第13話「もしかしたら、自分の悪運の強さが、満員の客を呼び込んだ?」
「お夕飯が出来たら、お呼びしますね」
と言い、深くお辞儀をしたアメリーは、部屋を出て行った。
部屋にひとりとなったロジェ。
はああああ、と、大きく息を吐いた。
立てた1日の予定を全てクリアしたロジェは安堵感と解放感に満ちあふれ、
ベッドに寝転がり、手足を広げ、大きく伸びをした。
本当に、いろいろな事があった。
状況が凄く激変している。
俺は確かに魔境で魔王とその軍団をしっかりと倒したんよな?
と自問自答した。
なのに……何故こうなってしまったのだろう?
パピヨン王国から頼まれた世界を救う大仕事は……
『勇者』として、しっかりやり遂げたはずだ。
意気揚々と凱旋してパピヨン王国王都へ帰り、約束通り、褒美を貰い、
婚約者のマルスリーヌ王女と結婚。
人々から『英雄』として感謝され、故国で幸せに暮らすばかりだと思っていたのに。
……否、俺がとんでもなく間抜けで、大馬鹿だったのだ。
マルスリーヌ王女のうわべだけの美しさと甘言に、簡単に騙されたのだから。
でも、従士たる魔獣ケルベロスの忠告を素直に聞いて実行し、
試してみて本当に良かったと思う。
ケルベロスの言う通り、勇者の能力を喪失したふりをし、
マルスリーヌ王女の愛を確かめたら……
「お前には、もう利用価値がない」とばかりにあっさりと婚約破棄された。
醜い表情で別れを告げる彼女の冷酷な本性を知り、
ようやく目が覚め、王都を出れた。
王と王女は最初から、
勇者となった平民の俺を身内にする気などなく、
散々利用した挙句、ポイ捨てするつもりだったに違いない。
否、あの鬼畜父娘は捨てるだけじゃなく、俺をこの世から消そうとまでした。
奴らの命令で、冒険者に変装した騎士達の追手を受けた。
だが、ケルベロスの協力もあり、オーガキングに喰い殺されたと思わせ、
転移魔法を行使し、国外へ脱出。
生きている事がばれないよう、変身。
姿を20歳の青年から、15歳の少年に変え、
何回か、転移を繰り返し、
約5,000㎞離れた、このシーニュ王国王都へたどりついた。
何も悪い事をしていないのに、冷たく故国を追われたばかりか、殺されそうになり、
今は別人になりすまして、遥か遠い他国の宿屋に居るなんて……
全く現実感がなかった。
人の運命なんて全くわからないものだと、ロジェはしみじみ思う。
まあ、良い。
悩むのもここまでだ。
くよくよするのはやめた。
過去は振り返らない。
前向きに生きて行こう。
ロジェは改めて決意する。
勇者と魔王の能力を存分に使い、
己の人生を、いちからやり直そうと。
さてさて!
夕食まではまだ時間がある。
午後6時から夕食と言っていたから、時間少し前に彼女は来てくれるはずだ。
魔導懐中時計を取り出して見れば午後5時少し前。
後、1時間弱か。
ロジェはパピヨン王国王都で購入したもの、
このシーニュ王国王都で購入したものを合わせて整理する事にした。
先ほど老店主の店で買った収納の腕輪へ、全ていっしょくたにして放り込んだから。
ここまでした買い物は、ばっちり。
宿で暮らしながら、冒険者稼業を始めるにあたり必要なものは購入したはずだ。
一旦ベッドの上に並べてから整理整頓。
使い勝手の良い剣スクラマサクス、革兜付きの革鎧、
盾にも武器にもなるバックラー、ひのきの棒もそのまま使う。
平民服3着、肌着若干、靴2足、魔法ポーション、薬草各種若干。
魔導懐中時計に、魔法水筒、リュックサックがふたつ。
体力回復、怪我の治癒、状態回復の魔法は勇者の時から使えたが、
魔王の能力が加わり、相当ビルドアップしているはず。
自分自身のケアには魔法、スキルを使い、ポーションと薬草は節約しよう。
そんなこんなで、整理整頓が終わった。
当座使わないものを、ロジェは再び収納の腕輪へ放り込んだのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
……午後6時を過ぎた。
しかし、アメリーは呼びに来ない。
ただ荷物の整理をしながら気づいていたが、白鳥亭に客の気配が著しく増えていた。
アメリーが呼び込みをするくらいだから、
ロジェが来た時は、そんなに混んでいなかったはずだ。
もしかしたら、客の対応に追われ、
多忙過ぎて、自分を呼びに来る時間もないのではと考える。
よし!
……とりあえず1階の食堂へ行ってみよう。
ロジェが泊まっているのは2階である。
階段を下りて、食堂を覗くと……何と何と満席である!
アメリーはといえば、席の間を飛び回り、てんてこまいの接客中。
もしかしたら、自分の悪運の強さが、満員の客を呼び込んだ?
であれば、ロジェにも責任の一端がある。
どうせ満席だし、すぐに食事は出来ないだろう。
手伝おう!と決めた。
ロジェはパピヨン王国王都に出て来る前、故郷において、
飲食店で働いていた経験があった。
調理も接客もどんと来いである。
少し勝手は違うかもしれないが、基本的にはこなせるはず。
幸い、料理は決まった定食の一種類のみ。
運ぶくらいなら、問題なく出来るだろう。
つらつらと考えていたら、アメリーと目が合った。
彼女は申し訳なさそうに一礼する。
「呼びにいけなくて、ごめんなさい」という心の波動も伝わって来た。
とここで、
「アメリー! 料理が上がったよ! すぐ取りに来て運んで頂戴!」
母オルタンスの呼ぶ大きな声がして、アメリーは急ぎ厨房へ。
それを見たロジェも厨房へダッシュ。
そして、料理を渡し、運ぼうとするオルタンス、アメリー母娘へ、
「俺! 料理を運ぶのを手伝います!」
と、声を張り上げたのである。
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