良く、はっきりとがモットーである。
「おはようございます!」
対して、ロジェの期待通りに男子職員も、
「おはようございます! いらっしゃいませ! ようこそ、冒険者ギルドへ!」
と、さわやかに返して来た。
そして更に言う。
「さあ、どうぞ、その椅子におかけください」
「はい、ありがとうございます。失礼します」
言葉に従い、ロジェがカウンター前の椅子に腰かければ、男子職員は尋ねて来る。
「本日はどのような御用でしょうか? お気軽に何でもご相談ください。」
男子職員の発する心の波動は変わらない。
自分より遥かに年下の少年であるロジェを、上から目線で見下したりせず、
態度も言葉も丁寧である。
よし!
思った通り、良い人だ。
腹黒い王と王女から酷い目に合わされたから、これからは自分を大切にしてくれる人と関わりたい、そう切にロジェは願う。
「初めまして、自分は、ロジェ・アルノーと申します。15歳です」
……ようやくロジェの名を名乗るのにも慣れて来た。
改めて『新しい人生』を歩んでいるのだと実感する。
「ロジェ・アルノーさんですか? 15歳なんですね」
「はい、遥か遠くにあるキャナール王国の片田舎から、魔王軍の侵攻による両親の死をきっかけに天涯孤独となり、違う国で冒険者になろうと、長い旅をして来ました」
アメリーにも説明した、第二の人生を歩く為のプロフを説明したら、
男子職員は、沈痛な面持ちとなった。
「おお! キャナール王国から、魔王軍の侵攻による両親の死をきっかけに天涯孤独となり、違う国で冒険者になろうと、長い旅を……ですか? それはそれは大変でしたね、お気の毒に。ご両親のご冥福をお祈り致しますよ」
男子職員は目を閉じ、手を合わせ、黙とうしてくれた。
気遣いもちゃんと出来る人なんだとロジェは感心した。
しばし経ち、男子職員は目を開けると、
「遅ればせながら、自己紹介をさせて頂きます。初めまして、私は冒険者ギルドシーニュ王国王都支部の業務課職員クリストフ・ジュベルと申します。クリスと呼んでください」
「業務課のクリスさん……ですか」
「はい、念の為、確認ですが、ロジェさんは冒険者登録をご希望なのですよね」
「はい、そうです。自分は冒険者になりたいんです」
「分かりました。ギルドの規定では15歳から冒険者になれますから、特に問題はありません。では早速これから行う手続きのご説明を致しますね」
クリストフ・ジュベル……ギルドの男子職員クリスは、何枚もの書類を出し、
ロジェへ渡したのである。
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